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現実世界よりも現実に

 突如ゲームだなんて言われ、未だに理解が追いついていない状況のなか、魔王は現状の説明を始める。


「たった今、私はこのエデンワールドの形を変えた。君たちにはこの世界で、私の討伐を目標にゲームをプレイしてほしい」

 

 いきなりの説明に、理解が追いつかない。こんな意味不明なこと、到底受け入れられるはずがない。

 

 多くの人たちは口々に激怒し、怒りの言葉を魔王に浴びせかける。だが魔王は、むしろ僕たちのためだと言わんばかりに上から目線で説明を始める。


「君たちは、一体なんのために生きている? 退屈じゃないか? 鬱屈(うっくつ)じゃないか? 何も不自由のない平等の世界など、酷くつまらなくはないか?」


 まさに僕の気持ちを代弁したかのような魔王の口ぶりに、思わず胸が高鳴る。


「私なら、そんな退屈を消しとばしてやる! 未知を与えてやる! 生を実感させてやる! これは君たち人間のためのゲームでもあるのだよ」


 自分にも利点があるかのような言い回し。一体こんなことをして、魔王は何がしたいんだ……?

  

 この疑問符が拭えることはなかったが、代わりに魔王は、至って簡単で残酷なルールを説明し始めた。


「それでは早速このゲーム、というよりもこの世界の簡単なルールを3つ説明する」


 魔王はそう言うと、人差し指を1本突き出す。


「まず一つ。このゲームをクリアしない限り、向こうの現実世界に戻ることは出来ない。ゲームをクリアしない限り、一生この魔物がうろつく世界に閉じ込められるのだ」


 またも不敵に笑う魔王。魔物がうろつくって、どんな世界観なんだ? 周囲が戸惑い、混乱するなか、僕は一人楽しみすぎて笑みがこぼれていた。


 魔王は次に、中指を立て二つ目の説明に入る。


「2つめに、死や怪我の概念がないこの世界に、それらを与える。たった今より君たちの体は傷がつき、痛みが走るようになった。ゲームの世界で死んだ者には、私が君たちの体に栄養を与えている液体に毒素を入れてやろう」


 なんてことだ……。つまりはこの世界での死は現実世界での死と同義。生を実感させるとは、そう言うことか!


 笑みが止まらない。今日初めて、僕の中で止まっていた人生という歯車が動き出した。


「そして最後の3つ目だが、生物本来の欲求である食欲を与えてやろう。この世界で物を食べなければ飢餓に苦しみ、最終的には死に至るだろう」


 ふふふっとまたも笑う魔王。彼の話を最後まで聞いた僕ら人類は、どよめき、混乱し、魔王の言葉を受け入れられないといった様子。


 そんな愚かな僕たち人間に、魔王は至極当然であり、当たり前の事実を突きつける。


「そもそも、君たちは間違っていたのだよ。なぜ、生物本来の仕事である狩をしない? なぜ、生物であるにも関わらず、その理から逸脱しようとした? 私は君たちが本来しなければならない仕事を与えただけだ。怠惰な君たちに必要なものは、甘美な飴ではなく、手痛い(ムチ)なのだよ」


 魔王の正論。僕が今までに思っていた鬱憤を全て代弁してくれて、胸がスカッとする。そうだ、これが本来あるべき世界の正しい姿なんだ!

 

 間違っているのは僕たち人間であり、魔王はそのことを深く理解していたんだ。魔王は最後にバッと羽織っていた漆黒のローブとともに手を広げると。


「今よりここは、現実世界よりも辛い世界へと形を変えた。君たちには過酷な試練が待ち受けているが、めげずにクリアを目指して欲しい」


 自分でこんなことをしておいて僕たちに激励の言葉を送ると、魔王は薄ら笑いで長い髭を触りながら。


「それでは人間どもよ。健闘を祈る」


 たったそれだけの言葉を言い残すと、空中にあったモニターはプツンと切れてしまった。


 騒ぎ立てる人々。怒る声、泣き喚く声、叫び声。そんな彼らをどかすように、僕は人波を抜ける。


 他者がこんな状態なのに、僕だけはむしろ高揚感を感じている。きっと、いや確実に、僕はこのために産まれてきたんだ!


 ありがとう魔王様。


 彼に感謝をすると、街の外を目指して思いっきり走った。

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