42、お誕生会
朝からいつも以上の早起きで、いよいよ本日誕生会となりました。お昼過ぎからお茶会はスタートし、婚約発表後には一旦閉会して婚約披露の夜会が王城で行われます。
子供はスタートだけですが、初めての夜会です。私の好きな小説にも外国の夜会シーンがありました。再会するラストシーンは何度読んでもキュンときました。きらびやかな世界を大人になる前に体験するなんてワクワクが止まりません。
と、盛りだくさんの1日になりそうです。すでに書類は早朝に役所へ届けられて、婚約は無事に結ばれたそうです。
「準備は万端よ。あとは体力勝負よね!」
お昼過ぎには来賓のご挨拶でペコリ。同じ挨拶を繰り返します。殿下がやってきたところでは正直ちょっと疲れておりましたので、思わずほっとした顔で笑いかけてしまいました。
「何がおかしいの?」
小さな声で話しかけられたので、私も小さな声で話します。
「ちょっと疲れたなぁと思ってたら知っている顔みてほっとしたの。ふふふ。今日はありがとうございます」
「久しぶりだね。ふふ。お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。今日はよろしくお願いいたします」
「後でね」
お互い小さく手を振ります。フィルリス殿下と、王妃様で2人、会場へ入り、いよいよスタートです。
「本日は我が末娘、リーリアのお誕生会にご出席くださいまして、誠にありがとうございます」
この国では6歳が特別な節目になっています。スキル発覚後の初めての特別なお祝いとして、スタートしたそうです。貴族は大々的にお披露目をします。
本日の私のスタイルをご紹介しましょう。ドレスは全体は淡い黄色、金の刺繍が袖を彩っております。青のリボンと組み合わせましたので、見る人が見れば殿下の色と気づくのでしょう。この2か月間、本当に忙しかったのです。
まず傘は思ったより時間がかかりました。大人用は樫の木で作り上げました。先月納品し、順次発注に答えています。ロシアンクッキーも思いつく限りの種類をレシピ化し、もうすぐクッキー専門店がオープンすることになります。
最終マナーレッスン、商会の打ち合わせ、婚約発表に向けての準備、すでに婚約の噂を聞いたご婦人のお茶会出席と目まぐるしく過ごす中、フィルリス殿下にはお詫びのパンからお礼の手紙を出して、また行こうねとお互い手紙のやりとりのみとなりました。
フルール様も公爵地へ戻られたと聞きましたが、私の予定が合わないまま、今日まできてしまいました。久しぶりに会えました。殿下の服は私の琥珀色を差し色にしてくださった黒の正装です。お母様いわく、同じデザイナーにお願いしたそうです。
「本日は王家の方々にもご足労いただきました。この場を借りまして本日誕生日を迎えました我が娘リーリアと王太子フィルリス殿下の婚約を発表させていただきます」
事前に十分な噂になっていたようで、驚く方はほとんどおりません。発表後は拍手をいただきました。
フィルリス殿下はこちらへ向かってきます。このあとは手をつなぎ、二人で礼をするんですよね。
手を繋いだら、なんだか恥ずかしくなりました。こんなお子ちゃまで婚約なんて、前世は婚約も結婚もしたことがありませんでしたので、緊張しています。
まだまだ結婚するイメージも何もないですが、この婚約が幸せな時間と感じているのは変わりません。
婚約おめでとうと言われるたびにホカホカとした気持ちになります。
「本日はお誕生日ならびにご婚約おめでとうございます。素敵なハンカチをいただきまして、娘もとても喜んでおりました」
青い髪はお母様譲りなんですね。その節は娘さんにお世話になりました。挨拶をうけて会釈します。
「今日はアントリア様は?」
「お菓子コーナーが楽しいようで、すみません」
申し訳無さそうにサージェント伯爵家夫人がお母様と話しております。
少し離れたところに見えるあの青髪の少女ですわね。今日は薄いピンクコーデで柔らかな印象となっております。
本日のお菓子コーナーはクレープ屋を出張してもらいました。チョコタワーに小さなシュークリームをたくさん重ねたタワー、マカロンのタワーも作って、小さなかごを持ち、大人は皿で、テーブルごとに好きな数を渡してもらいます。そのまま食べ終わらなかったら持ち帰りしてもらえるように工夫しました。お菓子のアミューズメントパークのようにいくつかのテーマごとに楽しんでもらいます。
正直、私も挨拶そっちのけで、食べにいきたいです。すでに全食味見で制覇してはいますが、デコレーションされたあの美しさはなかったので、やはり味が違う気がします。積み重なったところにチョコソースなんてかけては最高でしょう。
「リーリア?クレープ屋の方はなんという名前でしたか?」
「ふぉはい!ミント・クルーと言う名前ですわ!」
危ない。心がお菓子コーナーへ向かってました。お母様、ジト目でみないでくださいまし。今日は行けないとわかっておりますわ。がんばります。
何度もお菓子コーナーへの誘惑がある中、お茶会は進んでいきました。




