33、お礼
『フェリスへ
お誕生日会で不快な思いをさせてしまってごめんなさい。日傘を守ってくれてありがとう。結局壊れてしまったけれど、フェリスが守ってくれてとても嬉しかったわ。あの時直接言えなかったから急いで手紙で送ります。手紙に感謝を込めて リリー』
「…うーん。これだと結局壊れてって書いちゃったら、感謝が伝わらないかしら、でも、、そうねえ、」
あーだこーだ独り言を言いながら手紙を書きます。夕食前になんとか慌てて手紙を送ることができました。
「リーリア、またフィルリス殿下に手紙?」
トレミエール姉様がニヤニヤしてます。
「今日の日傘事件を起こしたお詫びと助けてくれたお礼ですわ。今日中に送るのが礼儀と思ったのよ」
別に婚約するからって知らせることもないですし、婚約といっても政略結婚でしょうから仲良しアピールとも思ってないですし。
周りのほんわかした雰囲気、正確に言うと私へのニヨニヨした、皆さんの笑顔が少しだけイラッとします。殿下とは皆さんが感じている関係ではありません。お忍び仲間で課題をこなしているだけなんです。誤解しないでいただきたいですわ。
ただ、課題もお忍びも言ったら出かけられなくなりますし。おでかけは正直楽しかったですし。手紙は正規ルートで送らなかった名残でお互い以外は見せないようにしてます。まさに想像に任せるです。声を大にして「仲良くしてるんじゃないし!」と言いたいですが、我慢です。
夕食は傘の発注について話題になりました。
「リーリアの日傘は折れてしまったけれど、あれだけの騒ぎになったので、話題には事欠かないわ。すでに発注いただいておりますのよ。ただ、強度に関してすぐにでも取り掛からなきゃならないわね」
「ある程度軽いけれど、反りにも耐えられる柔軟な木があればいいのだけれど」
「…市場調査しなさい。本屋のようにまた偶然、殿下に会えるわよ」
「…な!」
なんで?知っていたんですね。お母様。えーっと。串焼きロンはバレているのでしょうか。
「ふふ。殿下のお忍びは有名よ。ちなみにとある街娘風の娘とクレープデートしていたのも聞いているわ」
クレープデート?串焼きロンの後ですわね。ギギギっと身体が固まりました。お母様、楽しそうに後出しの情報出さないでくださいませ。
「何?婚約者を指名しておいて、他にいるのか?」
お父様、違います。たぶん、殿下とクレープ食べていたのは私です。お兄様はすぐにピンときたのか穏やかに微笑んで
「ふふ。リーリアのお出かけついでに乳製品の値上げについて調べてきてほしいかな。お遣い費用はもちろんだすよ。殿下と美味しいもの食べておいでよ」
「ありがとうございます。お兄様!」
ええ。もちろん!気になる屋台もたくさんありますから殿下は美味しいところも知っていますし、分けて食べてもらえばたくさんの種類を食べられるはずです。資金もいただきましたね。
私の楽しそうな返事に
「私も婚約者をそろそろ考えなきゃね」
とお姉様がぼそっとつぶやきました。そういえば、お姉様の恋愛事情、最近鑑定しておりませんでしたわ。
【プリンスに恋人発覚、失恋中】
おおっと。恋を自覚し、しかも失恋中とはなかなか楽しい、いや、話題に事欠かないお姉様ですわ。ただ失恋からの自暴自棄になって多数の男を誑かすなんて表示がでてからでは困ります。対策は万全にしなければなりませんわね。とりあえず、失恋内容を調査しましょう。
失恋からの事件がこの間あったばかりですからね。まぁ、あれはお酒の勢いもある大人の関係で結局うまくいきそうな感じですが。きっかけが足りないのでしょうね。ハムラが結婚したらと、2人の中で1つの区切りがあるのでしょうか。
「リーリア様、フィルリス殿下からお手紙です」
眠る準備ができた頃には、殿下からお返事がきました。
「早いわね。フルール様がその後どんな状況だったのか書いてあるのかしら。謝られてももう仕方のないことですけれど、たぶん書いているでしょうね」
さて、お返事を書いてから眠ることにしましょう。
私はいそいそとベッドサイドの机へ向かいます。




