初動!帰路にて
人外イケメン二人と声神フツメン一人。奇妙な組み合わせの三人組が並んでで歩く。そこはかとなく漂う気まずい雰囲気の中、俺達はひたすら歩いていた。
目的地は俺の実家の神社裏にある洞窟。閥斗と出会った場所だ。閥斗曰くあそこは声神の力が発揮しやすいらしい。人も来ないし話し合いには丁度いいということで取り敢えず洞窟に向かう流れになった。
で、到着したわけだが。訪れたのは沈黙。圧倒的沈黙。シーンと静まり返る洞窟。
「……」
「……」
『………』
き、気まずい…。
誰も喋ってくれない。閥斗が事情を説明してくれるのかと思いきやなぜか黙ったまま。黙ってても絵になるけど、今は喋ってくれ…。
俺は特に人見知りってわけじゃないけど今回は相手が相手だ。説明しようにも何をどう話せばいいかわからない。
『ーー‐…~‐_ー…』
そして入鹿池くん。ついさっき教室で‘声無き者’人外の一族であることが発覚した彼は、まだ俺達をかなり警戒している。本人は沈黙しているつもりなのだろうが、発してる超音波ボイスで警戒心むき出しなのがびんびんに伝わってくる。
意味は理解できないが猜疑心のような感情の込もった超音波ボイスをずっと発している。
こんなときに柴がいたらなぁと思う。柴がいたら犬族の懐っこさで速攻で打ち解けてすぐ話が進みそうなのに。
『………ーーー~…』
「い、入鹿池くん今なにか言った?聞きたいことあるならどんどん聞いて。俺あんまり詳しくないけど閥斗は詳しいから聞いてみr」
「俺は何も喋っていないぞ!」
「え?ま、まあ喋ってはないけどなんかそういう感じの音がでてるから聞きたいことがあるのかなって」
「!!!勝手に俺の心を読むな!!」
「いや別に心読んでるわけじゃないよ!?」
「嘘だ!俺の心を読み取ったのだろう!?それがお前の力なのか!?俺の心を読んでどうする気だ!?」
「読んでねーから!そっちが自発的に発してるんだよ!もしかして超音波ボイス発してる自覚ないの?」
「超音波ボイス?特別な声のことか」
「そうそう!それ。俺は勝手に超音波ボイスって呼んでるんだけど。それが聞こえるんだよ。細かい意味まではわからないけど今入鹿池くんからすごく超音波ボイス聞こえてるからなんか言いたいことがあるのかなって」
「……正直俺にもよくわからない。高校に入るまでこんなことは一度もなかった。人の、特に幸森が何か言ってるように聞こえる時はあったが自分から発したのはさっきのが初めてだ」
「そうなん…。無意識だったんだ。人外の一族なら誰でも自然にできるんだと思ってた」
「………」
「あのさ入鹿池くんってどんな一族なの?」
「どういう意味だ?」
「あーその、何かの動物の一族だったりするの?」
「イルカだ。祖父の話によると入鹿池家はイルカの一族。俺は子供のとき人魚のような姿になって初めて知った」
「人魚!?」
「この体質があるのは祖父と俺だけで、両親は普通の人間だ。俺は祖父から同じような人外の一族がいるとしか聞いていない。声のことは何も知らない」
「そうなんだ…てかサラッと流したけど人魚に変身できるって凄くね?水の中でも息できるってこと?」
「息もできるし会話もできる。それが超音波ボイスと関係あらのかはわからないが」
「マジかよ。ここにきてガチの人外能力者じゃん入鹿池くん。よく今まで普通に過ごせてたね?すごいわ」
「俺だって羽が生えるし飛べるぞ」
人魚にテンションが上がっていると閥斗がムッとして話しに入ってきた。
「いや閥斗のも充分すごいけどさ。ただジャンル違う能力だなって」
「…ジャンルは違うけど俺の方がすごい」
こいつもしかして張り合ってるのか?人魚と蝙蝠男とか人外レベル同格な気がするが。
「蝙蝠男もかなりインパクトあるよな。ドラキュラにしか見えないし」
「やはり幸森にも変身する体質なのか?」
「うん。閥斗は蝙蝠の一族らしいよ」
「では超音波ボイスとやらも蝙蝠の力なのか?」
「あー…あれは別に閥斗固有の力ではないんじゃない?そうだよな?」
「……」
「いやなんで黙るん。なんか機嫌悪くない?」
「うん」
「お前ほんと素直よな」
ご機嫌斜めの蝙蝠男。なんで機嫌悪いんだ?てか他の声無き者に探りをいれるぞ!とか言い出したの閥斗なのにいざ発見したら機嫌悪いとか意味がわからない。俺を守る宣言なんだったんだよ。初期のあのシリアスな感じなんだったの?
俺達のしょーもない会話をよそに入鹿池くんが本題に入った。
「俺は祖父から同じような人ではない一族がいるとしか聞いていない。さっきから君たちが話題にしている声神とは一体なんなんだ?この声に関係あるのか?」
「うーんあると思うけど」
ちらりと閥斗をみたが不機嫌そうにそっぽを向いてる。なんか拗ねてるのか?
とりあえず腑に落ちない点を閥斗に聞いてみた。
「なあ、閥斗の一族は声神にめっちゃ詳しいのに入鹿池くんの一族はなんで何も知らないの?同じ人外なのに一族によって情報格差ありすぎじゃね?」
「幸森家は遥か昔、初代声神さまと契りを結んだ一族だからな。血も濃い。それ以外の一族は声神と関わりなく普通の人間として生きたやつもいる。入鹿池家はそのパターンなんだろう。血が薄まってるから知識も途絶えてるんだ」
「へぇ~」
またひとつ人外マメ知識を得てしまった。




