18、護衛の偲ぶ恋
【ハムラ・ロックスタイ(男)23歳、剣術スキル、ロックスタイ男爵家長男、王宮警備隊4団所属、足フェチ、来年婚約者と結婚】
ただ、その黒髪の日に焼けた褐色肌のハムラは来年結婚予定なんですよ。鑑定にそうでております。しかもサンレーに関する記載なし。これは今のところ脈なしです。忍ぶ恋だからわからなくもないですが。
「ハムラには婚約者はいないの?」
「いや、確か親が決めた婚約者がいるはずだ。だから一生懸命気づかれないようにしてる。それが不憫でね、いっそ思いを伝えたほうがいいのかも、とか、俺の兄貴分スキルが囁いていて」
苦笑しながら話すルマ、お節介は承知ということですね。来年結婚であればすでに準備は進んでいると思われます。ハムラの結婚報告後がどうなるか、というところですね。告白は自由です。断るのも自由です。おそらく忍ぶ恋と鑑定ででているので、本人はよほどのことがないと告白することはないと考えられます。私も前世の若かりし頃、好きになりかけた男性が実は結婚前と聞きました。ショックではありましたが気持ちに蓋をした経験がございます。あれは、時間が解決してくれました。
強制すべきではありませんので、せめて、私達は気づいているよ。大丈夫?という形でフォローしていくしかないのかもしれません。婚約者がいることも知っていても、やっぱり好きという気持ちがあるのですから、少なからず結婚の話にはショックを受けるはずです。そんな時に聞いてくれる人、そばにいることができるのは事情を知っている私達だけかもしれません。
「告白を勧めるのはあまりにも早急だと感じます。鑑定では忍ぶ恋ですし、本人は隠したいようですよ。私達が動くことで、お互いが気まずくなるリスクは高いと思いますわ。まあ、勢いをつけるのであればハムラと婚約者の話をサンレーの目の前で話題にしてあげてください」
「それはひどくないか?ってか、いや、待てよ。ハムラの鑑定は婚約者と、そうか、もしかするとそろそろか、確かに」
顎に手をあてて思考中の様子、状況判断が早いですね。
「ルマのいないところで本人が後から聞いて“実はお前がハムラを好きなこと前から知ってた“で、気づかれてたの二重ショックは悲しいですわ」
私は鑑定しているから本人に後で確認しましょう。バレてますって。それで告白の意志があれば応援しましょう。告白してすっきりしたと次の恋へいく人もいますからね。恋愛小説で、想いを伝えたい!これでスッキリというパターンです。
とりあえず、立ち話はそろそろやめましょうか。ブルー兄様が暴走する前に止めましょう。
鑑定は二人共【お膝抱っこに夢中】の表示に変更ですわ。
「ブルー兄様、メーロお義姉様、そろそろドアを開けますわ」
「ああ、済まない。ありがとうリーリア。鑑定はすごいな。いや、女神の祝福だな。幸せな時間だったよ」
メーロ様は頬を上気させているのがわかります。とろんと幸せな様子です。婚約前なのに!!と誤解されそうです。紅茶を勧めましょう。スカートのしわを整えてブルー兄様の横にきちんと座ります。
「リーリア様、お膝、勧めてくださり、ありがとうございます」
私はのんびり冷めた紅茶を飲みながら頷きます。
メーロ様にも勧めるために侍女を呼び、温かく入れ直した紅茶を用意させました。
ブルー兄様は堂々と横に座るメーロ様の腰に手を回しております。腰とお尻の際ですね。いや、手の平は半分以上お尻側でしょうか。お二人が仲良さそうで何よりです。
「これからもブルー兄様をよろしくお願いします」
今回、ブルー兄様の尻フェチ暴走のスイッチを押してしまった気がします。結婚する前までは我慢しているとは思いますが、心配です。
ブルー兄様とメーロ様を屋敷の前で見送った後は、護衛シフトの確認です。
夜の護衛は一人体制なので、三人が揃う夜に話をするはずですわ。その前に、私が先にサンレーの恋応援者になりましょう。今夜はちょうど廊下待機で出勤のサンレーが夜当直ですし。
「サンレー、今夜当直の時にちょっといいかしら?女の子同士の話がありますの」
