100 価値観
~レイラSIDE~
「秘密だよ…♪」
そう、今はまだ…ね。
私の目的を遂げるためには、まだ大我に私の真意を悟られるわけにはいかない。
このゲームに参加する前は、結構簡単に目的を遂げられると踏んでいたのだが、あの小姑の存在は予想外だった。
あそこまで大我に固執しているとは…理由を聞いた後では納得ではあるが。
だが、あの女と私はお互いに受け入れがたい存在であることは明白だ。
悪いが、私の願いのためにもあの小姑にはいろいろと我慢してもらうことになるだろう。
まあ、初対面から私にあんな態度を取っている小姑相手に気を遣う必要もないと個人的には思うが…だが、あんなのでも大我の(一応)姉にあたるのだから、多少は気を遣っておいた方がいいだろう…多分。
なにせ…。
「…ラ!レイラ!」
「ん?…ああ、これは油断したね」
自分の世界に入って(個人的に)楽しいことを考えていたせいか、ヤツが近くに来ていたことに気づいていなかったようだ。
「それで?まだ闘り合うつもりなのかい?」
「もちろんだ。だが、姉さんと闘り合うのは後だ。なあ、坊主?」
「しつこいねおじさんも」
大我が風林火山おじさんと呼んでいる(そういえば名前を聞くのを忘れていたから風林火山おじさんとしか言えないな…まあ、風林火山おじさんのままでいいか。)男は私たちの前に立ちはだかり、大我に自分と戦えと言外に伝えていた。
相手が私じゃないことが不満ではあるが、この先も邪魔される可能性を考慮すると、ここで仕留めてしまった方がいいかもしれないな。
「どうする大我?ここは私が残ってあの男と戦ってもいいが…」
大我の実力を過小評価しているわけではないが、万が一ということもあるので、私が戦った方が安全ではある。
なので、一応提案してみたのだが…。
「いや、非戦闘員がいる状況なんだし、レイラよりオレが風林火山おじさんと戦った方が皆の安全のためにもいいでしょ」
そう言うと大我は私たちの前に出る。
「大我ならそう言うと思ってたよ。なんだかんだ優しいよね、大我」
「それはお互い様でしょ?レイラだって、風林火山おじさんと戦うのが面白そうって理由だけで、自分が戦おうかって提案したわけじゃない癖に」
やっぱり勘づいていたのか…。
やっぱり大我は私のことを理解してくれている。
こんな小さなことなのに、それがたまらなく嬉しい。
「なんのことかな?」
でもそれを悟られるのはなんとなく恥ずかしかったので、少しとぼけておいた。
「阿久津君、大丈夫なの!?危険だよ!?」
「そうだぞ阿久津!ここはそこの危険な女と協力して対処するべきなんじゃ…!?」
「というよりも、面倒なヤツの相手はそこの通り魔女に任せてしまっていいと思うわよ。ほら、アンタ戦うの好きなんでしょ?アイツとお似合いじゃない?」
「心外だな、私にだって好みはある」
「へぇ…アンタに好みねぇ…」
「なんだいその顔は?」
「いや、別に…」
「こんな時にコイバナ?なんて余裕だな姉さんたち…」
風林火山おじさんが少し呆れたような顔をして、私たちに語りかけてくる。
別に余裕があるわけじゃないんだけどね。
でも、私がああいう男に気があると思われるのは癪だから、キッチリ否定しておかないと。
「レイラは別に戦いが好きな人が好きなわけじゃないでしょ。単に自分が戦うのが好きってだけなんだから」
大我がフォローしてくれる。
ああ…やっぱり大我は良い。
凄く良い…。
「ふふ…。私のことを一番理解してくれているのは、やっぱり大我みたいだね?」
「え?あ、ああ、いや…。そ、そう言ってもらえるのは嬉しいけど…」
「あ、あれ…?なにこれ…もしかして…?」
「いちゃつくのは後でやってくれよお前ら…。白けちまうだろうが…」
ストークも風林火山おじさんも呆れたような顔をしているが、別にいつ私が大我と話そうと、文句を言われる筋合いはないだろう?
