30:現実恋愛。R15。『好きよりもっと好きに』
桑田堅志と有川と、三人で遊ぶ予定が、桑田の体調不良で二人だけになった。
出掛けるのが急に怠く感じて、有川の家にお邪魔する。
おばちゃんはパートからまだ戻っておらず、有川の姉ちゃんは図書館で勉強して帰ることが多いとのことで、ここでも有川と二人きりだった。
「意識してる?」
玄関で靴を脱いでいると、急にそんなことを言われた。
「何で?」
疑問形には疑問形で返すに限る。そう簡単に、まともに答えてもらえると思うなよ。
「俺は意識してる」
(聞くなよ!んで、言うなよ!!)
ツッコミは心の中でに留めた。
返答に困った時は無視するに限る。まぁ、表情でもろバレだろうけれど。
有川の部屋に通された。
(……汚)
脱いだパジャマが床に投げてある。
「俺、着替えてい?」
振り返ると、既に有川は肌色の胸をさらけ出していた。
いやいや返事してないッスよ?というツッコミは入れるだけ無駄だろう。カチャカチャ、ズボンの金具の音がする。
「いや、待って?」
静止を求めたが、ズボンはストンと床に落ち、有川は堂々たるパン一姿になっていた。
「何? そんなに見つめて」
「いやいや、何、じゃないでしょ」
パンツの中のもっこりな膨らみが気になります、とは口が裂けても言えない。もし言ったら……パンツまで脱ぎだしそうで怖い。
「見惚れちゃった?」
「鍛えてないじゃん」
「バレたか。やっぱ鍛えてる方が好き?」
笑いながら部屋の奥まで進んだ有川は、押入れの下の引き出しから取り出した短パンとTシャツを広げて見せた。
「これでいい?」
「なぜ聞く? 自分で判断して」
「どの服を俺に着てほしいかなぁって」
「何でもいいからさっさと着て」
目の遣り場に困るじゃんと付け足すような呟き声をしっかりと拾われていて、ガッツリ見てんじゃんと笑われた。
(お前が見せたんじゃん)
有川がゲームのセッティングをしている間、脱ぎ散らかされたパジャマと制服を拾って丁寧に畳む。
「指、マニュキア塗ってんの?」
こちらを見ていた有川と目が合ったが、手元の服に視線を戻してまた畳む。
「ん、透明だったらそんな分かんないっしょ」
「俺のため?」
「違います」
なんでコイツはこんなにこっぱずかしいことを言えるのか。おばちゃんのお腹の中に恥じらいを忘れて産まれて来たんじゃなかろうか。
「じゃあ、桑のため?」
びっくりした。
びっくりし過ぎて顔を上げて、そしたらさっきよりもぐっと近い距離に有川の顔があった。
目が全然笑ってなくて、ちょっぴり怖い。
背もたれにしていたベッドの縁に有川が手をついて、ベッドと有川に横方向ではなく縦方向に挟まれる。
伝わるだろうか……ベッドのマットレスに対して、平行ではなく垂直で……とかなんとかごちゃごちゃ考えている間に、有川の顔がどんどん近付いて、
「逃げないの?」
(いやいや、逃げられないじゃん。つか、耳元で囁くなよ)
むしろ、どうやって?と訊きたい。
まぁ、力いっぱいに足掻くかどうかでしょうけれど。
距離が0になって、ぎゅーって抱き締められて、唇に温かくて柔らかいものが触れて、
トゥルッ、トゥルッ、ティーン
ゲームのオープニング音がした。
その後は二人、触れるか触れないかくらいの密着度で横に座って、ずっとゲームをしていた。
おばちゃんがパートから戻って来て、おやつと冷えた麦茶を頂いて、またゲームして、有川の姉ちゃんが帰って来た。
自分もそろそろ帰ると言ったら、有川が散歩だと言って家まで送ってくれた。
家に入る前、耳元でまた囁かれた。
「桑には許しちゃだめだよ」
(誰が許すか)
ツッコミは心の中でに留めた。言ってやるもんか、ずっとそわそわしておけばいい。
家に入って、子機を手に、自分の部屋で早速に電話を掛ける。
「あ、もしもし堅志? 仮病の具合はもうすっかり良くなった? あのね、今日、有とね……」
桑田とはずっと仲がいいから、後から仲良くなった有川がヤキモチを焼いていることを知っている。
有川は知らないのだろうが、桑田は有川の姉ちゃんとデキていて、有川の姉ちゃんの寄り道先は図書館ではなく大抵桑田の家だ。
有川のことは今でもじゅうぶん好きだと思う。
とっても好き。
凄く好き。
でも、有川にはきっとヤンデレの素質があると思うから、そのための協力を私は惜しまない。




