21、偲ぶ恋の行方
お腹の音が鳴ったお茶会から4日後、お母様の鬼レッスンに耐えた私は甘いお菓子を求めて厨房へ向かいます。今日は1日お母様がおでかけでしたので、午前中に仕込んでおいたのです。
お疲れの時は前世も今も、甘いものでしょう。今日のおやつを自ら迎えにいきます。
「パンッパンッパンナコッタ♪、パンッパンッパンナコッタ♪」
今日のおやつはパンナコッタです。バニラミルク味とチョコ味を作ってベリーソースにマンゴーソースをリクエストもしていました。とても楽しみだったので、もうすぐパンナコッタに会える嬉しさに思わず歌っておりますと、ルマが後ろで吹き出しました。
「リーリア様はお歌はあまりセンスがなさそうですね」
失礼ですわ。そんな人にはお裾分けはありません。一緒にりんごパイを食べた仲ですのに。あ、そうです。そろそろ三人で集まるタイミングがあったかもしれませんね。まぁ、敢えてその話題に触れないことにしたかもしれませんが、一応確認しておきましょう。
「ルマ、りんごパイの時のお話は?告白を焚き付けたんですの?」
少し意地悪な質問の仕方になりました。私の歌へのコメントの意趣返しですわ。ふん。りんごパイを食べながら話していたので、これで伝わるでしょう。
「・・・え、いや、えーっと、やっちゃった?」
急に目をそらし、誤魔化そうとするルマです。何か私に弁明できないことがあるのでしょうか。
“やっちゃった?”って何でしょうか。
フォローした的な言葉がくるか、慰めたよ的な言葉がくるか、やっぱり告白はしないみたい的な言葉がくると思っておりました。もしくは話題に出さなかったとか。
何を?
「やっちゃった?」
のでしょうか。
「いやぁ、なんだろうね、いろいろ、こう、パクっとね」
会話にならないので鑑定してみます。
【サンレーへの恋愛感情増幅中】
「!!」
おっと、これは、もしかすると。
―――慰めているうちに芽生えちゃったようですね。
「…パクっと、ああ。やらかしたんですわね」
意味が判りました。ええ。そのような恋愛小説も読んだことがあります。失恋した彼女を癒やすと称してどろどろに甘やかして、、、。
「あ、もしかして鑑定してます?いやぁ。だから、逆に今は俺と一緒のペアが気まずいっていうか」
なるほどです。
「一応聞きますわ。護衛の対象から聞くなんて関係ないかもしれませんけど、いち女性として、これだけは確認しますわ。合意の上ですよね?」
「・・・た、たぶん?」
いや、そこはすぐに“もちろん“って言ってほしかったです。
「たぶんって」
私は残念な生き物をみるように目を細めます。
「一応、合意かな?飲んでいたからあまり覚えてないかもしれないけど」
それは気まずいですわね。
「わかりましたわ。サンレーも鑑定します。貴方には内容は教えませんけれど」
当直のタイミングを見計らってサンレーを呼び出しましょう。
「パンッパンッパンナコッタ♪パンッパンッパンナコッタ♪」
「だからその歌、何なんすか」
いや、頭から離れなくて、つい呟いていただけです。まぁ、ルマにはパンナコッタは無しですわ。
☆☆☆☆☆
次の日、呼び出しお茶会のドレスが出来上がったと言う連絡がきました。早速試着します。
薄い緑色は柔らかな印象を出し、淡い黄色のリボンは幼い可愛さを演出します。全体的に柔らかな色で優しそうな雰囲気です。
「…いいじゃない」
お母様からもお褒めの言葉をいただきました。
「奥様のおっしゃる通りでございます。はっきりとした鮮やかな色が1つも入っていないので全体的に締まりのない出来になるかもと心配もございましたが、これはこれでアリですね。ふわっと柔らかな印象が癒やしてくれる女性という優しさを醸し出します。グラデーションの濃淡も工夫されていて、、、リボンの編み上げもご注文通り細かく編込みタイプにしまして、、、」
語りは続くようです。
王家からのお誘いのあったお茶会まであと10日。私の紅茶を飲む姿もたくさんのお母様の鬼指導でマシになってきたと思います。
そのお母様はデザイナーの恍惚とした一人語りを途中で遮って、
「4ヶ月後の王太子の誕生を祝う会用も準備を進めますわ」
「かしこまりました。あと、傘なのですが、一度外注先の商会から打ち合わせしたいと連絡がありまして、いかがでしょうか?」
「そうね。王都へはリーリアも出たことがないですし、明後日の午後、こちらから向かうと伝えてちょうだい」
「ありがとうございます」
「ええ、お母様、私、一緒に本屋へいきたいですわ。家庭教師のルーカン先生から宿題を出されていますもの」
「リーリア様は初めての王都ですか。それは楽しみですね。商会に一緒に案内してもらいましょう。王都でも有数の商会ですので楽しめるかもしれません」
これで、はじめての王都での買い物もできます。
当日の護衛の手配を担当するのはルマとサンレーでお願いしました。あとはオーキッド伯爵家直属の護衛です。
さあ、その前に呼び出しましょう。




