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強奪!校舎裏にて

「小江神翔哉。俺のことは覚えてるな?」


桜舞い散る校舎裏。俺は同じクラスのイケメン、幸森閥斗に壁ドンの亜種である足ドンを食らっていた。


両手をポケットに突っ込み長い足を俺の横に突き立てている。俺はガグブル状態で冷や汗が止まらない。端か見たらカツアゲ以外の何ものでもない。


実際、普通のカツアゲだったらどんなによかったことか。俺はこいつに金よりもヤバイものを奪われ済みなのだ。


「答えろ」


幸森から発せられる脅し文句。でも声がいいのでかっこよく聞こえる。イケメンに似合った見事なイケボ。


まあ、その声は他でもない俺の声なのだが。


俺は震えながら口をパクパクし音にならない言葉を発した。


『……洞窟にいたコウモリ男…』

「そうだ。洞窟で見た通り俺は蝙蝠族」

『見た通り蝙蝠族って…何ご存じの通りみたいな感じで話し進めてんの?蝙蝠族なんて名前の部族聞いたことないんだけど。てかそもそもあんた人間なのか!?!?羽生えてたよねあの時!?!?』

「今はしまってる。邪魔だからな」

『しまえるの!?出し入れ可能なの!?ていうかやっぱり人間じゃないのかあんた!!』

「人間ではない」

『じゃあなんなんだ!!?人間のフリしてるバケモノなのか!?ヴァンパイア的な!?D◯O様の同類!!?』

「だから蝙蝠族だと言ってr」

『ギィヤァアアア!!!!食われる!!!血ィ吸われるぅ!!!誰か助けて!!!』


目の前にいるやつは人間じゃない。その事実に俺はパニックになり半べそで逃げ出そうとした。しかし幸森は俺の手をつかみ落ち着かせるように耳元で囁いた。


俺のイケボで。


「落ち着け翔哉。危害を加えたりはしない」


あ、…すっごいイケボ…。

声に痺れるっ!憧れるぅ!って聞き惚れてる場合じゃない。


『はっ!そうだ!お前その声!!なんで俺の声がお前の声になってるんだ!?コウモリ族だとか吸血鬼問題はどうでもいい!…いやどうでもよくはないが、お前が俺の声を盗んだのか!?』

「………」

『つーかそもそもなんでお前だけ俺の声が聞こえてんの!?お前に遭遇してから俺、声が出なくなったのに』

「………」


突然の沈黙。黙っていてもイケメンは間が持つんだと俺はこのとき初めて知った。


「俺の話、信じてくれるか?」


幸森はすがるような目で俺に訴えかけてきた。


「翔哉が信じてくれるなら全部話す」


イケメンの泣き落とし。いや、正確には泣いてはいないが泣きそうな感じで悲しげな視線を送られたらもうほぼほぼ泣き落としだ。


女子ならどんなやつでも「う、うん////」って話を聞いちゃう場面だろう。それがどんなに突拍子もない話だったとしても。


しかし俺は男。イケメンの泣き落としには屈しない…といいたいところだがひとまず幸森の話を聞くことにした。


事実を知りたいのもあるが、幸森の顔が嘘を言うようには見えなかったから。


『…わかった。信じるよ。あんたの話』


幸森はハッと顔を上げ僅かに微笑んだ。


「翔哉の声を盗んだのは俺だ。理由は翔哉が声神様だからだ」

『…なんて?小江神さま?なんでいきなり様付け?』

「違う。翔哉の名字のことを言ったんじゃない。役割のことだ。翔哉は声の神様なんだ」

『……声の…神様?』

「そうだ」

『……なにそれ…怖…。初耳なんだけど。俺知らない間に神になってたの?特に告知とか無かったんだけど』

「最近声変わりしただろ?」

『!』


そう言うと幸森は自分の喉を指差した。


「この声に変わったろ。声が変わったあの日、翔哉は正式に12代目声神様に選ばれた」


確かに最近俺に起きた一番デカイ出来事は声変わりだけど…。てか12代目ってなに?3代目じゃねえの?ブラザーズじゃないの?けっこう続いてるな声神様。


「翔哉には神様としての役割がある。だが翔哉はまだ声神の力が安定していなかった。だから一時的に俺が翔哉の声を預かった。闇雲に使うとても危険な力だからな。俺はこの声の力を守り、翔哉を守り…翔哉に声神様としての役割を果たして貰うためにこの高校に入学した」


意味がわからない。突っ込みどころ満載だが、俺は黙って話を聞いた。


幸森の顔があまりにも真剣だったから。


ここまで真剣な顔でこんな馬鹿げた話をできるわけない。嘘なら言ってて絶対笑う。もしくは恥ずかしくなって途中でやめる。


『…俺の声に特別な力があって、俺は声の神様に選ばれた。で、それを守るためにお前は俺の声を盗んだ。そこまではわかった。いや全然わかんないけど飲み込んだ。で、俺のその声神様の役割ってなんなの?』

「声無き者の声を聞き、長となり、彼らを1つにすることだ」

『声無き者?』


幸森は話を続けた。


「俺みたいな奴のことだよ。人ではない、人には聞こえない声で話す人外の者たちのこと」


そう言うと幸森の背中から巨大な黒い羽が生えてきた。蝙蝠の羽だ。耳も人間の耳から黒く尖り毛のはけた耳に変化していく。蝙蝠の耳だ。


幸森は不適に笑った。


「最初に言ったろ。俺は蝙蝠族だって」


その笑みからは犬歯が見えていた。


「俺は代々声神に仕えてきた蝙蝠族の長だ」


俺は顔面蒼白でブルブルと震えていた。

正体現したね…、やっぱこいつバケモノだ!


「翔哉」

『うぉ!?』


幸森はその大きな蝙蝠の羽で俺を引き寄せ、包み込んだ。すぐ近くに幸森の顔がある。


え、なにこれ…なんか、ドキドキする。

吊り橋効果ってやつか?恐怖の源はこいつ自信だけど。


「俺はこの日をずっと待ってた」


幸森は優しい目で俺を見た。


「驚かせて悪かった。もう翔哉の声の力は安定した。声を返す」


一秒も目を話さない。こんなに人と見つめあったのは初めてだ。


「翔哉なら…きっと立派な声神様になれる」


そして、次の瞬間


幸森は俺にキスをした。


「…………………は?」


声の神様だとか蝙蝠族だとか。声無き者がどうたらとか。今までの話が全部ぶっ飛んだ。


ファーストキスが…奪われた……?

イケメンのコウモリ男に……。


小江神翔哉、人生二回目の気絶。


夢にまでみた初めてのキスが…男に奪われた……。俺の人生っていったい……。


あまりの衝撃に自分の声が戻っていることにも気かず。俺は意識を手放した。

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