102話 自分勝手
~ジョナサンSIDE~
「マーリオゥ、後は任せたわよ」
そう言ってイーリスは大我を連れて空の彼方へと飛んで行ってしまった。
「待てイーリス!」
それを追おうとするローレンス…だが。
「待ちなさいローレンス!こっちには非戦闘員が二人もいるのよ!いえ、私もラミアス相手じゃ役に立てないだろうから、実質三人ね!そんな中で唯一戦えるアンタが抜けたらどうなるかなんて火を見るよりも明らかでしょ!?少し落ち着きなさい!」
「悪いが私にとっては大我が最優先だ!」
「本気で言ってんのアンタ!?」
向こうは向こうでなにか忙しいらしい…。
今の内に移動するとしよう。
「行くぞマーリオゥ」
「ああ」
「待てやコラ…」
俺たちを制止したのは、先程大我と戦闘をしていた厳つい男だった。
「なんだ?」
「騙し打ちなんてつまんねぇことしやがって…!しかも、あの様子じゃ坊主はお前さんのことを随分信頼してたんだろ?それをわかっていながら、利用して騙し打ちだぁ…?男の風上にも置けねえなあ!」
そう言って殴りかかって来る男の攻撃を、俺はゴーレムを使って難なく防ぐ。
「チッ!厄介な異能だな!」
「悪いが俺は負けるわけにはいかないんだよ…。アイツが…あの悪魔が、俺が勝てば家族を生き返らせてくれると…そう約束してくれたんだから…!」
そうだ…だから俺は決めたんだ…。
どんな手段を使ってでも、必ず勝つと…!
「だから、手段は選んでいられないんだよ!だってこの戦いは!」
願いを叶えるための戦いなんだから!
*****
数時間前…。
「嘘だ…。嘘だ嘘だ嘘だ噓だ噓だ!!リディー!!!」
フラッシュの剣に胸を貫かれたリディに駆け寄る。
瞳から光が消えたように見えたが、きっと間違いに決まっている!
そうに決まっている!!
「リディ!リディ目を覚ませ!!」
呆然と立ち尽くしていたフラッシュを押し退けて、リディの元へ駆け寄り声を掛ける。
だがおかしい…リディは俺の声に微塵も反応しない…。
それどころか、目を見開いたまま、微動だにしない…。
これじゃあまるで…。
「あらあら…。もう死んでしまっていることにすら気づいていないのかしら?哀れね?」
宮古桃が、可笑しくて仕方がないといった様子で俺へと声を掛けてくる。
死んだ?
リディが?
「なに言ってるんだ…?リディが死ぬわけ…!」
「死んでるのよ!わからないの?そこにいる〈閃光〉が殺したのよ!私の罠にハマってね!!あー、本当に最高だったわ!これも大我君を救おうとしていた私を邪魔した報い、いや、罰よ!罰が下ったのよあなたたち!やっぱり神様っているのね!これは神の思し召し!大我君を救えと言う神様からのお告げに違いないわ!!」
あの女はずっと何かを言っていたようだが、俺の耳には何も届いていなかった…。
だって、リディが死んだなんてあり得ないだろ…?
あり得ないことなのに…目の前のリディは死体のように動かなかった…。
俺が倒れているリディの前で呆然としていると、フラッシュが話しかけてきた…。
「ジョナサンすまない…」
俺には何故フラッシュが謝っているのか、理解ができなかった。
「殺人犯が遺族に謝るのって、滑稽な光景よね?」
「貴様…!」
遺族…?
遺族とは俺のことか?
ということは、殺されたのは…?
「リディが…死んだ…?」
「そうよ?気づいていなかったわけじゃないでしょ?いいえ、気づいていたのに気づかないフリをしていたのかしら?」
「そこまでだ、これ以上戯言を繰り返すのなら…」
「繰り返すのなら…なにかしら?あなたが私を仕留めきれなかったから、彼は家族を失ったのではないの?そもそも、彼を殺したのはあなたじゃない?それなのに私を責めること自体がお門違いじゃないかしら?まあ、そうなるように仕向けたのはわたしなんだけど」
宮古桃は耳障りな声をあげて笑っている。
フラッシュを見ると、憎悪に染まった目を宮古桃へ向けていた。
わかっている…フラッシュだってリディを殺したくて殺したわけじゃない…。
憎むべきは宮古桃だ。
そんなのはわかっているというのに、俺はフラッシュへの怒りが抑えきれなかった!
「うあああ!!」
フラッシュへ拳を叩き込む。
宮古桃へ意識が向いていたフラッシュは俺の拳へ反応することができず、簡単に吹き飛ばされてしまった。
「ッ…!ジョナサン…!」
「わかってる…!わかってるさ…!フラッシュは悪くないことぐらい…!だけど…!」
「悪くないとわかってるけど暴力を振るうの?意味わかんない上に随分と野蛮なのね?」
「黙れ!」
フラッシュが落とした剣のアイテムを拾い、宮古桃へと走る!
そもそも、あの女がいなければこんなことには…!
そう思うと、俺の中で燻っていた怒りが、抑えきれないほどに燃え上がるのを感じた。
許せない…!
この女が存在していることが…!
「お前みたいなヤツがいるから!!」
「なによ?さっきまでは私が人を殺したって話を聞いても、自分には関係ないみたいな顔してた癖に…。いざ自分が被害者の立場になった瞬間に怒りを露にして、私を非難し始めるなんて、あなた、随分自分勝手な人みたいね?」
「黙れ!!」
コイツの話はもうウンザリだ!
さっさと殺して、二度とその減らず口を叩けないようにしてやる!
俺は喋ってばかりでその場から動かない宮古桃まで接近し、上段から振りかぶって剣を叩きつける…が。
「そんな素人同然の攻撃が私に通用すると思ったの?」
宮古桃は俺の攻撃を難なくいなし、反撃へと転ずる。
「ぐ…!」
「ジョナサン!」
ナイフで脇腹を切り裂かれ、鮮血が舞う。
頭に血が昇り忘れていた。
この女の近接戦闘能力は、あのフラッシュが手こずるほど洗練されていた…。
素人同然の俺なんかが太刀打ちできる相手ではない…。
本気であの女を仕留めようとするなら、ゴーレムを使って、距離を取って戦うしか俺に取れる戦法なんてなかったのだ。
だが、そんなことを考えたところで後の祭り。
なぜなら次の瞬間、あの女の凶刃は俺へと振り下ろされることが確定しているからだ。
「じゃあね、あの世で弟さんに会えると良いわね?」
悔しい…!
俺にもっと力があれば、この女を殺してリディの仇を取れたのに!
いや、そもそもの話…リディを失わずに済んだかもしれないのに…!
俺は死の間際、自分の力の無さを呪っていた…。
だが…。
「…?」
俺をリディと同じところへと送る筈だった刃は、いつまで経っても俺の元へと到達することはなかった。
「あらあら?懐かしい顔ぶれね?」
宮古桃へと目を向けると、俺の背後へと視線を向けている。
なんだ?と思い、振り返ると、そこには…。
「悪いが、彼に用があるのでな…。それに、目の前で君のような殺人鬼にむざむざ人殺しをさせるほど、腐っているわけでもない」
そこには、まっすぐな目をした、知らない男が立っていた。




