24、傘製作
「そう、骨はできるだけ細く。貴婦人が持つものですから軽量を重視してくださいませ。持ち手のデザインは丸みをだして、手触りも滑らかに」
家具職人のルルーセルへ指示を出していきます。試作品を作ってくださいましたが、大きめのパラソルが小さくなっただけのようです。お母様に持っていただきましたが、長時間は辛いとの仰せでした。
「布を重ねると重みが出てきますが細い糸でレース編みをしていきますか?」
たしかに軽量化するためには布にもこだわらなければなりません。
「そうね。ただそうなると日傘としてあまり効果がないように見えるのよね。部分的にレースを入れてみましょう」
私はデザインを書き直します。白い布に花柄部分のみ切り取りそこに細い糸でレースを編み込むように花柄を入れ、三段を諦めて、縁の部分にフリルをつけることにします。傘の上部分の膨らみがもっとほしいですが、今回はストレートにしましょう。丸みを帯びるようにすると傘を閉じるのが難しいとのことですので、こちらは今後の課題としましょう。
「今までにない発想にこのスパルナ、感動しております。今まで可愛さが重視された傘というのがございません。新しい流行のお手伝いさせていただくことに興奮しております。リーリアお嬢様は創造神様のご加護と女神様の祝福をお持ちとお聞きしております。どうか、私達にもご加護がありますよう、握手していただけませんか?」
打ち合わせ終盤には私へ握手を求めてまいりました。うっとりとした表情に私への敬意や称賛が感じられるのは気の所為ではなさそうです。いや、前世の記憶ですから。ロリータファッションの伝道師としてがんばりますが。
「完成を楽しみにしておりますわ」
期待しているから頑張ってくださいねの意味を込めて握手します。出来上がりが楽しみですわ。握手とともに鑑定が表示されます。ふむ。腰フェチと胸フェチね。よくあるフェチですわね。
職人の二人が退室したあと、シュークリームと白い茶器に赤朽葉の色をした紅茶が並べられました。
「お嬢様の貴婦人に傘を持たせるという発想が素晴らしいです。さすがでございます。早速母娘でセットでお茶会に持てるように急ぎ手配いたします」
「あら、すでに情報が入っていらっしゃるのね。さすがですわ。リンス商会長直々のお約束は頼もしいですわ」
お母様、ご機嫌ですわね。さて、シュークリームを食べてから、王都見学と参りましょう。
「リーリアお嬢様は、食の街のあと、本屋でよろしいでしょうか?その後、服飾雑貨関係をご覧いただきましょうね」
しっとりとした生地のシュークリームですわね。カスタードクリームと生クリームが程よくマッチしているわ。さすが王都のお菓子屋さんね。
「「リーリア?」お嬢様?」
お母様とリンス商会長から返事の確認をされました。うっかりシュークリームに夢中になっておりました。美味しいお菓子はこれからも食べますものね。
「はい。家庭教師から本屋で、ユーリースト共和国についての旅行ガイドブックを購入する宿題がございますの。本屋を先にして、あとはリンス商会長にお任せいたしますわ」
「…ユーリースト共和国ですか。それはなかなか珍しい書物をお探しで。おそらく国一番の書籍が揃う、シャーロット書店ならお望みのものを購入できるかと。と、なると紹介できるお店は、帰り道にある雑貨屋はクロスト、服飾店はスピアですね。オーキッド伯爵夫人、よろしいでしょうか?」
お母様は抑揚に頷きます。
「ではまずは食の街へまいりましょう」
「チュロスを食べますわ!」
勢いよく立ち上がった私をお母様が窘めます。
馬車から降りた食の街は屋台がたくさん並んでおりました。チュロス、クレープ、ドーナツ、ポップコーン、お菓子の屋台の先はお食事処のようです。
お肉の香ばしい匂いが大通りの先の入り組んだところから香ってきます。美味しそうな香りにつられて足が自然とそちらへ向かいます。あれは骨付き肉?串焼き?よだれがこぼれそうになるところを令嬢の矜持でごくりと飲み込みます。少し道を外れてもいいわよね。
パシッ。
歩き出してみるとルマがにっこり怖そうな笑顔で
「リーリアお嬢様?迷子になりますので、こちらへ戻りましょう?」
と無理矢理通路を塞ぎます。
「・・・お肉」
「令嬢の言葉じゃないっすよ。まあ、迷子になったりされるよりはいいっすね。今度連れて来ますよ。今日は大通りのみです」
結局、お菓子より骨付き肉や串焼きが食べたくてよだれを飲み込みながらお菓子を食べました。いや、チュロスも美味しかったのですが。お忍びでお肉を食べにいくことにしましょう。
「さあ、本屋へ行きましょう」
ルーカン先生の本はどうやらあまり有名でない国の本らしく、大手の本屋にしかないとのこと。ルーカン先生、王都にしかない本って、分かっての買い物宿題よね。相変わらず効率と実益を兼ねた素晴らしい宿題ですわね。
居酒屋で串焼きや焼き鳥が食べたい作者です。
お読みいただきまして、誠にありがとうございました。




