45、新味
「で、ポテイトチップス、問題作がこちらになります。人気は塩とコンソメです。」
出されたポテイトチップスは見るからに辛そうな感じです。いや、わかりません。この赤はトマトソース味かもしれません。
「…パリッ」
…!!辛っ。スパイシーな香りが鼻を突き抜け、涙が出てきました。刺激的な味がしますね。
「水をどうぞ」
涙が頬を通る前に慌てて拭い、差し出された水を飲み干します。
「コホン。ありがとう。辛いけれど、これはこれで人気が出ると思うわ。スパイスは調整できるのでしょう?好みで辛さのレベルを選べるようにしたらどうかしら。あと、コーンスープの粉状はどれくらい進んだのかしら?ソース系は粉末にするのがやはり難しいのね」
味のバリエーションは無限です。今度の夏祭りでは辛いポテイトチップスが話題になりそうです。
「リーリア様のおっしゃる通り、ソースは焦がしてしまう部分があるのか苦味が出てしまうこともあります」
回りに付けてしまうのもありかもしれないわね。まるでチョコソースのように。あ、前世で大好きだったあのチョコレートがついたポテトチップスを食べたいですわ。
「付けて食べてもらいましょうか。ソースだからそのまま付けながら食べるのも理に適っているわね」
「なるほど。ただ、そうなると屋台では難しいですね」
「ディップスポテトとして別にしましょう。切り方は細長く角切りに」
試した味はぼんやりとして、じゃがいもにソースをかけただけになりました。
「うーん。熱いうちに塩を絡めた上で販売よね」
これでは前世のフライドポテトです。まぁいいでしょう。美味しいですし。
そして、厨房へ入った時から気になっていたんですが、ミールの相方がさっきから見当たらないんですが。今日はどうしたんでしょうか。
脇フェチの副料理長、ヴィユノークに聞いてみると、明らかに動揺して気まずそうに目を逸らして
「…リーリア様には顔向けできないと、隠れてます」
はい?
「どこに?」
「外に。先程買出しから戻って来たようですが厨房へは入れない様子でヒョコヒョコ頭が見えてます」
チラッと視線が窓際に移ります。あそこですわね。何で逃げるのでしょうか。私に顔向けできないとはどういうことでしょうか。
「…お付き合いしているミールさんへプロポーズしたそうですが、良い返事が貰えないそうで、その理由としてリーリア様が原因だとかの言い争いをしたらしいです。本人は反省しているんですが、やはり気まずいんでしょう」
こっそりと追加情報を提供くださいました。
…ミールは断っていないはずです。了承してツワンの胸に飛び込めないだけのようです。しかも彼を好きであるのは鑑定して知っています。原因は私?
「リーリア様は関係ありません。私、ちゃんと話してきます」
私の近くにいるので話が聞こえたのでしょうね。泣きそうな表情で厨房から飛び出します。心配です。副料理長と私は慌てて追いかけます。
「「ごめん」なさい」
いきなり互いに謝る声。もちろん何について謝っているのかわからないようで、「え?」とか、「あのっ」とか、言いだせない2人を影から見てる私と副料理長。頑張って!ミール!
先に復活したのはツアンです。
「あ、えーっと、急なプロポーズで、びっくりさせたと想う。ごめん。リーリア様のせいで結婚できないなんて言ってしまったのも反省してる。だから、頼む。断らないでくれ。話を聞いてくれないか?」
「私こそごめんなさい。でも、すぐには結婚はできないのよ。リーリア様の侍女として、オーキッド伯爵家との契約があるの。これからの生活もあるし、もう少しだけ待ってくれない?」
「でも、ミールも子供、欲しいだろう?子育てスキルがあって、いつか自分の子をって話してくれたじゃないか」
「うん。ただ、それは叶わない夢って思ってることも話した「いや、俺の子を産みたいって言った」先にオーキッド伯爵家との契約を了承したの」
「産みたいなんて言ってない。いたら幸せだなって。もう、ごめん。別にいいじゃない」
ツアンの強気は相変わらずね。人の話を聞いていないのかしら。すぐにはって言っているから結婚はしたいようだし。そして、契約を理由に何故か逃げようとしているように感じるミールにムカムカしてきました。
「私のせいにしないでくれる?」
「リーリア様!すみません」
「契約は本日付けで破棄するようにお母様に進言しますわ。それで、契約がなかったら、あなたはどうするの?」
「そんな。リーリア様の侍女でいさせてください」
「だーかーらー。ツアンとは結婚するの?しないの?」
「でも、結婚となるとお休みも増えてしまって、これから忙しくなりますし」
「そんなこと言っていたらいつまでも結婚できないわよ」
前世でそう言ってたくさんの教職員カップルを励ましてきました。まさか、ここに来てこのセリフを言うとは思いませんでした。
「ミール、タイミングよ。むしろ、私が婚約解消するタイミングでさらに騒がしくなる前に、結婚しちゃったほうがいいわ」
「え、リーリア様、婚約解消されるんですか?」
副料理長が恐る恐る確認します。
「…いずれね。まだ発表されたばかりだからどうすることもできないけれど、解消したいと思っているわ」
呆然と私をみるツアンに
「で?私を避けた理由は?私に向かって邪魔だ!と言ってしまうから?」
「滅相もない。リーリア様はプロポーズしたことも知っていて、好きになった女を幸せにもできないなんて情けないと言われて、怒られてしまうかと」
そっち?私はそんなキャラなんですの?
「…確かに情けないとは思いますよ」
「ですよねぇ」
「ですが、情けないのはツアンの話を聞かないミールよ。あと、ツアンの気持ちはわかったけど、貴方達の生活やこれからの将来設計は?プロポーズのあとや、その前に、きちんと将来について話し合ったの?貴方は少しでも彼女の不安を取り除こうと努力したの?」
思わずお怒りのように問いただしてしまいました。
殿下が私を側室に考えているとか、そういうのを話してほしい気持ちを重ねてしまいました。
「ふぅ。とにかく、本日中にお母様にはミールの契約を確認して、貴方達の結婚も視野に契約変更をお願いするわ。あとはちゃんと話し合いなさい。結局好きな者同士、結婚するのが一番よ」
そう。好きな者同士が添い遂げるほうが良いわ。




