2、兄と姉
リーリア、生まれて3ヶ月が経ちました。
随分と暖かくなって、ミールも半袖のメイド服になりました。外の抱っこでのお散歩も増えてきました。お母様も暖かくなるにつれて順調に回復して、領地経営に精をだしているようです。自分のせいで具合が悪いのは居心地良くないですからね。ほっとしました。悪役令嬢ものの小説の中なら亡くなるとかよく聞きましたし。
私はお母様の執務室の端、サークルの中で寝返りの練習です。
今日は長期休暇でお兄様たちが領地へ帰ってきます。
「お母様ただいま戻りましたわ。赤ちゃんはどこ?ねえ!私の妹でしょう?名前はリーリアって言うのよね!!とっても楽しみにしていたのよ!!」
鈴の鳴るような高い女の子の声が聞こえます。
「落ち着いて、トレミエール」
男の子、こちらはお兄さんという感じの穏やかな声です。
「まぁ、落ち着いてなど、いられますか!そもそも私達はお兄様の長期休暇まで待っていたんですもの!」
「そうだよ、兄さんが俺とミエルの二人だけで戻るのは心配だって、待たされてたんだからな」
どうやら私にはお兄様が二人、お姉様が一人いるようです。
「おかえりなさい。あなた達の妹はそこのベッドで寝ているわ。もちろん賑やかな声で起きてるでしょうね」
寝てません。私は必死で寝返りの練習をしています。お兄様達の姿を見たいのです。手をバタバタ首をぐりぐり、足を反って、もう少しで、と。
グルンとできました。寝返り!!嬉しさのあまりにやにやしてしまいました。
「わぁ!かわいい!」
金髪の美少女がかけよってきました。
「あ、いー、おう、あーあーいー(いや、お姉様、あなたのほうが可愛いし美しい)」
なにこの子達のスペック。美しいにも程がある。長い金髪は動くたびにキラキラと輝き、アメジストより少し薄い色のラベンダーアメジストの瞳。
「はじめまして、リーリア、私がお姉さんのトレミエールよ!」
「俺はマイクス、よろしくね」
こちらはお父様そっくりの瞳で、赤茶髪を短く刈り上げた男の子。まるで外国の雑誌から飛び出したようなモデルの様です。
と、眺めていたら、脇に手を入れられ、ぐいっと持ち上げられました。
「お。あー、あーいー(お、なんで、抱っこはいやだよ)」
せっかく寝返りできて楽しんでいたのに。抱っこされてしまいました。
「え、お兄様ずるい!私も抱っこさせて」
「はじめまして、リーリア。私はブルーナス。会いたかったよ」
サラサラな赤い前髪に細目の琥珀色の瞳、お兄様、いくつですか?少年なのにすでに色気があるんですけど。なんか外のいい匂いがする気がする。
「うーない、あい!(ブルーナス兄さんね、よろしくね!)」
「やばい。めちゃくちゃ可愛んだけど」
ボソッと呟くその声色にもセクシーさがあるのはなぜですか?お兄さん年齢詐欺ですよね。たしか今は13歳、ブルーナス兄さんの学園の高等部の長期休暇にあわせての帰省と聞いています。年上のお姉様方に食べられないように気をつけてくださいね。
「目はお母様、髪はお父様に本当に似ているわね。お父様も一緒に来れたら良かったのに」
一緒に帰って来る予定だったと聞いていました。お父様は王都で経理大臣をしているそうです。抜き打ちの監査を入れることになったと、執事長とお母様が話していましたね。
「仕方ないわよ。お仕事だもの。お父様の洞察スキルが発動したみたいよ。近々大きな監査が入るみたい。マイクスはこのあと、おじい様の領地で特訓するのよね?」
「はい。2年時の武術大会に結果をだせるようにこの休みはおじい様のところへいきます」
「頼みましたよ」
「じゃ、私が夏休みはリーリアを独り占めね!マイク兄様はとおじい様のところ、ブルー兄様はお母様のお手伝いですもの」
「あら?あなたには夏休みに淑女教育を受けてもらいますわよ」
目に見えてしょんぼりしているお姉様もおもしろかわいいです。
この世界には魔法はないけれど、スキルがあるそうです。転生するなら魔法がある世界も憧れておりましたが、もしかしたら浮遊スキルとかで、空を飛んでいる人もいるのかもしれません。
スキルは遺伝的なものと、突発的なものがあるそうで、スキルがはっきするのは大体5歳くらいと話していました。そして、スキルが発覚するのは主に貴族。
この世界について、小さいながらもたくさんの情報収集ができていると思います。えっへん。
私も5歳になったらスキル判定にいくことになるそうです。
どこに?どうやって判定するのか?さっぱりですが、もう少し大きくなったらわかるはずです。スキル無しなんてなったら、貴族の中では落ちこぼれ扱いされるそうなので、何か少しでもスキルがあったらと思います。
お父様は経理スキルと洞察スキルで今は経理省の大臣をしています。
「これから庭でピクニックをしよう」
ブルーナスお兄さん、もちろん私も連れていくんですね。抱っこしたままですから。
☆☆☆☆☆
シートの上で、ごろごろ、寝返りの練習です。
右へはスムーズにできますが、左はなかなか時間がかかります。
ミルクをブルーナス兄さんに飲ませてもらい、トレミエール姉さんの抱っこでぎこちなくもぞもぞしていると、マイクス兄さんにほっぺをつんつん、ぷにぷにされます。
・・・・・・
「ふぎぁー!あー!いー!えーん!」
眠たいんです。寝かせてください。
慌ててミールが駆け寄り、
「眠たいみたいです」
苦笑いしながら説明しています。
「私が抱っこでお部屋まで連れて行くね」
ブルーナス兄さんが抱っこします。安定しているので、部屋につく頃には眠っているでしょう。
「ブルー兄さんずるい」
「こうやってトレミエールも抱っこしてたんだ。懐かしいな」
イケてる声でイケボなんて言葉が前世で流行っていましたね。さっぱりわからなかったのですが、もしかしたら、ブルーナス兄さんはイケボの部類に入るのかもしれませんね。