62、続、恋愛相談
「リーリア様、本日はお時間いただきありがとうございます」
「ご予約ありがとうございます。本日のご相談は?あ、懐妊についての教示?」
私は何百件もの恋愛相談をこなした結果、鑑定の精度も上がったような気がします。私は毎日中等部へ通いながら、週1の王妃教育、月に一回の公務です。王妃教育の課題もあるので暇なしです。こんなに忙しいなんて、婚約をなんで了承したのか、あの時を後悔しています。
さらに、週に一度予約は現在1年待ちという人気の恋愛相談室対応をしてます。
本日午後の相談者は妊娠できないとお悩みのタガレー夫妻です。
「この部屋でお話ししたことは私は絶対に外部へは漏らしません。ご安心ください。もし漏れていたとすれば、ご連絡ください。鑑定して誰から漏れたのか調べさせていただきますので」
こう言っておくと後からトラブルになりにくいのです。始めたころは性癖や想い人を表示されて、わざわざ他の人へ話すことないはずと楽観視しておりました。
しかし、外部へ漏らしたの!?とクレームがありまして、大きなクレームになる前に処理しようと動きました。結局男性側が愛人に話していたと言うことが鑑定でわかりました。謝罪もあり、その後は夫婦は離婚となりましたが、世の中には性に奔放な方もいらっしゃるとあらためて痛感いたしました。その後、対策として署名をしていただくことになりました。もちろん、鑑定から別れを決断するカップルもいらっしゃいます。署名は保険ですね。
さて、本日はザラメ入りのマドレーヌです。私の予約はデザートセットで予約いただきます。追加料金はいただきません。お金をとるほど、責任を持てません。前世の知識と鑑定で聞いたことがあることを話して相談されているだけですもの。それに、気持ちが綻ぶのも甘いものですわ。
そして、私の分ももちろん用意していただけます。美味しいおやつを食べながら人の恋話を聞けるなんて幸せです。
【ふとももフェチ、妊娠できない妻からのプレッシャーに我慢中、義務的な行為が辛い】
【胸毛フェチ、妊娠できない悲観から睡眠障害あり、離縁を言い渡されるかもしれないと危機感強し】
“義務的“と“離縁“ですか。深刻な状況ね。前世では妊活していた同僚もいたわね。ストレスが良くないのもわかってるけど、気になって眠れないって話していたわね。前世の知識では不妊外来もあったようだけれど、この世界でもタイミングなどもわかるのかしら。
結局耳年増で実際には妊娠も経験したこともないのです。ただ、妊娠しようとしている活動、いわゆる妊活の情報は前世の仲が良かった同僚からたくさん聞かせてもらいました。
「奥様は妊娠できないとかなりストレスを抱えているようですね。眠れないことを旦那様にお話しされましたか?」
「眠れないほど悩んでいたのか?いや、責めているわけではない」
奥様は俯いてぐっと拳に力をいれております。見るからに我慢されており、辛そうです。
「辛いですわね。結婚してからどれくらいでしょうか?」
「もうすぐ2年ですわ」
「実際は半年だ。私が出張が長くなったことと、誤解があってなかなかそういうことがなかった」
「そうね。実際は1年もないけれど、出張の合間も含めている方もいらっしゃるのよね。特に義理のお姉様がね。はぁ」
「ああ、姉はすぐ授かったからな。気にするなとは言ってもなぁ」
どうやら本人達にとって目の上のたんこぶの方がいらっしゃるようです。ただ、今の状況はまだ話し合いが足りないようです。
「世継ぎが生まれないと離縁よ!とか言われました?」
ぎくっと顔を強張らせた奥様、やはり、そういうことがあったのでしょうね。強張った表情の奥様を見た旦那様は眉間に皺を寄せたあと下を向きため息をつきました。
それを見た奥様は「やっぱり」と小さくつぶやきました。早合点かもしれません。直接聞くのはとても怖いですわよね。鑑定の表示の前に、確認したほうがいいと思いますの。
「その、タガレー子爵自身は子供ができなかった場合は離縁も考えていらっしゃるの?」
奥様はもう旦那様を見れません。言い渡されると思っているのでしょう。
でも、私はそう感じませんでした。離縁は考えていないと思いました。
「いえ、まさか、離縁されるかもしれないと焦っていたのか?」
否定したあとにすぐ問いただします。
「…」
奥様が答えないことで、肯定であることを感じたのでしょう。
「…離縁は考えていない。焦る気持ちもわかるが、その」
後一歩!言えないようですわね。鑑定、この辺りで表示しましょう。
「鑑定表示しますわ」
【胸毛フェチ、妊娠できない悲観から睡眠障害あり、離縁に怯えて混乱中】
【ふとももフェチ、妊娠できない妻からのプレッシャーに我慢中、義務的な行為が辛い】
「「…」」
お二人はそれぞれの表示に驚いて声も出せません。表示を見て、相手を見て、下を向きます。
「私からは旅行をおすすめしますわ。気分転換したほうがいいと思いますの。ただ、その旅行中一切触れ合わないように意識されてもいいかもしれません」
「そんな。機会がなければ妊娠しませんわ」
「眠れないほどのストレスを抱えては赤ちゃんがきたときに良い環境と言えますの?」
奥様の焦る気持ちもわかります。前世に日を空けて、日付を定めて妊活していた同僚の話を聞いていましたから。ただ、彼女に必要なのは休息だと思いますの。
「子は授かりものといいますわ。ちゃんと愛し合った穏やかな二人の間にお生まれになるお子さんはさぞ幸せでしょう?それに、子爵にも休息が必要ですわ」
「ゴホン」
咳払いするのは誤魔化しているからでしょう。表示されましたので今更です。後は
「クッル様、しばらくのんびりしてください。旦那様は離縁を考えていないようですが、このあとちゃんと話をされてください。義務と感じてしまうほどに辛いのなら話すべきですわ」
「…」
「…子作りの行為が愛を伴わないことも、貴族社会ではあるでしょう。ただ、女神様からの祝福を受けた私としては、誤解なく、愛し合う恋人同士のもとに幸せが訪れることを祈りますわ。失礼いたします」
席を立ち部屋を出る前に一言、
「2時間、今からこちらの部屋へはどなたも参りません」
と、伝えておきます。そう、この部屋、私専用の相談室になってから、ソファセットが汚れることが多いのです。多くは語りません。
どうかお互いの気持ちを伝えあい、1日も早くお子に恵まれますように。
――私が高等部に入る直前、タガレー子爵は大きなお腹を抱えた奥様と共に私に会いにきてくださいました。
そういえば、最近殿下にお会いしたのはいつだったかしら。公務で一緒だったのは半年前かしら。忙しすぎて手紙さえも交換しておりません。最近は仕事の話をしている同僚のようなものです。一緒に教師と戦う同士ですわね。小説や漫画でよく読んだキュンとくることもないのです。確かに楽しいですが、恋ってもっと惹かれ合うものだと思うのよね。
婚約解消の想いは募るばかりです。
高等部で素敵な出会いがあるかしら。フェリスが聖女ロゼッタ様に惹かれているのは分かりきったことですのに。