「かしこまりました」
青髪を揺らして優しく微笑む姿はとても女性らしく見えます。中性的な顔立ちなので、護衛の格好によっては男性と間違えられることもあるでしょうが、知ってしまっては女性にしか見えません。
女の子同士の話って、初恋の相談をされるとか思っていなければいいのですけれど。微笑ましい目で見られると今日の夜が不安になります。
そして夜。
「きゃっ!同僚への忍ぶ恋!あの黒髪の人よね?」
私はサンレーに鑑定を表示します。
そして何故かトレミエール姉様も一緒にお話し中です。
ちょうど寝る前に捕まってしまい、サンレーがこれから女子の内緒話と言った結果、お姉様が興味津々で参加することになりました。お供はホットミルクです。
「え、いや、私、えっと」
青髪を乱れさせて戸惑います。そりゃそうよね。しかもこのお姉様のテンション。心配でしかないです。
「鑑定は表示しない限り見られませんわ。しかも、隠したい恋ですものね。誰にも言いませんわ。そうよね、お姉様?」
すでに気づいている人もおりますが、あの人は身近で勘が鋭い人だからでしょう。バレることはなさそうです。一番最悪のパターンはお姉様がこっそり話していくことです。秘密よ!!と言いながら、侍女の公然の秘密により空気でバレるのです。ああ、目に浮かびます。
本人は秘密と言っているから悪いことしてないと思うのですよね。はぁ。
「お姉様、決して伝えたりそんな素振りを見せないでくださいね。秘密なんだけど、サンレーがハムラのこと好きだって!なんて絶対に誰にも言わないでくださいね。それはすでに秘密ではないですから」
「ぇ、わっわかってるわよ!」
嘘だ。今、秘密なのよ!って親しい侍女に言う顔をしていましたわ。
「言わないでくださいね」
泣きそうな顔で伝えるサンレー。部屋に入る前は私の初恋の話かな?など、微笑ましい気持ちでいたのでしょう。今にも泣き出しそうな顔をしてお姉様に念押しします。
「大丈夫。私達だけよ。ねえ、お姉様」
こくこく首を縦に振るお姉様。私はそんなに怖い顔をしてますか?
「で!いつから恋に気づいたんですの?」
恋バナをしていきましょう。少しでも気持ちの整理に必要かもしれませんしね。私が聞くと少し躊躇いながら話し出しました。
「・・・同期でよくペアを組まされることは多かったんですよね。婚約者がいるって聞いてから自覚しちゃったんですよね」
「今まで親しかった友達が急に離れていっちゃうような感覚かしら?」
お姉様が読んでいる小説の中にあるのでしょうか。
「そう。いつもそばにいたはずなのに、ずっとじゃないって今更気づいてしまって、そうなったら、ああ、婚約者なんて関係なく、ハムラが好きなんだって思ってしまって」
「サンレーには婚約者は?」
「私は平民なので、お付き合いがあればそのまま結婚します。なのでおりません。まぁ今、婚約者がいる人を好きになってしまった時点で結婚は諦めております」
「一途に思い続けるって素敵よね」
お姉様はロマンスを妄想しているようです。
「その分辛いことも多いですよね。婚約者はいずれ結婚する、そんな幸せそうなハムラを見る自分とか、正直しんどいと思います」
「・・・でも、好きなんですもの」
そうなんですよね。切ないです。
「隠したい恋かもしれませんが、私は鑑定で知っています。もちろん今、お姉様も知ってます。頼りないかもしれませんが、本当に辛いときは話くらいはしてほしいですわ」
「はい。来たる日がくるとなると本当に手が届かない人になる、気軽に触れることも躊躇うようになるんじゃないのか、とか、実はすでに不安はいっぱいです。割り切れない好きを諦めきれない自分も嫌になります」
「告白はしませんの?」
お姉様、私も聞きたかったです、その質問。
「できません。婚約者がいるのに告白なんて。しかも同期で、向こうは友人としてしか思ってないとわかるのに。それに、これからやりにくくなるかもしれないじゃないですか」
「そうよね」
告白はしない意思は固そうです。忍ぶ恋のまま、時間が癒やしてくれたらと思います。




