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28、お忍びデビュー

「お嬢様、お忍び、初めてですよね?慣れてるように見えるのですが。なぜでしょうか」

 それは前世は平民で、もちろん街歩きをしたことあるからです。護衛のルマを撒かないなら大丈夫って思いますしね。

「殿下に負けてられないわ!」

「…そこで対抗心燃やさなくても」


 私、ついにお忍びデビューいたします!

 午前中にはしっかりお勉強の時間でしたもの、いざ、

「串焼きロンへ!」


 ルマは苦笑いしながら案内してくれます。

 今日はルマとハムラのペアです。ハムラは少し離れて護衛してくれています。


 ルマと私は親戚のお兄さんに王都を案内してもらう田舎からきた娘です。


「ということで、私のことはリリーと呼んでね。ルマにいさん」

「お任せあれ!リリーちゃん」

 ウインクで答えるルマもなかなか慣れているわ。

 設定は大事です。何よりお忍びの雰囲気が出ますものね。


「お昼過ぎには売り切れることもあるときいてるから急ごう?」


 ルマと手を繋いで、行けなかった屋台コーナーへ踏み込みます。


 串焼きロンは予想通り、お昼すぎにも関わらずお客さんがまだ並んでいるようです。私のように匂いに負けて並ぶ人もいるのでしょう。塩コショウしたシンプルな味付けのお肉が串刺しされて並んでいます。肉によっていろんな種類やお野菜も串刺しで売っているようです。ただ、塩コショウだけの香りではないような気がします。もしかしたら、塩タレをつかっているのかもしれません。気になります!あっさりとしている中にしっかりとした塩感があと引く旨さなのでしょうか。


 そう、前世で言う焼き鳥です!タレはないようです。もう少し近づかないと見えません。えーっと、種類は。


「本数制限いたします!売り切れにともない、こちらの並んでいるお客様までとさせていただきます。1人2本までです!あ、ごめんなさい。売り切れです!」


 売り子の方が大きな声で叫んでおりました。並ぼうとしているお客様へも売り切れを伝えているようです。


 大事な仕事ですわね。トラブルになったこともあるのでしょう。


「あー、100本制限かかっちゃったかぁ」


「100本制限?」


「残り100本になった時に、たくさんのお客さんに食べてほしくてそのタイミングで並んでいる50人だけに絞るんだ。毎日売り切れしてるのになんで増やさないんだろうね」


 毎日売り切れ!並んでまでも食べる価値がある串焼きですわ!


 目を輝かせる私をみてルマが苦笑いしていますが、気にしませんわ。美味しい時間の前には何もこわくないです。


「おすすめは?」


「もちろん、このダーダー鳥のもも!これが残り100本で制限がかかるからね」


 1択ですね。もともと1本の予定でしたが、2本買って、食べ終わらなかったらハムラにあげましょう。あっさりとしているようですし、2本いけるかもしれませんしね。お昼過ぎのデザートですわ!



「まいどあり!」


 私が支払いをして、2本ずつ、計4本をルマが持ちます。

 お店を少し離れたベンチに二人で移動です。


 座ってからルマから受け取りました。

 どっしりとした重さに少し驚きました。


 大人が食べる一口サイズのお肉が7つ串に刺さっていて、皮目がきつね色にしっかりと染まっています。カリッとする部分もありそうです。


「食べ方わかる?あ、もう食べた!」


 今日は貴族の娘でないので思い切りかぶりつきます。青空の下、ああ。美味しゅうございます。予想通り塩ダレです。味が染み込んでおります。しっかりとした塩味の後に、お肉の甘さが口いっぱいに拡がります。爽やかなレモンのような香りを一瞬感じましたが、隠し味でしょうか。


 もぐもぐと二口目をたべます。カリッとした皮目の食感がたまりません。あとにのこるもっちりとした皮もお肉と一緒にごくんと飲み込みます。味が濃いので、シュワシュワした冷たい飲み物がいいですね。ビールとか。ああ。成人しておりませんでした。


