57、事後処理
「―というわけで、リーリア嬢以外の紅茶は入っていない。フィルリスの婚約者に渡すものと理解した上で渡されたものであろう。毒の検出結果だが、医者によると即死はないが、後遺症が残りやすい毒だそうだ」
結論として、私に後遺症を残し、王太子殿下の婚約者を辞退させる流れで差し出されたものであると予想されました。そうでしょうね。王太子の婚約者の座を狙った人、狙っているであろう犯人は王国が責任を持って調べることになりました。フェリスが持ち込んだものですからね。
―毒。臭いを気にしないで飲んでいたら、今ごろ苦しんでいたでしょう。
想像していくと怖くなってきました。狙われているのが自分だったと改めて伝えられたことで不安で落ち着かず、今更ですが背筋がゾワゾワして震えてきました。手をぎゅっと握って震えが止まるように我慢しようとしましたが、その手はフェリスが握っていました。
フェリスは私の隣でソファに座り、手をずっと握ってくれていたので、私の体の震えに気づきました。強く握り返してくれました。
「…リリー、ごめんね」
何でフェリスが謝るのでしょうか?フェリスは確かにプレゼントしたけれど、毒を仕込んだ犯人は別にいるのでしょうし。
否定の気持ちを込めて首を振ります。今はまだ声を出したら声も震えてしまう気がしましたので。
大人達の会話は進みます。ルシールとエネミルは詳細な調査結果がわかるまで月の給与の全額返金の上謹慎が決定、その後減給。いつ辞めても構わないという通告を受けているようです。店の取引記録を確認して今後混入のタイミング等調べるそうです。
☆☆☆☆
王家の皆さんとお父様、兄様達が慌ただしく出立したその夜、速報が届けられました。
『販売者は一週間前に退職。行方不明』
予想はできていました。仕組んだ犯人は怪しまれないよう、足がつかないようにするかもしれないと。
そして、それはこれからも狙われるということです。
「はぁ。やっぱり婚約解消しておけば良かったかなぁ」
面倒そうにベッドへ向かいながらぼやく私にミールとサンレーが
「あの殿下の執着ぶりではしばらくは無理でしょう。リーリア様も嫌じゃなさそうですし」
「え、嫌ではないけどまだ好きでもないのよ。だってまだお子様じゃない?私達。よくわからないわ」
「そうですね。ただ、婚約解消までは時間がかかりそうです。我々護衛は今まで以上に警備を強めて参ります」
「ありがとう」
ではとりあえず解消のことはおいておきましょう。フェリスに嫌だと言われるのが私もわかります。今は解消されたあとの資金作りのため、王都へのカフェオープンを進めることに集中しましょう。
試験が始まる前に場所は決めて、レシピも求人募集も。あ、身元がちゃんとしている人がいいわね。もしかしたら、私が元気に活躍したら、また仕掛けてくるかもしれませんし。今は本屋カフェの準備をしてまいりましょう。
翌朝お母様に相談して、王都に行く日は3日後に決まりました。ブルー兄様にもお手紙を書いたあとは、ルーカン先生と久しぶりの授業です。
「久しぶりですね。まさかこんなに会わずに授業を手紙でやりとりする生徒がいるとは思いませんでした」
「先生、お久しぶりです。試験のこと、何故話してくださらなかったのですか?」
試験勉強は不要と判断されていても、これは気持ちの問題です。
「…ふふふ。忘れていました」
嘘です。その顔はわざとですわ。
「あ、ではこれは忘れずに伝えておきましょう。今日が最後の授業となります。これからは王家より教育係が付くそうですから」
そうですね。私も昨日お母様から聞きました。
「今までありがとうございました」
「こちらこそ。困ったことがあったら一度だけお願いごとを叶えて助けてあげよう」
「クスッ。一度だけですか?」
これは過去に何度も助けを求めた生徒がいたのかしら。
「そう。一度だけ。覚えておいてね。でも、どんなことでも、味方して助けてあげるから」
お茶目にウインクする先生に、教職時代を思い浮かべました。図書館へは教室へ入れない生徒も多くやってきました。味方だよとは言えませんでしたが、ここに居ていいんだよという雰囲気作りは意識していました。彼らの心落ち着く居所になれていたのでしょうか。
「わかりました!一度だけですもの。よく考えてルーカン先生にお願いしますわ」
しんみりしないようにする先生からの餞でしょうか。私はこれから多くの先生と出会っていくでしょう。でも、最初の先生はルーカン先生です。忘れませんわ。
お読みくださりありがとうございました。




