3、スキル判定
「はい。今日はここまで、計算、数学的な観点は大変素晴らしい。が、こちらのスペル間違っていましたよ。あとはこちらの書写を宿題とします」
メガネのおじいちゃん先生、もとい、家庭教師、ルーカン先生が授業の終わりを伝えます。
「ありがとうございました」
予定通り3歳から王妃教育が始まりました。と言っても確か3歳くらいの時ってずっと座っているのもできないような気がしましたが。前世は甥っ子姪っ子の成長を見ていたはずなのに、すでに記憶は朧げです。
リーリア、5歳になりました。前世の知識で天才!とか神童!とか呼ばれるんだ、と異世界転生した物語は最初からチートだとか、生徒が話していましたが、伯爵家の皆さんは私が前世持ちですでに数学ができたり、理解力が早くても特に疑問に思われることがなかったようです。私達兄弟は、4歳から授業を受けていたそうですから。
……お姉様方、とくにブルー兄様、スペック高いですね。前世の知識があるから最初だけでも神童とか呼ばれるかも、とか思いましたが、私、ちょっとだけできる平凡なお子様扱いです。お兄様、お姉様が出来が良すぎるのです。スタートから前世持ちでこのスペックが当たり前なんて、これからがプレッシャーですね。
「スキル判定はいよいよ明日ですよね?スキルはおそらく理系だと思うのですが、自覚したあとどれほどの変化があるのでしょうか。楽しみです」
ルーカン先生は好々爺然として退室しました。
それは前世の知識のおかげです。
…もし、スキル判定で何もでなかったら、計算能力を活かして平民になるのもいいかもしれません。商会を作ってこの世にない便利グッズを作り出し、一儲けしましょう。
でも、その時にはお母様は嘆き悲しみ、自分を責めるでしょう。王妃に、と願い産んだ娘がスキル無しだなんて。
☆☆☆☆☆
「私は経理スキルがある気がするな。私のスキルと同じ」
そして、本日、スキル判定へむかいます。
一緒にいくのはお父様、お母様です。ちなみにマイクス兄様とトレミエール姉様は学園で、ブルー兄様はお仕事です。学園を卒園して王城の総務省へ入ったばかりだから休めないとのことでした。王都でお父様と一緒に働いているそうです。
――どうか、何らかのスキルを持っていますように。
領地で1番大きい教会へ向かいます。
スキルは神様からの贈り物という概念から、現在は教会が管理しているそうです。スキル判定する器械が設置されている広間へ向かいます。
教会へつくと私の他にも子供たちが数名来ていました。
「近隣の下位貴族の子供たちよ」
お母様が囁きます。
私達オーキッド伯爵家は7つの領地をそれぞれの下位貴族に割り当てて、管理していると習いました。マイクス兄様の師匠、母方のおじい様は小さい領地を割り当てられてのんびり領地経営しているそうです。
おじい様のところへは、学園へ行く前までに、遊びにいきましょう。疎遠ではないのですが、護衛の問題上まだ小さいうちは連れていってもらっていないのです。
伯爵家はそれぞれメインの領地にプラスいくつかの周辺の領地管理をしています。現在の伯爵家は4つ。いわゆる高位貴族と呼ばれます。
そういえば先月、王弟殿下は公爵位を授かりましたので、高位貴族は公爵家と伯爵家ですね。
考えごとをしているうちにお父様へみな挨拶しようと人集りができてきました。
お母様はすぐに私を子供たちの集まるところへ連れていこうとします。
「リーリア様、お初にお目にかかります。私、お父様の領地の隣を管理しているサモナーと申します。私の息子も本日スキル判定を受けるのです。ぜひお声かけください。私にそっくりの髪色ですからすぐにわかるでしょう」
青の髪色をふぁっとかきあげ進路を塞ぎ、私を見つめます。こういう人いると聞いていたけれど、まさか本当にいるとは。ため息が出そうになるのをそっと抑えて、
「…ご子息に神のご加護がありますように」
静かに伝えてスッと通り過ぎます。
「…よくできました」
お母様に褒めていただきました。
領地の貴族の中には私達と必要以上に仲良くなって贔屓をしてもらおうとする者もいるそうです。もちろん単純に親しみをこめてという方もいらっしゃいますが、そのあたりの見極めは非常に難しいそうです。先ほどの方は前者でしょうか。息子さんが仲良くなるようにわざわざ紹介しましたしね。おそらく、跡継ぎなのでしょう。私へ向けて話していましたが、お母様へ紹介していたのだと判断しました。
「いってらっしゃい」
スキル判定の間へ下位貴族の子供達と一緒に入ります。
みな緊張しているのか、ヒソヒソとした声しか聞こえません。
「ほら、領主様の2番目の娘よ。フリルたっぷりの短いワンピース、可愛いわね」
「袖にもフリルなんて、考えもしなかったわ。重くなりそうなのに。あの淡い色合いがいいのでしょうね」
でしょう?ロリータファッションへの情熱を忘れずに、本日全力で編み込みブーツにパニエを着てフリルたっぷりで勝負しましたのよ。薄い水色が、たっぷりのフリルを軽くしてくれます。分かってますわね。この娘たち。
スキル判定をする子供達は私も含めて5人、女の子が3人、男の子が2人です。先ほどの人の息子、青い髪の子もいます。
不機嫌そうに神官がボソボソと説明していきます。
判定具に手を添えてスキルを見るそうです。スキルがあった場合、表示がでてきます。そして、自覚してからスキルを使えるようになるそうです。いわゆる無意識領域からの脱却でしょうか。たまに5歳になる前にスキルを自覚して無双する子供もいたそうです。すごいですね。
下位貴族からどんどん呼ばれていきます。
先ほどの女の子の一人は裁縫スキルです。スキルは1つしかない人が多いようです。お父様とブルーナスお兄様の2つスキル持ちは珍しいことなのでしょう。
「リーリア・オーキッド・クリサンセマム」
無愛想な神官が呼び、判定具へとむかいます。せめて、何かのスキルがあってほしいです。
緊張した震える手を透明な水晶のようなものがついた器械へかざします。
【スキル判定結果︰鑑定、料理、祝福】
ざわめく家族席。私はスキルがあることにホッとして、家族席の声は聞こえていませんでした。
「祝福のスキルは王都で詳細判定をしていただくことになります。私がここへ赴任してから初めてみました。報告を楽しみにしております」
無愛想な神官が口元を綻ばせて話します。
おじい様の領地の前に、王都へいくことになりそうです。