「ったく…。まあいい、始めるぞ坊主!」
そう言うと風林火山おじさんは大我へ向かって走り出した。
あの一瞬で近づいてくる技は使わないのか?
いや、あれは奇襲でこそ光る攻撃だ。
相手が万全の状態で待ち構えて状況で使ったところで、カウンターの餌食になるだけか。
「チッ…」
大我もカウンター狙いだったのか、青い炎を身に纏っていたみたいだ。
だが、目論見がうまくいかないと思った瞬間に次の行動へ移る。
腕をいつも使っている赤い炎へ変え、風林火山おじさんへと(大我曰くブーストダッシュで)一気に近づく。
「侵掠すること火の如く…!」
突然止まった風林火山おじさんはその場で迎撃態勢に入る…!
先程とは打って変わり、今度は大我がカウンターを喰らう立場となったわけだ。
だが…!
「は…!?」
風林火山おじさんの驚愕に染まった声が響く。
風林火山おじさんが攻撃をした瞬間、大我は今まで見せていなかった自身の体を炎と化する異能を使い、攻撃を回避したのだ!
これは上手いと言わざるを得ない!
なんせ大我の戦闘の師と言える私ですら虚を突かれたのだ。
風林火山おじさんからしてみれば、何が起こったのか理解するのに一瞬隙ができるのは明白だ。
そして、戦闘においてその一瞬の隙というのは、勝敗を決するのに十分な時間だ!
「…っ!!」
突然横から現れた大我の攻撃に対し、腕を盾にして防禦する風林火山おじさん。
正直反応できただけでも驚嘆に値するが、相手が悪かったとしか言いようがない。
なにせ大我は、火力だけなら私が知ってる中でも上位の位置にいるのだ。
そんな大我の攻撃に間に合わせの防禦なんかで対応できる筈がない。
「ぐあああ!?」
大我のあの腕を爆発させるパンチ(私は『バーストパンチ』と呼んでいる)で大きく吹き飛ばされる風林火山おじさん。
咄嗟に「動かざること山の如し!」と言ってたみたいだから、一応防御はしたみたいだけど、倒れている様子を見るにダメージは深刻な筈だ。
今のうちにこの場を離れるのが懸命か。
「いやぁ、大我にこの場を任せて先に進むべきと思っていたが、ついつい見入ってしまったよ。大我、本当に強くなったね」
「そりゃ鍛えてくれたのはレイラだからね。そのレイラの前で情けない姿は早々見せられないでしょ」
私としては、情けない姿を見せられてもいいんだけどね。
大我の少し情けない姿を想像すると、少し可愛く感じるし。
「や、やるじゃねえか坊主…。だがまだだ…。まだ終わってねえぞ…」
そう言って立ち上がる風林火山おじさん。
「無理しない方がいいんじゃないかな?大我はたしかに戦闘技術自体はまだまだ発展途上だけど、攻撃力だけは私が見てきた中でも上位だ。それを一応防御していたとはいえ、まともに受けたんだ。正直立ち上がれているだけでも驚くレベルだよ」
私があの攻撃をまともに受けたとすれば、まず立ち上がれないだろう。
まあ、私が大我と戦うとしたら、まず攻撃を受けないだろうが。
当然だ、大我ほどの攻撃力を秘めた者を相手に真正面から戦うというのは愚策もいいところだ。
というか、私の価値観からすれば、それは手を抜いていると言ってもいい。
だから私からすればあの男は所謂『舐めプ』をしていたという認識だった。
が、あの男からすれば違うのだろう…。
真正面から挑んで勝つ。
それがあの男の価値観であり、正しいことなのだろう…。
私はそれが、そう思えるあの男が少しだけ羨ましく感じた…。




