49、殿下と聖女(上)
「こちらが聖女ロゼッタ様」
殿下に強制的に連れてこられた教会で、聖女様と面会しております。
「はじめまして。ロゼッタ・ブロッサムと申します」
艶のある黒髪は前世の日本人を連想させます。また黒に近い青色の瞳だからかもしれません。お辞儀の仕方も前世の雰囲気に近いからでしょう。
「この度は聖女認定、おめでとうございます。お初にお目にかかります。オーキッド伯爵家が娘、リーリアでございます」
こちらは角度の浅い、簡略的なカーテシーで返します。
「すまない。まだ、貴族間の礼儀を学んでいないそうだ。そうだ。リーリアをお手本にすればいいよ」
何を言っているのでしょうか。そりゃ、今まで王妃になるための教育は伯爵家より十分に与えられてきました。お手本にされるほどは頑張ってきた矜持もあります。だからといって、あなたに、婚約者であるフィルリス殿下に言われたくないと思いました。
―だって、何で殿下が謝るのかしら。はぁ。
ムカついていたので一瞬言葉にためらっていると、
「久しぶり。リーリア嬢。フィルリス殿下に無理矢理連れてこられたみたいだね?」
クリス殿下が教会の中から駆けつけていらっしゃいました。
「お久しゅうございます。クリス殿下。聖女様との婚約ですが、今一度再考いただけないでしょうか?」
フェリスがわからず屋ならクリス殿下を説得してしまいましょう。
「…ここでは何だから、客室へ。ちょうど用意もできたし」
確かに注目を浴びておりますわね。聖女様が気になって気づかなかったですわ。
静かに客室へ向かうと、早速フェリスが
「婚約は解消しない。聖女ロゼッタ様はクリス殿下と婚約する」
とドアも閉まらぬ間に話し出します。
「…そうだね。私はロゼッタと婚約したい」
見つめ合うロゼッタ様とクリス殿下。2人の世界が桃色のバラが咲き誇ったようになっています。どう見ても相思相愛じゃないですか。殿下、負けてますわよ。鑑定してみましょう。
【ロゼッタ・ブロッサム(女)5歳、女神の慈愛、治癒スキル、聖女、転生者、前世で読んだ漫画と酷似した世界に困惑、クリスが好き、押しキャラは腹黒インテリ眼鏡】
【クリス・フォン・ザイデルバルト(男)10歳、指導者スキル、耐毒性スキル、スワンツィード王国王位継承権2位、尻フェチ、聖女に夢中、フィルリスとの共謀中】
…二人共情報過多で、すぐには処理できませんでしたわ。
「…」
ただ、2人の世界に入っていたので、気づかれなかったようです。
「嬉しいです。実は私、初めて会った時から好きでした。こんなに早く婚約できるなんて」
そりゃ、好きなキャラが目の前にいますしね。押しキャラはインテリ系であれば、クリス殿下は将来いい感じになりそうな顔しておりますものね。
「私も、お慕いしております」
見つめ合う2人は今にもラブメロディのエンディングが流れてきそうです。別れることは今のところないでしょう。それくらい、はっきりとした相思相愛のようです。
「私も鑑定して?」
とうやらフェリスは私が鑑定しているとわかったようです。
ただ、フェリスを鑑定するのは怖いです。
私よりも聖女が好きだけど諦めているとか、私を側室にしたいとか、表示されたら、私は冷静でいられる自信がないのです。じっと悩んだ顔をして、ごまかし、返事もできないでいると、
「…じゃ、2人の鑑定を表示してくれない?私にだけ見せて?」
2人の鑑定表示を要求されました。本人には見せないで表示することは今までありませんでした。なんとなく狡いようで、された人も不快に感じると思っているからでしょう。フェチネタが性癖に通じるものもありますし。
今回の表示の問題は聖女様が転生者とでてくることよね。聖女様にとってどんな影響になるか、未知すぎてわからないわ。
首を振り否定します。それを見ていたクリス殿下と聖女ロゼッタ様は
「リーリア嬢には伝わってないようだよ。フィルリスはちゃんと話したの?」
「そうね。領地から無理矢理連れてきた感が強いわね。リーリア様、私達を鑑定しました?」
それぞれ話しかけます。
「…ちゃんと話したが、伝わっていない。私も鑑定してくれたらいいんだけど」
「聖女ロゼッタ様、鑑定いたしました。表示するには本人と、その親しい人とがいいのですが」
私は注意事項を伝えます。少し棘のある話し方になっているかもしれません。
「いいわよ。あと、フィルリス殿下も鑑定してはどうでしょうか?本人の希望ですし」
はいはい。もう知らない。表示したらすぐに帰りましょう。
「表示」




