遭遇!洞窟にて
俺の名前は小江神翔哉
高校入学を控えたごく普通の15歳だ。
中学時代までの俺にはとあるコンプレックスがあった。
それは声が高いこと。
中学での3年間、いつまでたっても声変わりが始まらず高い声のままだった
中2の頃には二次姓徴を迎え背もギリギリ170を越え陸上部で筋肉もつき細マッチョな男の体型になった。
なのに声は高いまま…。
儚い美少年ならまだしもフツメンの俺がこんな高い声をしているというのは生き恥以外の何者でもない。
クラスの女子と仲良くなっても『声が高い』というだけで恋愛対象から外され…エロ動画を漁っては彼女が欲しいと咽び泣く毎日。
だがそんな俺にもついに念願の声変わりが訪れた。
「あ゛あ゛ぁ~んん゛ん」
変声期を迎え。ついに迎えた声変わり。
「お?これは…」
声変わりをした俺の声は。
「…イケボじゃねえか!!!!」
そう。声変わりした俺の声はイケメンボイス。低くすぎず高すぎず。なおかつ爽やかさを兼ね備えた最強のイケボだった!
俺は確信した……。
このイケボなら絶対モテる!!
フツメンの俺でもこの声ならボーナスステージに突入したも同然…!!!
人生初彼女ゲットも夢じゃない!
女の子にモテまくること間違いなし!
この声ならVの配信者やれば投げ銭ジャブジャブ億万長者も夢じゃないんじゃねえか!?
なんなら声優デビューもありうるか!?フツメンだけど声がイイ的な人気声優になれるんじゃねえかな!?
そんな下衆な夢と希望を抱き俺はニヤニヤとニヤけながら薔薇色の高校生活を妄想した。
「ん、ん゛~」
とはいえ声はまだ安定しない。
高校入学までになんとか完璧なイケボを完成させなくては。そう考えた俺は実家の神社の裏手にある洞窟で発声練習をはじめた。
洞窟といっても奥行きはなく、なんか変な祭壇が飾ってあるだけの空間で小さい頃からよく遊んでいた場所だ。
滅多に人も来ないし発声練習にはちょうど良いだろう。
「あ、ああ~小江神翔哉15歳、好みのタイプは長身スレンダー黒髪巨乳美少女、八重歯があるとなお良し…よろしくです☆」
うんうん。良い感じ。喋ってる内容がどんだけキモくてもカッコいいこと言ってるように聞こえる。
これがイケボのパワーか…。
自分の声を自画自賛していると、背後に妙な気配を感じた。
「!?」
振り向いたが誰もいない。
「うわ!?」
そしてどこからかともなく黒くて小さなものが大量に飛んできた。
コウモリだ。
コウモリたちは洞窟から外に飛んでいった。ここにはいつの間にかコウモリが住み着いていたようだ。
「なんだ、ただのコウモリかよ…」
そういって頭を掻き、洞窟の方を振り替えると。
逆さ吊りの男と目があった。
な、何を言ってるかわからねーかもしれないが俺も何が起きてるのかわからなかった。
巨大なコウモリの羽に身を包んだ男が、天井からぶら下がってこちらを見てる。
一瞬、クソデカコウモリかと思った。だがバッチリ目があってる。目、鼻、口、この顔はどうみても人間だ。
俺の目の前にはコウモリ男がいた。
「……バッ○マン?」
コウモリ男といえば世界的に有名なあのヒーローを思い浮かべずにはいられない。逆さ吊りという状況を考えたらジョー○ーさんの可能性もなくはないが、コウモリの羽がある以上バッ○マンだと考えるのが妥当だろう。
なぜこんな日本の片田舎にバッ○マンがいるのかはわからないが。
そんな思考を巡らせ現実逃避をしていると、いきなりキーンという不快な耳鳴りがし始めた。
「うっ…なんだ!?」
耳鳴りは激しくなる。
そして耳鳴りと共に背筋も凍るような声がした。
『イイ声だな』
聞いた瞬間、わかった。
これは人間の声じゃない。
「あ、あ…逃げ…」
逃げなくては。俺の生存本能が全身に訴えかける。だが俺の膝は情けなくもガクガク震えて動かない。
目の前のコウモリ男が羽を広げる。
洞窟全体を覆うほどの巨大な羽が視界を覆う。黒い何かが俺に襲いかかってくる。
「う、うわああああ!!!!」
その後の事は何も覚えていない。
俺は洞窟で気絶していて、目が覚めたら病院のベットにいた。
知らない天井だ、…とか言って某ロボットアニメの主人公の真似をしようとしたとき
俺は気がついた。超重大なことに。
声がでない
念願の声変わりを果たして数日。入学しまであと一週間というこのタイミングで、俺は声を失った。
俺のイケボが……!モテモテ高校ライフが…!フツメンイケボ声優としてモテまくるはずの俺の人生設計がめちゃくちゃに…!
それが波乱に満ちた俺の高校生活の始まりだった。