34、婚約の了承
『リリー
手紙を送ろうと思っていたから先に届いて驚いた。手紙ありがとう。今日は大切に作ってきた日傘が壊れてしまってとても悲しい気持ちにさせてしまってごめん。無理に取り返すことなんてしなければよかったのかな。結局騒ぎが大きくなってしまった。君が私の立場だったらどうしたかな。ごめん。
本当は今日、婚約の話をするつもりだったんだけど、それどころじゃなくなってしまった。すでに聞いていると思うけど、自分で伝えたいんだ。手紙になってしまうけど、リリーに悲しい顔させたのにこんなこと書くのは反則だと思う。でも、まだまだ頼りない私だけど、君と共に歩みたい。リリーと共にこの国のことを考え、より良くしていきたいと思ったんだ。どうか婚約を了承してほしい。次に会える日を待ち望む。良い夢を フェリス』
「っはぁ」
返事をするために席についていた私は思わず手紙に顔を埋めました。ゴンとおでこをぶつけております。
私は今、顔が真っ赤でしょう。こんな手紙は今までもらったことがありません。おでこも赤いかもしれません。
まるで前世の恋愛小説に出てきた、しかも私の大好きなハーレクインのプロポーズのセリフのようです。御曹司や王子系ですわね。悩んだヒロインへ駆け寄り告白するのよ。実はすでに子ができてたりするパターンが好きだったわ。やはり物語はハッピーエンドよね。現実逃避して、恋愛小説のイケメンに喋らせました。いや、5歳児の金髪美少年が言うイメージがないんです。ほんと。
「まるでラブレターみたいじゃない。えーっと。婚約の了承・・・か。こちらから拒否はできないとわかってるからお願いしてるところが交渉上手というか、なんというか。はぁ。お返事どうしましょう」
今までは課題についていっぱい議論して、時節の挨拶でした。業務連絡といっても過言ではありません。私が先にありがとうの気持ちを込めて急いで書いたのは今までとは違う、気持ちをメインにした手紙でした。殿下も急いで書いたのかしら。これに返事をするのはなんだか恥ずかしいし、そもそも何て書けばいいのでしょうか。
「ラブレターみたいじゃないではなくて、ラブレターなんですかね。婚約者ですし。お嬢様へのお返事はございましたの?」
どうやら声に出てたようで、侍女のジーナが声をかけてくださいました。私が殿下へ手紙を書く時間が寝る前で、いつも独り言でつぶやきながら返事を書いているのです。近くで黙って控えてくれていますが、今日は言わなきゃと思ったのでしょうか。確かに少し、おでこが痛いですわ。
「お返事って、さっきはとりあえず、伝えなきゃって思ったから」
「…では、今回も伝えたいことを伝えればいいんです。また会いましょうとか。美味しいところに案内してほしいとか。お忍びデートしましょうとか」
「そんな。たしかに婚約者にはなりましたけれど、えーっと」
「今夜は長くなりそうですわね」
微笑みながらおでこをさすってくれました。
「ミールはお手紙、書いておりますの?」
「最近は手紙のやりとりも減ってきてますの」
寂しそうな、切なそうな顔をしたミールを見て、あまり良くない状況だということがわかりました。ミールは料理人シアンと恋愛がスタートしたばかりでしたね。これは長期間の遠距離恋愛になってしまい、自然消滅してしまうパターンもありますわ。私としたことがうっかりしておりました。
「領地へ戻れておりませんわね。すまないわ」
「あ、いえ、そんな」
「次の休み、長めに取って、領地へ戻って」
「お嬢様の専属侍女です。おそばにいさせてください。確かに長期間ですけれど、予想されていたことですわ」
【会えないことから不安上昇中】
鑑定でも察知されています。さすがに恋する気持ちが育っていく途中ですものね。相手からのアプローチも贈り物や手紙だけではわからないものです。ここは強行といきましょう。
「…では休み含めて仕事で領地へ。ポテイトチップスの味付けの研究結果をまとめて報告してちょうだい。人気の味、新作含めての好みの傾向を私の侍女として確認してもらいたいわ」
うっかりしてました。すぐに出発が決まってから私と同じように領地に戻っていない人がおりますが、私の専属侍女たちは一度も戻っておりません。それが業務ではありますが、きちんと配慮すべきでした。反省です。
「かしこまりました。ありがとうございます」
「こちらこそいつもありがとう。素直に書いてみるわね」
と、あれでもないわ。こういう言い回しは良くないわよね。と独りつぶやきながら、夜は更けて、
私も直接会いたい、傘の開発の助言をしてほしいから、一緒にでかけたいという内容にしました。恥ずかしいので業務連絡っぽく、必要なことだけを書きました。
「明日は早起きの予定はないですが、ちょっと夜更ししすぎです。明日は早く寝てくださいね」
ミールからのお小言を子守唄に聞きながらすぐに寝付きました。
ミールの恋は45話です。お出かけデートのフラグを先に回収します。




