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返却!自宅にて

「!」


目を覚ましたら自宅にいた。


徐々にさっきまでの記憶が甦ってくる。そうだ…俺、イケメンの蝙蝠男に……キスされて……。


『うわああああ!!!!』


迫りくる迫真のイケメン。柔らかい唇の感触。思い出しただけで悶える。さっきまでの記憶が駆け巡る。


高校入学初日、俺は人外イケメンに君は声の神様!俺は神様を守るコウモリ一族の長だ!とかいう謎の設定をガチめなトーンで告白され挙げ句キスされるという少女漫画の序章みたいな経験をしたんだった。


『ん?あれ?』


そういえばまた声がでない。うろ覚えだが一瞬だけ声が戻っていたような?でも俺また声でなくなってる。


なにこれ。あの時キスでイケボ返してくれた的な感じじゃないの?じゃああのキスなんだったの?まさかガチでキスされただけ?俺ファーストキスだったのに?


イタズラなKissにもほどがあるだろ。


『起きたか』

『!幸森!!』


ガチャと部屋に入ってきたのは幸森閥斗(こうもりばつと)だった。


『なんで俺ん家にいんだよ!』

『なんでってお前をここまで運んだのが俺だから』

『はぁ!?』

『翔哉が気を失ったから部屋まで運んだんだよ』


そう言うと何でもないことみたいにバサリと蝙蝠の羽を出した。傘開くみたいなテンションで。


『!?!?!?』

『久々に飛んだから疲れた』

『飛んだ!?』

『うん』

『飛べるの!?俺空輸されたの!?てかお前ガチで未確認生物なのかよ!しかも飛べるとか未確認飛行物体でもあるじゃんよ!!』

『政府とかにはちゃんと確認とってあるから未確認ではない』

『とってるのかよ!!!確認済みかよ!!!ロマンがねえっ…!!』


待て待て。一旦、冷静になろう。突っ込むところはそこじゃない。


『なあ、お前本当にコウモリ人間なのか?』

『うん』

『やっぱあの話…俺が声の神様で…声無き者がどうとかって、全部本当ってことか』

『本当だよ』


幸森は平然と答えた。コウモリの羽をバサつかせながら。バサバサされたら説得力しかない。


『…ちょっと待て。ひとつどうしても納得できないことがある。お前がいま喋ってるその声、俺の声じゃないよな?それがお前の声なのか』

『うん』


幸森は俺の声ではなく別の声で喋っている。これがこいつの本当の声か。俺ほどではないがそこそこのイケボで悔しい。


『それがどうかしたか』

『俺のイケボはどこいったんだよ!?お前あの時預かってた声返すって言ってたな?なんで俺の声戻ってないんだ?返してくれよ』


そう。俺は今声がでてない。幸森も声は出してない。ばっちり聞こえてるけど、お互い発声はしていない。なんかテレパシーで話しているような状態だ。


『……あー…』

『いや、あー…じゃないんよ。返してよ』

『………』

『テレパシー会話で沈黙守られても困るわ。ファミチキくださいって言うぞ』

『テレパシーじゃない。超音波だ』

『超音波?』

『俺と翔哉はいま超音波で会話している。人間には聴こえない周波数の音波でな。だから学校にいたとき俺以外のやつに翔哉の声が聞こえなかったんだ』

『そうなん…俺いつの間にか超音波出せるようになってたんだ』

『うん』

『ま、それはいいとして。声は?俺の声!俺のイケボ返して!』


幸森はしばらく黙ると制服からガサゴソと紐状のモノを取り出し俺の首につけた。


『!?』


これはチョーカーだ。別名首輪。なんだこの展開。闇のオークションに出品される前フリか?


「なにつけて…あれ?声が戻った」


声が戻った。でもそれは超音波ボイスのときと同じ、声変わり前のチョイ高めの声だ。俺が返してほしいイケボじゃない。


「声変わり前に戻ってんじゃん!どういうこと!?」

「それは声守紐(こえもりひも)といって翔哉の声を封じるものだ。確かに翔哉の声は安定したが、今はまだあの声で話すのは危険すぎる」

「危険ってなにがだよ」

「あの学校には俺と同じようなのがウヨウヨいる。もし声変わりした声で声神さまである翔哉が話したら…」

「話したら…!?」

「みんなメロメロになる」

「メロメロに!?」

「もしくは脳が破壊される」

「脳が破壊!?なんでそうなるんだよ!」

「翔哉の声は特別なんだ。俺達みたいな種族に命令を下す絶大な力がある。翔哉の声を聞くとそれだけで脳に負担がかかる奴もいる。そうなれば脳内の声をかき消そうとして翔哉を襲いにくる奴もいるだろう。それを防ぐためだ」

「マジか」

「うん。俺みたいなのに襲われる日常は怖いだろ?」

「素直に怖いです」

「ならしばらくその声で我慢してくれ」

「わかった…しばらくはこの甲高い声で我慢するよ」


まあよくわからんけど、珍獣に襲われるサバイバル高校生活になるくらいなら声変わり前に戻るのも我慢するしかない。


「あのさ、幸森」

閥斗(ばつと)でいい」

「じゃあ閥斗」


俺は最後に聞きづらいことを聞いてみた。


「あのとき…その…なんで俺にキスしたんだ?声返す儀式とかだったのか?」


赤面したくないがどうしても頬が赤くなる。俺は童貞で女の子と手も繋いだこともない貞操観念の擬人化みたいな男子だ。何故あのとき唇を奪われたのか、理由くらい知りたい。


「儀式とかではない。返そうとおもえば他の方法もあったがキスが一番手っ取り早かったからつい」

「はあ!?ついってなんだよ!?俺ショックだったんだけど!?」


閥斗は赤面していた。


「ごめん、早く声を返して…翔哉を守りたくて。勝手なことして悪かった」


頬を赤らめ恥ずかしそうな表情で言った。申し訳なさそうにうつむくその顔は……なんかちょっとカワイイかもとか思ってしまった。


「まあいいや。でもとりあえず原因がわかってよかった。声も一応帰ってきたし。俺はその声神様の役割ってのを果たすよ」

「翔哉」

「だから俺が立派な声神様になったらこの首輪はずして絶対イケボ返してくれよ!」

「うん」

「あと普通に心細いから学校でも友達でいてね?異種族ウヨウヨの学校で一人とか絶対無理だから一緒にいてね?」

「…うん」


俺達はその時はじめて笑いあった。羽はえてるし声盗まれたしキスされたけど、なんとなくうまくやっていけそうだ。

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