60、聖女様の言い分
「連絡しようと思ってたんだ。リリー、毒の混入事件だが、首謀者が絞れた」
「絞れた、とは?」
「まだはっきりとした証拠が掴めていないから確定として検挙できない」
「6歳でこの頭の切れ味はさすがね。原作から優秀と聞いてはいたけれど」
ロゼッタ様が同席していることにもやもやします。狙われたのは私よ。送る途中だからって、はぁ。だめね。切り替えるって決めたのよ。お似合いの二人ね。
「殿下は幼いころから教育を受けてきていますもの。聖女様も前世の記憶があるとおっしゃっていますが、高度な教育を受けていらっしゃるのではないかしら?」
ここで彼女がどの時代のどこの人間か探ってみましょう。漫画っていうことは私の生きていた時代とそんなに変わらないかしら。
「いえ、私はそんなことないです。平凡な女子高生でした」
「ジョシコウセイとは?」
「あ、こちらでは高等部の女子にあたる人たちのことです。総称していうんです」
なるほど。彼女は日本のいわゆる私の現代社会あたりかしらね。というより、この人達はなぜ私を追いかけてきたのかしら。前世の話の説明と、興味津々で応える殿下。2人で話して、イチャイチャしています。私へは手紙でさっさと報告してくれればいいのに。
「ジョシコウセイと…ブカツ?」
「で、原作に出てくる話と似ていたのよ。リーリア様が仕掛けられた服毒未遂事件は原作ではクリスがリーリアにけしかけられて私に仕組んでいたのよね。原作では中等部くらいの話なんだけど」
「ああ。強制力や、登場人物が入れ替わっていたりするかもとロゼッタが話していたから、誰かがけしかけられているとしても、クリスが関係しているかもしれないとロゼッタが言うんだ。それで思い切って聞いたんだ。ロゼッタはすごいよ」
「それで?犯人はクリス殿下だったの?」
二人はまさか!そんなはずないだろう?と言う顔で私を見ます。お揃いの良い反応ありがとうございます。お似合いですわよ。さっきからロゼッタロゼッタって。
「クリスに調べてもらったら、フルールが侍女を使って動いていたらしいことがわかった」
「らしいって?」
「フルールは侍女もコロコロ変えるからすでに指示したものは辞めている。知らぬ存ぜぬで証拠らしいものはない。辞めた者を追いかけているが、おそらくすでに処理されているだろう」
処理って。もういないってことよね。
「購入したお店の店員も辞めているの?」
「もちろんだ。速達郵便の通りだ。まぁ家族が裕福になっているからそれなりのお礼金がでたのだろう。本人は今行方不明だ」
フルール様、私へ嫉妬されていらっしゃるんですわね。ま、殿下の本当の想い人は聖女ロゼッタ様ですから、私に仕掛けても困ります。
早く婚約解消してほしいですわ。もういっそのこと破棄してもらおうかしら。狙われるのは懲り懲りです。好きで殿下の婚約者になったわけではないのに、どうしてこんな苦労をさせられるのでしょうか。
「はぁ」
「…すまない」
「いえ、謝るくらいなら婚約解消してくれません?」
しまった。思わず本音が漏れてしまいました。殿下が冷たく私を見下ろします。何言ってるの?逃げるなよ?追いかけるよ。と仄暗い表情でにらまれました。怖い。
「ええっと、解消してしまうのも原作とは違うのでいいかもしれません。それでリーリア様を守れるのならフィルリス殿下もよろしいのでは?」
なんと、聖女ロゼッタ様が味方になりました。婚約解消を勧めてくれるようです。
「ロゼッタ、婚約は解消なんてしたら、再婚約なんてできないし、聞いたことはない。リリーは逃げるだろうしね。私はリリーがいい」
「リリーがいいって言ったって、次も私が狙われるのよね。もし、私に障害が残っても王妃にする?」
「…私は常に危険と隣合わせだった。次は守る」
まぁそうだけど。あなたは王族でしょう?私は貴族だけれど、あなたの婚約者にならなかったらこんな危険なことには巻き込まれていなかったはずよ。何より、本当に好いてるのは聖女ロゼッタ様で、王妃に都合がいいから私を婚約者にしてるだけでしょう?婚約者になる時点で狙われる可能性はあったけれど、お飾りで狙われるのは割に合わないわよね。だから婚約は辞めたいですわ。
と、言いたいことをぐっと我慢します。ぐるぐると回り話が進まないのはなんとなく感じるので。
「フルール様は間違いなく狙ってくるわ」
「元王族だから下手に手を出せないし、何より証拠がない」
「私、原作での出来事を並べたので、参考になるかもしれません」
「その資料によると事件は高等部からなんだが」
すでに内容は読んでいるのね、仲良しです事。その資料とやらは今持っていないとのことですが。
「時期はわからないけれど、実際に事件は起こったのよね?事件の強制力は侮れないわ。リーリア様、次は侍女が襲われるかもしれないからきをつけてくださいませ」
「あ、ありがとう」
聖女様の言い分では物語の強制力があるとのことで、次は侍女を買収しようとし、襲われるそうです。気をつけるったって、わからない事が多すぎます。甘い物を所望しますわ。
シュークリームタワーはできたかしら。
「では予定がございますので、失礼します。お見送りできずに申し訳ございません」
「…また来る」
殿下は静かに次の来訪を告げますが、私は逃げるように厨房へ向かったのでその時の獲物(私)を追いかけるような表情を見ていませんでした。
今回は(も?)ヤンデレ気質を匂わせます。