「リリーは豪快だね」


「え、出店や屋台で食べるならこれでしょう?周りもそうやって食べているじゃない。あと、冷たい飲み物がほしいわ」


 周り、見てません。前世の記憶ですね。


「そっかー。んじゃ、1本食べ終わったら買いにいこうね」


 本当は私を待たせて買いにいくこともできるのでしょうが、護衛を撒かれた経験が後をひいているのでしょうか。


「どうぞ」


 顔を上げるといつぞやの金髪の少年が。


 いきなり目の前にコップが差し出されました。ええ、もう驚きませんよ。またお忍びですか。フィルリス殿下。


「ルマにい。フェリス様からもらっちゃっていい?んで、私の串焼き1本渡して」


「どうぞ」

 ルマは串焼きを渡します。


「ありがとう」


 おい、堂々と私の隣に座りおったな。


「リーリア、美少女がお肉を頬張る様子が目立ってたよ。あと、フェリスに様はなしで」


「私はリリーよ。柔らかくて食べやすいし、塩加減がくせになる味よね」


 あなたのほうが今、まさに目立っていると思うのだけど。


 コップのドリンクは何かしら、炭酸ではなさそうです。


「白ぶどうジュースだよ」


 こくんと飲むと、爽やかなぶどうの香りが鼻を抜けます。

「おいしい!これ、どこで売っているんですの?」


「串焼きロンの3つ先のお店だよ」


「あ、フルーツショップのとこですわね。ジュース販売もしているんですね」


 串焼きロンへ行く前に通り過ぎたところだわ。


「今度お忍びで一緒に行こうなんて話していたのに、偶然会えたね。驚いた」


「あら?毎日お忍びしているのでは?」


 私には王下街には2回中2回、パーフェクトで王太子殿下がいるんですもの。


「はは。さすがに週に1回とかだよ。しかも時間もバラバラにしているしね。せっかくだから案内しよう。クレープ屋とパン屋、どっちがいい?」


 うーん。正直どっちも!と言いたいところですが、食いしん坊とまた言われそうですし。女の子らしくクレープかしら?いや、パンを買ってお土産にしちゃうのもいいわよね。


 私の悩んでいる顔がわかったように、


「どっちもだね。食いしん坊は健在だ。ただパン屋は少し離れているから両方いくと帰りが遅くなるかなっと」


 食いしん坊ってやっぱり言われるのね。


「クレープ屋にしますわ」


「俺はどっちでもいいんだ。先生に小麦の原価を聞いてこいっていう宿題があって」


「あ、私も本屋は先生の宿題で行ってたのよ」


「そうなんだ。小麦の値段はお忍びで行くとちゃんと教えてもらえるからね」


 いや、この世界の5歳児は小麦の値段を聞くのでしょうか?私も殿下も街の男の子と女の子という感じの服で、どこかのお店をしているこどものようにも見えなくはないですが、お母さんからのお遣いイメージでしょうか。



「小麦の値段はすでに何箇所か回って調査済みなんだ。西で害虫発生で収穫に影響でているみたいで、小麦の値段が実際少し上がり始めてるみたいだ」


「なるほど。小売店が値上げをするかってところね。仕入れの値段を上げられているなら、品物も上がるけど、どれだけ客を繋ぎ止めておけるか。値段に影響が出ているかの市場調査というところかしら」


「…リリーはすごいね。お忍び視察の課題の意図はそういうことか。一緒にやってほしいくらいだ」


 私、ただの5歳児ではありませんもの。


「クレープ屋とパン屋を案内してくれるんですもの、少しならお手伝いしますわ」


「ふふふ、んじゃ、パン屋は後で地図と店名を手紙で送るね」


「え?今歩きながら説明してもいいじゃない」


「そうしたら、リリーは暗くなっても行こうとしそうだもん」


 …次のお忍びの予定が未定だから、確かに行くかもしれない。

「…」


「クレープ屋、俺は生クリームたっぷりでアーモンドチップがアクセントになってるチョコが好きだなぁ」


 そう言うと殿下はさっと串焼きの食べ終わった串と空のコップを護衛のルマに渡して、私の手からも空のコップと串をルマへ渡しました。


「ん!行こう!」


 いや、ルマがごみ捨てに行く間に撒くのかしら?

 ハムラがいるから大丈夫よね?


 生クリームたっぷり。いちごチョコもあるかしら。楽しみですわ。


 殿下から出された手をさっと掴み、私は駆け出します。



少し長くなりました。

やっぱりいるよね、王太子殿下。

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現代物の軽い読み物です。恋愛なしでゆるっと1500字程度ですので、こちらもよかったらよろしくお願いします!
授業中に居眠りする彼の事情
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