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31、日傘の行方

 差し出されたハンカチを手に取り、お礼を伝えようと顔をあげます。深い青、ストレートの髪が見えました。上目遣いでどうぞと渡されました。私よりも小さい体格の女の子です。美しい女の子であることには変わりません。


「…ありがとうございます」

 美少女過ぎてちょっと詰まっちゃったわ。お人形のような美しさね。


「あの、同じ伯爵家のアントリア・サージェント・クレマチスと申します。私、見てました。ひどいですわね。少し悪い噂は聞いていたのですが、人のもの無理矢理取るなんて」


「私、公爵領の近くなので、交流があるのですが、ごめんなさい。たぶん、あなたと殿下が親しそうで、嫉妬されたんだと思いますわ」


 フルール様より少しお姉様でしょうか。今回の誕生会は子供に年齢制限がありますので、そんなに上ではないと思いますが。嫉妬?なぜに?そして、殿下は?


「ふふ。殿下は今、貴方の為に戦っているわよ。あ、私、ナワヌー子爵家のジーニアと申しますわ」


 ジーニア様の視線の先には言い争うフィルリス殿下とフルール様が。


「何よ!傘ぐらいいいじゃない。私が使ってあげるのよ!あんなちっこい子より目立つわ!」


「だから、あれはリリーが最初から細かい部分もこだわって作った最初の日傘なんだ。今日まで一生懸命、骨組みから軽量化まで調整した一点物なのに、どうしてそれを君にあげることになるんだよ!」


「なんでそんなことフィルリスが知ってるのよ」


 低い声で聞きました。興奮しているのか、フィルリス殿下を呼び捨てです。幼い頃はそう呼んでいたのでしょうね。というか、お忍びと手紙でリリー呼びが慣れてしまったのか、こちらもリリーになっています。誤解されてしまいますわね。公の場では一度しか会っていないのに。


「リリー?フィルリス殿下、リーリア様をリリーと呼んでいらっしゃるのですか。リーリア様とは私抜きで何度か会っているのでしょうか?」


 ここで乱入したのはクリス殿下です。

 えっとそこ聞くこところ?むしろフルール様の兄として止めてくれないのでしょうか。


「お兄さま、いえ、クリス殿下、ご無沙汰しております。創造神の加護と女神の祝福を持つリーリア様を射止めるのではなかったのですか?」


「そういうお前は殿下の不評を買っているようだよ。やめなさい」


 お兄さまにピシッと言われてさすがにうつむきブルブルと怒りを抑えて悔しがっているようです。


「…傘はリーリア嬢に返すこと。私が返しにいこう」


 そう言うと妹の手から傘を取り上げようとします。フルール様も抵抗したようで、取り合いになりました。



「パキッ」



「「…あ」」


 持ち手のところに負荷がかかったのでしょう。もともと反る構造で作っていなかったので、持ち手部分から折れてしまいました。驚いた二人は慌てて傘から手を離します。持ち手の木の部分がカラと落ちる音が響きました。


「…ひどい」


 と呟いたのは私ではありません。同じように思いましたが。フィルリス殿下は折れた傘を手に取り、私のところへ向かってきます。


「…ごめんね。取り返そうと思ったんだけど、折れちゃった」


 いや、違う。首を振り否定して折れた傘を受け取ります。


「…なんで、殿下が謝るのよ。悪いのはあっちじゃない。それに、軽量化に注視しすぎて、強度不足になったのよ。次は軽量化に強度も加えてみせるわ」


 壊れてしまったことはショックで、悔しいですが、無理矢理笑います。殿下を謝らせたくないですし、そんなに悲しい顔させたくないです。せっかくの誕生会なのに。


 さっきのハンカチが役に立ちました。涙をふいていたので笑顔も自然にできているはずです。ありがとうございます。



 いつの間にか、騒いでいる様子に大人達が集まってきたようです。お母様も見つけました。


「…お母様、日傘、壊れてしまいましたわ。強度が足りないようです」


 努めて明るく報告します。


「…そう。大人は目の前で奪い合うことはしないと思うけれど、何度か使う中での耐久性は確認したほうがいいわね」


「はい。大人用の軸の太さなら軽く持つイメージですので大丈夫とは思っておりましたが、男性が握ると折れるのも困りますわ」


「改良を進めましょう。発注頂いた方にはリクエストも受付けてオーダーメイドでお時間頂戴しましょうね」


 お母様がいつもの貴婦人の笑みで私を見ます。あの笑みでいつもは震え上がるのですが、今日は何だかほっとしました。


「そろそろおいとまいたしましょうね」


 そうね。私もそう思いますわ。私もお母様を真似て貴婦人の笑みで退室しましょう。


「失礼いたします」


 お父様も合流し、早々に挨拶して帰路へ向かいました。


 帰りの馬車の中で、少し説教はありましたが、向こうが悪いというのが大人からみてもはっきりしていたそうで、お小言ですみました。思い出しながら、殿下へ取り返してくれたのにありがとうって言ってなかったことに気づきました。へこんでいるでしょうね。急ぎ手紙で伝えましょう。でも、やっぱり直接伝えたいわね。お忍びで街でも会えるかしら。


「リーリア?聞いてる?フィルリス殿下と仲が良いと見せしめたのはいいけれど、言い寄ってくる人も多いはずよ。鑑定しておきなさいね。あと、貴方と話してくれた親切な人にもお礼で今度うちに茶会に誘いなさい。サージェント伯爵家の娘さんには新しいハンカチを返しましょうね」


 うっかりいただいたハンカチを握りしめていました。開くとくしゃくしゃです。

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現代物の軽い読み物です。恋愛なしでゆるっと1500字程度ですので、こちらもよかったらよろしくお願いします!
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