71、食いしん坊令嬢は
目が覚めると見覚えのない天井で寝かされておりました。
ふかふかですので前回とは異なります。少なくとも薄暗い牢屋ではないです。
「リーリア様?お目覚めですか?」
殿下が運んでくださったのかしら、でも、どうやって?抱きついてそのまま眠ってしまったはずよ。
昨夜の出来事がリフレインされて、思わず顔に手を当ててみます。赤くないかしら。大丈夫よね。乱れた服を直してって、あ、誰か着せ直してくれているわね。誰がって、考えないほうがいいわね。
胸元に昨夜の跡を見つけて思わず目を逸します。
「おはようございます。今何時?」
羞恥で昇天しそうなくらいですが、貴族令嬢としての今までの矜持で平静を装って、答えます。
「もうすぐお昼です。殿下をお呼びしますね」
ニヤニヤを隠そうともしないミントさんはすぐに殿下を呼ぶ手配を進めました。
髪を整えてベッドから出ようとすると、フェリス殿下は今までに見たことがないほどの甘い微笑みで入室し、ベッドに腰掛ける私へ近づきおでこへ軽く唇を寄せました。昨夜はこの唇が私のいたる所に触れておりましたわね。服の乱れは見当たりませんが、昨夜と同じ香りに包まれて幸せを感じてしまいました。
「おはよう。疲れてたんだね」
「ぐぅ」
何故ここで鳴るのでしょうか、私の腹の虫。
クスっ。「私の食いしん坊は健在だ。お昼の準備をお願いしよう」
笑って次は頬にキス。その甘さはまるで情事の後の時間のようです。まだ最後まで至しておりませんが。処女のままです。前世でもたくさんの恋愛に関するあれやこれやを読んだり聞いたり、見たりしてましたが、経験は、実はありません。あの甘い時間を振り返って、妄想ばかりが働きました。
「私は小さい時から食事が怖くて。美味しそうに食べるリリーに惚れてるんだ」
「王妃として相応しくなくても?」
「王妃として?ああ、私は王妃としてリリーを求めていると勘違いされていたんだったな。リリーは確かに王妃としての素質があり、リリー以外に考えられないほどだが、だから相応しくないなんてことはない」
次期王妃としての素質に惚れたのかしら。
「ああ、また勘違いしているようだが、私が一番好きなところは、リリーが美味しそうに食べているところだ。王妃の素質は後付だよ。むしろ、王妃教育を努力してきた君を見ているし、愛おしい」
そんなにじっと見つめないでほしいですわ。恥ずかしい。
「リリー、本当にどんな君も、好きなんだ。リリー、私と、結婚してくれる?」
「…はい」
もう、こうなったら認めるしかないです。
私だけを、一途に想って来たんだと昨晩は思い知らされましたから。
どこにも逃げられません。逃げません。束縛されても嬉しいかもしれないと思うなんて、もうすでに恋の末期かもしれません。自分を見てほしくて、フェリスに甘えてたんでしょうね。その時から好きだったのでしょうか。恋の相談をたくさんしていたのに、気づかなかった自分が情けないです。そして、見捨てないでくれたフェリスが好きで今は仕方ないのです。恋は盲目とよく言ったと思います。
「…私も好き「グゥ~」」
ここでまた鳴りますか、私のお腹。
「ふふふ。私の食いしん坊令嬢はまずは腹ごしらえだね。その後は私がリリーを食べてもいい?」
少し低めな妖艶な空気で誘われました。
私を食べる
いや、その意味は分かっております。昨日も味見をたくさんされておりますし、我慢できないのもわからなくはないですが。
一体そのセクシーさはどこで身につけたんでしょうか。閨教師がいるのでしょうか。天然でしょうか。
恥ずかしくて頷くしかない私を見る彼はうっとりして、とても満足そうです。
「可愛いリリー。本当に素晴らしい。ようやく……本当に私のものだ」
満腹になった食いしん坊の私が食べられて、本当の耳年増だったことを知るまであと少し。
「ごちそうさまでした」
〜終わり〜
ありがとうございました。これで完結です。
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