衝撃!座席にて
静まり返る教室、 集まる視線。
某ロボットアニメのタイトルっぽいがこれは現実だ。
え?なにあいつ?
なんで立ち上がったの?
なんで無言?
え、こわ…
などというヒソヒソ声が教室のあらゆる所から聞こえてくる。
とりわけ女子からの声が心に響く。
なに~いま超絶イケメン爽やかイケボの幸森くんの自己紹介にうっとりしてるんですけどぉ?フツメンが邪魔すんなひっこんでろカス
って言ってるう!!さっそくクラスの女子全員から忌み嫌われてるっ!!!
※注釈:女子の声は翔哉の被害妄想です
俺は座ることも声をあげることも出来ずに汗ダラダラでただ突っ立っていた。
こんな時どんな顔すればいいかわからないの……と言いたいが、今「笑えばいいと思うよ」とか返されても全然笑えない。
どうする俺。助けてシ○ジくん。いやもうファーストでもセカンドでもフィフスでもなんでもいいや。
誰か俺を救ってくれ…!!!
しかし涙目の俺を救ったのはチルドレンではなく。
壇上に立つイケメン、幸森閥斗だった。 幸森はイケメン特有の爽やかな笑顔で俺に声をかけた。
俺のイケボで。
「久しぶりだね。翔哉。いま声帯の手術して声がでないんだっけ?大変だったな」
久しぶり…?会ったばかりだよな?何言ってんだこのイケメン。
「幸森。お前、小江神と知り合いなのか?」
「はい。幼なじみです」
幼なじみぃ!?何言ってんだこいつ!え?俺の記憶がおかしいのか?いやいやいやあんなイケメンの幼なじみいたら忘れるわけない。
「まあいいや。仲良くやれよ。じゃあ席戻れ。次から出席番号順な。入鹿池」
「はい」
担任は生徒のこととか興味ねンだわという態度丸出しでサラッとスルーした。
幸森が席に戻ってくる。汗ダラダラの俺を見てまた笑いかけると俺のイケボで言った。
「座りなよ。翔哉。ずっと立ったままだと疲れるよ?」
『………っ!!』
何か言い返したいが声はでない。しかし今座らないと永遠に座る機会を失うことになる。俺はおそらく死ぬまでこの席に立ち続けやがて怨霊となり‘無言で席に立つ陰キャ男子生徒学校の幽霊’となり学校の七不思議として語り継がれることになるだろう。
仕方ない。俺は声のことを聞きたいのをぐっと堪えて席に座った。
そして幸森閥斗の顔を改めてじっと見た。
うーん…見覚えないなぁ。
幸森は俺に見つめられても余裕の微笑み。なんだよ余裕かよ顔がいいやつはマジマジ見られても困らねえもんな羨ましいわ。
綺麗な顔。芸能人みたいだ。
小学校でも中学でもこんな奴いなかった。
やっぱ今会ったばかり……………
……………………………………………………
……………!?!?!?
その日、小江神翔哉は思い出した。
イケボを奪われた屈辱を…
洞窟で遭遇したコウモリ男の顔を……
壁を壊されたのと同じくらいの衝撃が走る。
俺は唐突に思い出した。こいつのこの顔。洞窟で俺を襲ったコウモリ男じゃねえか!!!
『あのときのコウモリ男!!!』
俺は口をパクパクさせながら叫んだ。もちろん声はでてない。だが、これが叫ばずにいられるだろうか。
洞窟で俺を襲ってきたコウモリ男が同じクラスのしかも隣の席のイケメンだったとか生物史に残る大事件だ。
「思い出してくれたみたいだね」
幸森はこちらをみて不適に笑った。その様子をみて俺は気がついた。
こいつ、俺の声が聞こえてる!?
動揺する俺。余裕のコウモリ男。すると後ろの席のやつが俺達の様子をみて話しかけてきた。
「なになに?お前ら知り合いなの?」
「そうなんだ。幼なじみなんだけど、小中と学校違ってな。高校で久しぶりに再会してびっくりしたよ」
『違う違う違う違う!学校違ったどころか種族が違う!!生き物としての格が違う!!』
「?」
パクパクする俺をみて後ろのやつはキョトンとした。やはり他のやつには俺の声は聞こえていないようだ。
「ああ。翔哉はいま声帯の手術したばかりで声がでないんだ」
コウモリ男こと幸森閥斗は俺事情知ってますよ?的な態度で説明した。いや確かに事情は知ってるだろうが。知らなかったら逆にびっくりだが。
「へぇ。大変だねえ」
後ろの席のやつは呑気にそう言うと自己紹介をした。よくみるとそいつも犬顔系イケメンだった。派手ではないがモテるタイプの顔だ。
なんだよこの学校イケメンばっかりか?顔面偏差値で合否決めたのか?なら実は俺もそこそこイケメンなのか!?イケメン名乗っていいんだな!?
「俺、犬井。犬井柴。よろしくな」
俺が心の中で学校への恨み節を唱えていると、犬井は屈託のない笑顔で俺に笑いかけた。
あ、いいやつそう…これは陽キャ…仲良くなりたい…
チョロい俺はそんなことを考えた。
いぬいしば。とりあえず彼と仲良くなって陽キャ仲間にいれてもらおう!
俺は声がでないなりに照れながら挨拶した。
犬井は笑ってくれた。
最悪だった高校生活初日、少しはいいことあるかも…?そう思った最中。
耳元でイケボが囁かれた。
「後で校舎裏に来い。小江神翔哉」
囁いたのは幸森閥斗。悪魔みたいな顔で俺を見ながらお決まりの呼び出し文句を言った。
あぁ、やっぱ俺の声ってイケボだわ。
コウモリ男に呼び出しを食らったやべえ状態。俺は自分の声にうっとりしていた。