対面!教室にて
私立音波高等学校。
ごく普通の偏差値の極々普通の高校である。そして俺、小江神翔哉がこれから3年間通う高校だ。
女子の制服はブレザーに紺のスカート。心なしかみんな可愛く見える。これが制服パワーってやつか。
男子多めの学校だが、可愛い女子もたくさんいる。
夢にまで見た高校生活。恋愛友情部活動、ときどき勉強…絵に描いたような青春を送るはずだった。なのに…なのに…。
…俺は今、声がでない!!
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入学式も無事終わり。それぞれのクラスに移動する。担任が軽く挨拶し、とうとう例の時間が来た。
自己紹介タイム…!!!
高校生活の全てが決まるといっても過言ではない、運命の分かれ道…!
俺は声変わりを期に手に入れたイケボを生かしてどんな自己紹介をしようか軽く1万回は妄想した。
しかし全ては無駄だった…
先日のコウモリ男襲撃事件以来、俺の声は戻らなかった。病院で検査しても異状なし。
医者は精神的ショックが原因かもしれませんね~一時的なものですから戻るでしょ笑とか軽く言いやがったが、俺が今現在感じている精神的ショックはコウモリ男に襲撃されたことなんかより遥かにデカイ。
学校側は事情があって俺が喋れないことは把握している。
しかし担任が『あ~小江神くんは健康ですが複雑な事情があって声がでないのでクラスのみなさんは協力してあげてください』とか言われようもんなら…。
間違いなく陰キャ確定。
表面的には優しくされるかもしれないが触れてはいけない人扱いされる予感しかしない。
人生最大の試練の時だ。
どうする?
いっそ黒板に自己紹介書くか?
小江神くんは、コミュ症です。路線で乗り切るか?
いやいやいや俺はそこまでコミュ症でもないし字も下手だし何より美少女じゃない。フツメンが汚い字で自己紹介書くとかチョークより先に俺の心が折れる。
俺は自分の番が回ってくるまでに何か打開策を見つけねばと悩みまくっていまた。
そんな時。
「え~ここで自ら自己紹介をしたいとの申し出がありましたので、まずは先陣切って自己紹介をしてもらいましょう。幸森」
担任がそう言うと、隣の席の男子が席を立って教壇へ歩いていった。
そして黒板に綺麗な字で名前を書いた。
幸森閥斗 《こうもりばっと》
名前を書き終わるとそいつは振り向いた。
クラスの女子達が一気にざわめく。それも当然、そいつは物凄いイケメンだった。
目がデカくて鼻筋が通ってて男でも認めざるをえない正真正銘の美形。
なんでこんなイケメンが普通の高校、しかも俺の隣の席にいんだよ?只でさえ肩身が狭いのに俺に一切興味ない女子が隣に集まって地獄絵図確定じゃねーかふざけんなよマジで、とか思っていると。
そいつは何故か俺の方をみて微笑んだ。キラキラエフェクトがかかってそうな爽やかな笑顔で。
え?なにこれ?何が始まるの?
イケメンで字も綺麗で積極性のある隣の席の男子が、俺だけに微笑みかけた…?
俺が女だったらアニメのOP流れはじめてるタイミングじゃん。ラブコメ始まるやつですやん。
しかしそいつが声を発した瞬間、流れは変わった。
「幸森閥斗です。よろしくお願いします」
……………聞き覚えがありすぎる声。
つい先日まで何度も何度も聞いていた声。
…この声は…この爽やかイケメンボイスは…!
『俺のイケボじゃねえか!!!』
俺は声にならない声を上げながら立ち上がった!…いや、カッコよさげに言ったが驚きすぎて声がでないこと忘れて立ち上がってしまった。
無言のままガタッと派手に立ち上がった俺にクラス中の視線が集まる。
やべっ、終わった………。
登校初日。
最悪すぎる俺の高校生活は幕をあけた。