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25、本屋で再会

「いらっしゃいませ」


 螺旋階段が真ん中にある街一番の書店は迷子になりそうです。早速案内してもらいます。目当ての本は5階建ての3階にあるそうです。3階は商業、社会がメインとなっているようです。フロアまで案内していただき、ルーカン先生がリクエストした本のタイトルをさがします。


 前世の職業病でしょうか。元司書として、本棚を見ると並び順や大きさを気にしてしまいます。リーリアになってから初めての本屋です。興奮してきました。本を見ながら丸1日過ごしたいですね。本好きにはたまらないところです。ふと古書の補修や新しい本のラミネートなど、司書業務を思い出し、懐かしくなりました。


 さて、探し物もすぐにみつかりました。『ユーリースト共和国へ行こう!これで大丈夫、貴方も安心旅行の巻』、メモを見ながら確認します。これですね。少し高いところにありますが手を伸ばして届くでしょう。


「んーっと」


 あともう少し、背表紙の下に触れることはできますがつまんで出すことは難しそうです。つま先であと少しならジャンプでいけないかしら。


ガタッ、「はい、どうぞ」


 隣から小さな手が伸びて私の取ろうとしていた本を渡されました。


「ありがとうございます」


 うわぁ。恥ずかしいですわ。踏み台使って小さいお子様に普通に取ってもらうなんて。自分が届くと思って背伸びしていたりひょこっと飛んだりしているところも見られているわよね。恥ずかしくて踏み台から降りた少年を見ることはできません。


「くすっ。食いしん坊で活発なお嬢さん。また会いましたね」


 食いしん坊?


 顔を上げると、見覚えのある顔が。


「えっ。ででで殿下?」


「しーっ。今はフェリスと呼んで。お忍びで街遊び中だよ。君は?」


 お忍びで街遊びって、羨ましいですわ。私はまだその経験がないのよ。


「お母様と王下街でショッピング中よ」


 悔しいから家庭教師の初めてのお遣いという課題で本屋にきていることは隠しますわ。私がお子様扱いされているじゃない。同じ年なのに、失礼だわ。


「この本?興味あるの?」


 驚いた様子で本を眺めます。


「ええ、フィルリス様はこちらの本屋へはよくいらっしゃるのですか?」


 いいえ、お遣いですので、本当は興味も何もありませんが、むしろこの上の階の小説、物語フロアへ参りたいですわ。あとごまかして質問してみます。


「フェリスね。ここは図書館で貸出に時間がかかるものも置いてあるからさ。続きは買ってしまおうと」


 ブルジョア発言です。なんだか腹が立ちます。こちらは初めての王都見学ですわ。


「護衛は?」

 ええ、私も気になります。うちの護衛たちは何をしているのかしら。


「お嬢様に踏み台を用意しますとそれこそ叱られますから、様子見しておりました」


 ルマが近づき答えます。知ってたんですね。可愛らしい金髪の男の子も殿下だって知ってたんでしょう?その答えは二人の会話ですぐにわかりました。


「ルマ、久しぶりだね」


「フェリス様、ご無沙汰しております。お忍びもご健在のご様子、お元気そうで何よりです」


「リーリア嬢付きになったのかな?私に負けず劣らずやんちゃそうだ」


 ふふふと笑う仕草はお忍びであっても貴族の様子が残っています。美少年の微笑を正面に受けました。まぶしいですわ。言っていることは腹立ちますが。昔、ルマが高貴なお坊ちゃんを護衛してたって、たぶん殿下のことよね。この落ち着いたお忍び感、慣れ過ぎではないかしら。


「殿下と同じように、串焼き屋ロンへ惹かれておりましたので、今度連れて行くと約束しております。殿下のように護衛を振り切ることがないように、ですね」


「ははは。私は剣術も鍛えているんだ。私は少しくらい護衛を撒いても大丈夫さ」


 お忍び常連者はセリフが違いました。


「こうやって街を見ることも勉強なんだよ。お父様も昔、お忍びで遊んでたと言っていたしね」


「それはもう少し大きくお成りになってからとお聞きしておりますが。元護衛として、護衛を振り切るようなことは慎んでいただきたいですね」


 その通りです。


「おっと、君のお母様がやってきた。見つかったら面倒だからまたね!」


 さっと逃げるように立ち去ります。逃げ方もスマートでかっこいいのが癪に障ります。


 同じ5歳児に助けてもらって、しかも向こうはお忍び常連、こっちは世間知らずで初めての王都。私だってやってやる!かっこいいお忍び!


「リーリアお嬢様が変な対抗心燃やしてなければいいのですが」


 小さなボヤキが聞こえてきました。対抗心が顔に出ていたようです。


 サンレーは殿下とルマのやり取りに大興奮しているようで、キラキラした眼でルマを見つめています。すでに恋心はルマへ向いているのでしょうか。


「殿下のお忍びで振り払われたから、殿下を護衛できなかった責任を取って降格したんだ。頼むから俺だけでも連れて行ってくれな?リーリアお嬢様」


 ため息混じりに頼まれました。この人、私がこう言われると弱いの分かっているのかしら。


「串焼きロンへ連れて行ってくださるならお忍びの連れとして選んで差し上げますわ」


「ふふ。かしこまりました。お忍びでご案内いたしましょう」


 お忍びでお肉ゲットのお約束できました。王都見学は満足できそうです。

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現代物の軽い読み物です。恋愛なしでゆるっと1500字程度ですので、こちらもよかったらよろしくお願いします!
授業中に居眠りする彼の事情
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです、一気に読んでしまいました 続き楽しみにしています!
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