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波乱!コエカイにて

ネズミが何か食べてるときのカリカリ音とワンコが反省してるとき特有のくーん…という鳴き声が視聴覚室に木霊する。


そんなカオスな状態で蝙蝠族の長である幸森閥斗(こうもりばっと)は堂々と話をはじめた。


「じゃあ声無き者の集会を始めるぞ」

「ちょっと待って、なにその集会?聞いてないんだけど」

「別名声神さまを守る会、俗称小江神翔哉見守り会だ」

「別名と俗称あんのかよ!ひとつに統一しろよ!」

「略してコエカイだ」

「略称が一番まともかよ!それにしよ!てかお願いだからそれにしてください」


閥斗の怒涛の演説に突っ込みを入れていると知侑くんがまた何かをカリカリしながら口を開いた。今度はお煎餅をカリカリしている。


「実はぁ俺達全員、声神さまがここに入学してくるの知ってたんすよ。だからこの学校にきたんスよね~。声神さまを他の声無き者から守れって言われてて~でも肝心の声神さまはなんも知らなそうだし一回全員で集まって話した方がよくね?って流れになってここに集まったんス」

「そうなのか!?じゃあみんな俺の入学にあわせてわざわざこの学校に来たってこと?」

「そうっす。俺も閥斗も柴も」

「マジで!?将来決まる大事な進路をそんなんで決めていいの!?」

「いいっす。いま声神さま守んなきゃ俺達一生超音波で抗議されるんで」

「超音波で抗議!?誰から!?」

「一族全員からっす」

「一族全員!?」

「ガチで顔も覚えてないアメリカ在住の親戚とかからも超音波で信号送られてくるんスよ。声神さま守れって。まあ、俺は元々この学校入りたかったし異論なかったんで入学して翔哉くん見守ることにしたっす」

「そうだったんだ…」


なんか知らない間に俺はイケメン達の人生を左右するレベルの存在になっていたようだ。ちょっと罪悪感を感じる。そんな俺を察してか犬井くんが笑顔で言った。


「別に気負うことないぜ小江神。俺なんて声神さま守る勤めのお陰でこの学校に入学できたようなもんなんだからな。俺めっちゃ頭悪いから裏口入学できて逆にラッキーだったわ」


犬井くんはさらりと裏口入学を暴露しながら尻尾を振った。尻尾のうごきが完全に機嫌がいいときの柴犬のソレでカワイイ。撫で撫でしたい衝動にかられる。


一瞬モフモフに気をとられていたが、ある疑問が浮かんだ。


「あのさ。俺よく知らないんだけど声神さまを守る一族って代々決まってたりすんの?」

「決まってるっぽいスね~。一番長く支えてるのが蝙蝠族で次が鼠族犬族っす」

「へえ~。人外の一族も大変なんだな」


生まれながらに俺みたいなフツメン守る使命を背負ってるなんて酷い話だ。イケメン顔との等価交換なのか。


「まあ閥斗は一族とか関係なく個人的に翔哉くんのこと守りたいみたいっすけどね」


そう言うと知侑くんはクスクスと笑った。知侑くんの笑い声はなんかネズミっぽくてさすがは鼠族の長だと感心した。


閥斗は知侑くんの言葉にちょっと眉を潜めつつ、再びコエカイを再開した。


「今この音波高校には翔哉の影響で声無き者が集まってしまっている。おそらく声神さまの超音波に惹き付けられて無意識に集まってきたんだろう。当面の問題はこの学校に俺達以外の声無き者が何人いるか調べ、そいつらが翔哉に友好的かどうか判断すること。万が一にも危険なら翔哉の生活圏から排除する」

「うーす」

「俺が匂い嗅いだ感じだと同学年に数人、今年度に転校してきた先輩にも人外がいるっぽいな」

「すっね。俺の勘だとB組に糞ヤバいやつがいる…んすよね…だから俺は絶対B組確認には行きたくないっす。柴よろです」

「おう!」

「A組の方は俺に任せろ。知侑には先輩を、犬井にはB組を任せる。異論ないな?」

「ちょっと待って」


大変盛り上がってるコエカイに水を差して申し訳ないが俺は口を挟まずにはいられなかった。


「なんだ翔哉」

「生活圏から排除とか物騒な単語が飛び交ってるけど真剣にそんなこと考えてるの?」

「当たり前だ。俺達は翔哉を守るために」

「いやそんなことしなくていいよ。ていうかやめてくれ」

「なぜだ」

「今聞いてた話の感じからして、本人も知らず知らずのうちにこの学校に来ちゃったんだろ?そんなんむしろ声神さまの被害者じゃん。それをこっちが一方的に危険かどうか判断して排除するなんて酷くないか?」

「酷くない。声神さまに逆らうような奴らは排除されて当然だ」

「いや俺は別に逆らう人がいてもかまわないよ。そんな王。みたいなテンションじゃないから。他の人外がどんな人達かは知らないけどこっちの勝手な都合で相手の生活を脅かすようなことは絶対しちゃダメだ」


知侑くんはヒュー♪と口笛を吹いて冷やかした。犬井くんは話についていけないようでポカンとしていた。


「だって俺が原因で進路が狂った人だっているかもしれないんだよ?三人は納得済みだけどそんなの知ったら反感を持つ奴もいると思う。それで反感持ったら危険な奴扱いで排除なんて理不尽すぎる。例え声神に反感持ってるやつがいたとしてもまず話をしてみようよ」


閥斗は黙っていた。


「閥斗、俺に言ったよな?声神さまの役割は『声無き者の声を聞き、彼らの長となり、彼らを1つにすることだ』って。なら俺に声神さまの役割を果たさせてくれよ」


閥斗は目を細めて俺を見た。憂いてる顔もめちゃくちゃイケメンだな。イケメンはストレスが顔にでても戦闘力に変わる。


「…わかった。でもひとつ条件がある。声無き者と話すときは俺と一緒にいてくれ」

「もちろん。てか一人だと心細いから絶対無理です。最初から閥斗と一緒にっていう前提で話してましたハイ」


情けない俺の本音に閥斗は笑った。知侑くんも犬井くんも笑って、三人で談笑しながら昼飯を食べた。


こうして無事に波乱のコエカイは幕を閉じた。

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