16:詩?ゆるい現実恋愛『あつい』
下調べはバッチリ、完璧なはずだった
玉子サンドが美味しいと評判のカフェも、北欧雑貨を取り扱うお洒落だと話題のショップも、縁結びでカップルに人気だという神社も
どこもかしこも、人、ひと、人
人と人の間を縫うように歩き
行く先々で並び
人と人の間を縫うように歩いた
絶対にはぐれないように
それは現実であり、口実でもあり
暑くても、熱くても
彼女の手は、ずっと握っていた
疲れてしまって、くたくたで
普段なら彼女と一緒にいるだけで冴え渡るはずの意識がおぼろげだった
「気持ち悪い」
「うん、気持ち悪い」
どちらが先に言った言葉か
僕だったか、彼女だったか
お互いの心と心が通じ合うのは嬉しいこと
でも、嬉しくないような、嬉しいような、悲しいような、情けないような
定休日、営業時間、境内の拝観時間は前もって、僕が調べた
混雑する時間、空いている時間を調べるという発想は無かった
人に酔い、熱気にやられ、でも手は離せなくて
ちょうど日陰になっている花壇のブロックに2人で腰掛けた
「……ゴメン」
小声になってしまった
申し訳無さが募る
彼女が、僕の肩にコテンと首を預けた
「なんくるないさぁ」
普段は色白な頬を朱に染めて、目を閉じ、小刻みに息を吸って、吐いて
その度に上下する、彼女のやや膨らんだ胸
「義くんの隣、ホッとする」
とても穏やかで優しい表情と声の彼女
暑い、熱い
僕の心がほかほかして、沸騰するくらいどぎまぎした
これは……
チューしていいやつ? 駄目なやつ?
ここはエイヤーと行くべきか、行かざるべきか
いっそエイサーを踊るべきか、踊らざるべきか
尚も彼女の顔は僕の肩の横にあって
目は閉じたまま
息を吐くのに少し突き出した唇で
吸って、吐いて、吸って、吐いて
気持ち良さそうに呼吸している
マウス、トゥ、マウス
吸い寄せられるように
触れた唇の柔らかさに感動する、とかは全然無かった
勢いがつき過ぎたのか、押し付け過ぎたのか
想像していたよりも硬いと感じて
しかも、すぐに離れてしまった
酔いが醒めた
彼女の目もぱちりと開いた
熱気にやられている
熱を持った瞳
彼女がまた少し、唇を突き出して
瞳を、瞼と睫毛で隠したから
吸い付くように
エイサー
ではなく、
エイヤーと
マウス、トゥ、マウス
触れる唇の柔らかさに感動しながら
今度は絶対に離れないように
マウス、トゥ、マウス
「気持ちいい」
「うん、気持ちいい」
合わさった唇がほんの僅かに浮いて
少し乱れた息と、言葉が漏れ出る
先に言ったのは彼女
僕が同じ言葉を重ねた
握った手と、唇から
お互いの熱が伝わる
心と心が通じ合うことが嬉しくて
愛しくて
握った手と、唇から
「好き」な気持ちを
たっぷりと僕から彼女に伝えて
彼女から僕に、たっぷりと伝わって
マウス、トゥ、マウス
お互いの熱を、たっぷりと伝えて
愚痴。
4月終わりに、なんとかお友達になれたと思った糞システム。相変わらずの糞。横にめっちゃ長い、せめてウインドウ枠固定をさせてほしい。自分が今、何を入力しているのか……しょっちゅう迷子になる。
別シートに移りたい、そうしなきゃ印刷して確認出来ない。
でも何か入力が違うのか、エラーメッセージが出て、ページ移行すらさせてくれない。
どこが違うのか、それを確認するために印刷したいのに、その印刷さえ出来ない。
横にだだっ広い入力欄を見つめ、眺め、朦朧としそうな意識をかき集める。
入力すべき数字は事前にちゃんと調べたはずなのに。
横にだだっ広い入力欄は予想していた。
自分がもっとテキパキと、入力もミスしなけりゃよいことは分かっている。
それでも言いたい。
糞ッタレ―――――!(脳内で音量最大で発声)
糞ッタレ―――――!(脳内で音量最大で発声)
糞ッタレ―――――!(脳内で音量最大で発声)
システムと心が通じ合うのはいつかしら?
糞って呼んでいる時点で無理かしら?




