1 素晴らしい人生
「人生は素晴らしい」
そんなことを言えるのはとんでもない強運の持ち主か、余程の馬鹿かのどちらかだろう。
強運の持ち主であるならばその言葉通りでしかないだろうし、余程の馬鹿であれば不幸なことがあっても気づいてないんだろうなで済まされる。
そして大抵の人はそのどちらでもないので、
「人生は素晴らしいものではない」
と答えるだろう。
オレもそうだ。
昨日までの人生もそう。
そして、未来の自分の記憶を垣間見てしまった、今の自分の答えもそうだ。
正直、未来はこんなにもつまらないものなのかと失望してしまった。
なぜなら
・毎朝早起きして会社に行く
・たくさんの人に挨拶をする。
・挨拶を終えたら大勢に囲まれて、ずっとニコニコ笑いながら就業時間まて業務をこなす。
・そして就業時間を迎えたら今度は残業に突入、上司が帰るのを待つ
・上司が帰ったらようやく帰宅。
・その後は一人で食事をして寝る。
このルーティーンを毎日繰り返すだけなのだ。
きっと万人がつまらないと言うだろう。
だがそれが自分の未来なのだ。
冗談にしても酷い、酷過ぎる。
しかも未来のオレの最後の記憶なんて、倒れているオレの近くに血だらけの女の人が立っているというものだった。
なんだそれは。
痴情のもつれで知らない女に殺されて人生終了とかか?
冗談じゃない、そんな終わりなんてお断りだ。
だからオレ、阿久津大我は決心したのだ。
「オレの人生は素晴らしかった」
そう胸を張って言えるように、精一杯人生を楽しんでやろうと。
というわけで、決心したはいいが不安要素はある。
それは何故未来の記憶を見れたのか。
それがさっぱりわからないことだ。
目の前が真っ暗になったと思ったら、一気に十年分くらいの未来の記憶が頭に流れ込んできたのだ。
意味がわからないし、なによりあまりの情報量に頭はパンク寸前。
マジで勘弁してほしい。
正直もう眠ってしまいたいところだが、今は休んでいる場合ではないらしい。
「皆様、デモンズゲームへようこそ」
ナビゲーターの女性が口を開く。
デモンズゲーム。
悪魔が主催する正体不明の敵と戦う、命を賭けたゲームだ。
何故知っているのか?
それは未来のオレが参加していたからだ。
このゲームは簡単に言うと、優勝すれば願いが叶えられる、しかしゲーム中に死んでしまうと復活できないという、所謂デスゲームってやつだ。
「デモンズゲームとは・・・」
とナビゲーターが説明を始めているが未来の記憶で大体知っているので、無視して自分の身に何が起こったのかを考える。
そもそもなんで未来の記憶を知ることができたのだろうか?
やはり一番気になるのはこれだ。
デモンズゲームに関係してるのか?
まあ、こんな非現実的なことにデモンズゲームが関わっていない筈がないか。
それと未来のオレの最後の記憶で近くに立っていた女。
あの女が関係している可能性も否定できない。
否定できないが……。
うーん、材料が少なすぎて判断がつかないな。
「説明は以上となります」
ちょうどナビゲーターの説明も終わったらしい。
そろそろゲームも始まるだろうし、考えるのはあとにするか。
周りを見渡す。
今回の参加者は20人ほどか。
結構多いな。
すぐ近くで初参加と思われる人たちが会話をしていたので近づいてみる。
会話を聞く限りやはり混乱しているらしい。
まぁ、突然こんなゲームに強制参加させられたら焦るし不安になるよね。
その中の一人、滅茶苦茶美人な女の人がこちらに気づいて声を掛けてくる。
「あなたも初参加?」
「そうですけど…。ここにいる皆そうな…んですか?」
敬語は慣れてないから嫌いだ。
それはともかく、話を聞いてみると美人の女の人と会話していた2人(クッソイケメンな欧州風の男とスキンヘッドで筋肉ムキムキの黒人の男だ。どっちもカッコいい)も合わせて三人とも初参加らしい。
自己紹介した方がいいか?と思っているとナビゲーターの声が聞こえた。
「それではファーストゲーム『ゾンビゲーム』を始めます」
ゾンビゲーム?
最悪だ。
オレの人生楽しもう計画は開幕早々幸先が悪いらしい。
それは何故か?
理由は単純に『ゾンビゲーム』が初参加のプレイヤーにとって相性が最悪だからだ。
未来のオレが『ゾンビゲーム』に参加したときは、初参加のプレイヤーは全滅していた。
それは何故か。
答えは簡単だ。
普通の人間に比べてゾンビの身体能力が高すぎる。
この一点に尽きる。
ではどうやって対抗すればいいか。
それは・・・。
と考えていたら、不意に目の前が輝きだした。
転送の合図だ。
輝きが収まると目の前の景色が一変していた。
ここは・・・ショッピングモールか?
だがショッピングモールらしからぬ静けさに包まれている。
端的に言えば人がいない。
「皆聞いてほしい」
声のした方を見ると見覚えのある人物がいた。
「私の名前はアレクサンダー・L・ケネディ。賛同してくれるプレイヤーたちを集め自警団組織〈サバイバーズギルド〉を作って活動している。初参加のプレイヤー諸君は何が起こっているのかわからなくて混乱していることだろう。だが落ち着いてほしい。私たちは何度もゲームに参加し生き延びている。今から手短にこのゲームについて説明させてもらいたい」
そう、あの人はアレクサンダーさん、通称アレックス爺さん。
未来で大勢のプレイヤーを率いて何度も優勝を果たしていた最強格のプレイヤーだ。
あの人一人でもボスを倒せちゃうぐらい強いうえに、部下たちもかなりの手練れ。
簡単に言うと全プレイヤーの味方、もっと言うとクソ野郎が多いプレイヤーの中において数少ない良心のような人たちだ。
よし!
これなら『ゾンビゲーム』でも生き残れるかもしれない。
希望が見えてきた、と安堵していると先程会話した女性が話しかけてきた。
「簡単に信用してはダメよ、得体の知れない連中なんだから」
何言ってるんだろう?
一瞬そう思ったが、すぐに気づく。
未来の記憶があるオレと違って、初めて見る人たちからしたら正しく得体の知れない人たちにしか見えないよな。
「そうですか?いい人たちっぽいですけど」
「そういう人たちこそ注意しなきゃだめなのよ」
そう言いながらこちらへ向き直る。
「自己紹介が遅れたわね。私は樹里愛・スペンサー。あなたは?」
「阿久津大我です。夢は素晴らしい人生を送ることです」
今日決心した人生の目標も一緒に伝える。
こういうことは常日頃から口に出すことが大事だと聞いたことがある。
樹里愛は目を見開いている。
変なヤツと思われたんだろうか?
そう思い、声を掛けようとしたその時。
「グオォォォ!!」
通路の先から獣のような声が聞こえた。