36、お出かけ2
「リリー、こっち!」
「はぁ、はぁ、はぁ。ちょっと飛ばしすぎ。フェリス」
「…っと、ごめん。フルールの部下に見つかりそうだったからさ。たぶんあいつら見つけたら報告して、フルールがすぐに偶然を装って現れるからさ」
走り方や路地に隠れるのが明らかに誰かに追われているような感じでしたが、そういうことでしたのね。大変ですわね。
「ふぅ。そんなに接触したがってるの?」
「ああ、日傘を壊してしまったことを謝りたいって、俺に言ってくるんだ。謝る相手は君で俺じゃないのに。他にもいろいろ理由をつけて一緒にいようとする。今日は出かけるって知ってるから一緒に行きたいってしつこかった」
その状況でわざわざ出かけなくてもいいのに、フルール様は領地に戻る予定はないのかしら。
「私の護衛も振り切ったみたいだ。むしろフルールの部下に捕まって聞き出されているのかな?ははっ」
楽しそうです。私の護衛のルマが苦々しくこちらを見ています。サンレーは付いてこれなかったのでしょうか。これは殿下の護衛も経験した差でしょうね。
「…彼らは私の指示に従って足留めをしたんだ。咎められることはない」
「…」
「…リリーの護衛を頼むよ」
「承知いたしました」
2人の間は声をかけにくい雰囲気ですわね。こう、男同士の部下と上司?のような?。これで6歳児とは末恐ろしいです。やはり生まれながらの王族なのでしょうね。
「さて、木材についてしらべるなら、家具屋の職人、木の小物を作る職人に聞きにいくだろう?まずはここ!」
「まさかとは思ったけど、ここへ入るの?」
「リリーなら気にしないかなって思って」
確かに手紙では結構現実的なことも書いたけれど、実際に見るのとやるのは違います。今フェリスと入ろうとしている家は、一言でいうと、継ぎ接ぎハウスです。トタン屋根に壁はベニヤ板が無造作に張られて、しかもそれが色んな色と材木の板です。私が見た王下街は、板の張り合わせた家はなかったはずです。風変わりな方が住んでいるだろうとしか感じられないのですが。さすがに貴族令嬢として過ごしてきただけでは無理そうです。前世も合わせて○十歳という矜持をふるいたたせて平気そうな顔をします。
「…面白そうな家主が住んでいそうね」
「うん。でもセンスは抜群なんだ。王家御用達の職人で、アイデアは天下一品だって、親父が言ってた」
親父って、国王陛下よね?ってわざわざ言葉にして確認はしないけれど、真の芸術家が住む家はきっとこんなかんじなのよね。
「事前に行くとか話しているの?忙しい方なんでしょう?」
「いや、事前に先触れ出されるのが嫌らしくて、断るんだって。自分で行って信頼を得て発注してこいって」
「…わぁ」
どんな肩書も関係ない、頑固な職人のようです。だからこんな変な家の作りで、ドアを叩くのも試されているような気がしました。
「…んじゃ、ノックするね」
首を縦に振り、一緒にドアを見つめます。ドアノブは人の顔?あれ触るんですね。
コンコンコン「レンダーさん、入ってもいいですか?」
「おう、いいぞ。今一段落したとこだ」
あら?意外とノリのいい返事ね。作業中ではなかったのかしら?
カチャリとドアを開けると木の蒸されたような香りがツンとしました。
「あ、ヒュージーさんの倅か、見てすぐにわかるな。ちょうど俺の休憩時間に合わせてきたんだろ?」
にこにこと国王陛下の名前をさらっと言って、フェリスが誰かを当てました。マッチョなスキンヘッドさんです。フェリス、事前調査は完璧ですわね。
「んで?嬢ちゃんは?倅のおっかけ?」
違います。
「はじめまして、リリーです。木に詳しい人に聞きたいことがあって会いにきました。この日傘の柄と芯になる相応しい木材を探しています」
折れた日傘を見せます。
「…ふむ。面白いものを作っているな、ここまで軽量化したのはすごいな。その分、強度が追いつかないのか」
一目で判断されました。
「…これだと、樫、チーク、エゴノキ、竹、試すならこのあたりか?」
さっと材木を上げてくれました。すでに手に取っているのは竹です。あ、確かに竹の傘は知っております。あと、チーク、エゴノキ?聞いたことないです。すぐに試すには竹のようですわね。
「なるほどです。ありがとうございます。骨組みに関しての木材を知りたかったので、助かりました」
「で?用はこれだけ?嬢ちゃんの付き添いだったん?わざわざここまで来て」
「いや、仕掛け箱を作ってほしいんだ。開封に時間がかかる、大事なものを入れる箱。時間は急ぎでない。大きさはこれくらい」
フェリスは手を広げて抱えるように大きさを表現しました。
「はは、宝物を入れる箱ですか?お任せください」
「国随一の職人の技を間近で体験するのが今の課題になっているんだ」
フェリスはこそっと話して教えてくれました。時間が掛かりそうだけど、いいのかしら?
「壊されて中身を出されないように頑丈にして。普通に開けようとしないかもしれないしね。でも、持ち出したいときの軽さもほしい」
「こりゃ難題ですな。…ご期待くださいね」
自信満々にニヤリと笑って答えました。やる気に満ちあふれておりますわね。
「このあとはどこか行きたいとこある?」
「そうね。この通りは職人?ガラス職人に会いたいわね」
前世は食器収集も一時期ハマっておりましたわ。いつもペアで購入しているのを妹が鼻で笑っていました。
この世界のガラス工芸はどんなものか、興味があります。
「何か頼むの?そうでなければ、雑貨屋とか工芸店へいったほうがいいけど」
「そうね。雑貨屋にするわ」
継ぎ接ぎハウスを出ると殿下の護衛が2人とサンレーが待っていました。
フルールは2人のデートの邪魔をできるのか!?




