43、誕生日祝い
お茶会のあとは、夜会に向けての準備です。
「家族で少しだけお祝いしよう」
通例だと、お茶会のお誕生会のあとは家族とゆっくりお祝いをするそうですが、今回は夜会の予定が入っているので、合間、夜会の始まる前にリビングで少しだけ集まることになりました。リビングにはすでにプレゼントがいくつも並んでいました。
「リーリア、お誕生日おめでとう。6歳という節目を迎えられて本当にうれしいよ」
お父様が近づきおでこにキスしてくださいました。
「リーリア、お誕生日おめでとう。プレゼントはあとからです。夜会まで頑張りましょうね」
夜会まで気を抜けないと、お母様自身が自分に言い聞かせているのかもしれません。こくんと頷くと、ぎゅっと抱きしめられました。お母様と一緒にいるときに感じるいつもの香りがふっと感じられて、癒やされました。
「リーリア、お誕生日おめでとう!私はリーリアと同じく夜会は途中までだから、あとで一緒にプレゼント開けましょうね」
お姉様の恋人は婚約までの話にはならなかったので、マイク兄様と一緒にペアになり、途中退席することになるようです。
お姉様の恋人?は2週に1度のペースでデートを重ねているようですが、決定打がなく本日まできているようです。
「おめでとう、リーリア。トレミエールが勝手に開けないように見張っとくからね」
「失礼ね!」
「…一緒にお願いします」
プレゼントを開ける作業もお兄様とお姉様が一緒なら楽しみです。夜会の後に少しだけ夜ふかしして楽しみたいですわね。
「リーリア、お誕生日おめでとう。婚約したからと言って、私の妹にはかわらないんだ。大好きだよ」
ブルーお兄様は相変わらずの弟妹溺愛です。お父様が普段しているのと同じように頭を撫で撫でしています。
「ありがとうございます!私も大好きですわ!」
おめでとうに頷いていたりしていましたが、伝えたい思いが溢れました。家族におめでとうって言われて嬉しくないはずがないです。
「ずるーい!私も大好き言ってもらいたい!」
すかさずお姉様が催促します。
「ありがとうお姉様!大好き」
私はお姉様に抱きつきます。
「オレは?」
「マイクお兄様も大好きです!ありがとうございます!」
その様子を微笑ましそうに見ているお父様とお母様にももちろん、
「お父様、お母様、大好き!」
とマイクス兄様とトレミエールお姉様の間でもみくちゃにされながら伝えます。
これが、どんなプレゼントよりも嬉しい時間だということを私は知っています。前世の幸せな記憶がそこにあるとわかるからです。私は家族を作ることはできませんでしたが、妹家族の誕生の瞬間や、自分に向けられる純粋な家族枠での好意を感じてきました。そして、人生の中で、そうでない人もいる、いた、ということをすでに知っています。
人生の節目にお祝いされることの嬉し恥ずかしの瞬間ですが、自分を思ってくれたあの瞬間は奇跡の瞬間だったと思うのです。まさに、プライスレスの時間だと思います。
…くしゃくしゃ、もみくちゃになったドレスと髪に文句を言われながら手直しされても、です。
☆☆☆☆☆
夜会のドレスは青です。殿下の瞳の色をイメージしようとしましたが、うまくできたのでしょうか。切り返しで腰から上を濃い青、ふわっとした素材で濃い緑でおおい、薄い青を胸元から腰まで斜めにフリルをつけた、かなり大人っぽい王道のAラインドレスになっています。
「婚約披露宴は大人っぽい雰囲気にしてみたけれど、逆にお子様らしくしたほうがよかったかもしれないわね」
同じような雰囲気のドレスが多いようで、青系が流行っておりました。私は単純な大人のドレスのミニチュアバージョンになってしまったなぁと呟いておりますと、
「確かに」
と、隣で同意する声が。夜会の開始宣言の後に紹介され、その後は二人で陛下達に挨拶に行った後に「おめでとう」とスライドで声をかけられ、「ありがとう」と返事をする一連の流れを繰り返します。お子様用の椅子が2つ陛下と王妃殿下の横に用意されていたので疲れた時に座るのかしらと思っておりましたが、長い挨拶の列が連なる様子をみて、ずっと座ろうと決意しました。後は説明されていた通りです。10歳になっていない子供達は基本参加できませんので、もちろんフィルリス殿下も退室します。また、結婚できる年齢になる前の14歳以下の人たちは早めに帰る傾向があるようです。
「あ、挨拶終わって退室したら、誕生日プレゼント渡したいから、すこしだけ時間ちょうだいね」
「嬉しいです。ありがとうございます」
そう話してからすでに1時間。まだ途切れる様子がありません。トレミエール姉様とマイクス兄様もさすがにそろそろ帰ろうかなとこちらを見ています。もうほとんど残っていないようです。やっと列が短くなりましたが、まだ最大伸びていた列より半分くらいになっただけです。
お姉様達とは一緒に帰れないかもしれないわ。帰ったらプレゼントを開く予定だったのに。
「「ありがとう」ございます」
ついに殿下とシンクロできて、同じタイミングでお礼を言えるようになりました。
「「ふふふ」」
一緒に重なったのが嬉しくて、面白くて、二人で顔を合わせて笑いました。
「お二人の仲の良さが伝わってきました。仲睦まじい婚約になりましたこと、お慶び申し上げます。王家のますますのご繁栄をお祝いいたします」
挨拶していた子爵が重ねて話します。
そして、私達が笑い合ったのが少し注目されたのでしょう。私達の様子を見たご婦人達が微笑んでおります。恥ずかしいですね。
視線を感じてからは挨拶の方に集中してあまり気にしないようにしていました。お母様直伝の笑みで対応です。
「増えてないからそろそろだね。後5組かな」
殿下はこの流れ作業のような一連の挨拶の中に、国に関わる重要なきっかけや課題を見つけ出すのを課題にさせられているそうです。見つかったのかしら。
「初めての夜会だけど、隣に父上達がいるから前回のお茶会よりは我を出す人は少なかったかな」
冷静です。私はこの初めての雰囲気と挨拶対応で課題の余裕はなさそうです。礼儀指導の通りに優雅な動きに集中でした。しかも挨拶は私に対してはほぼ同じ内容ですしね。
同じ動作を繰り返し、いよいよ最後の挨拶後、気配を消せる執事がさっと存在を現し、退室へと促します。
引き留められないように素晴らしい速さです。
「プレゼントをお持ちしました」
「うん。はい。プレゼント。リーリア、リリー、誕生日おめでとう」
薄い箱を開くと、水色の空模様、薄いピンクの花柄模様など、様々な柄の便箋セットが入っておりました。
「これからもよろしくね」
「ありがとうございます。この便箋セットで手紙を書きますわ。こちらこそ、これからよろしくお願いします」
私達にぴったりのプレゼントです。今更ですが、私は殿下の誕生日、何も準備しておりません。あの時は婚約者でもなかったので、受け取ってくれるかもわからなかったですし。
今からでも渡したほうがいいのかしら。今更よね。とりあえず御礼状は書いておかなきゃね。




