15、昼食会
円卓にはすでに奥に国王陛下が座っておりました。両側に雰囲気の似た二人の女性、王女殿下のいらっしゃるほうが側室様でしょう。幼いので私達と待たずに側室アニー様と待つと歩きながら聞いておりましたから。
王妃殿下のほうへクリス殿下は案内され、王太子殿下は妹君の隣に座りました。私はお父様に呼ばれて王太子殿下の隣です。皆様の意図をひしひしと感じます。
「お初にお目にかかります。リーリアと申します」
目が合ったので、王妃殿下、側室アニー様、王女殿下へ向かい一礼します。
「あなたがお兄様の婚約者?はじめまして!私、スカーレットというのよ!よろしくね」
婚約者ではないのですが。外堀を埋めるためにお子様パワーを活用したのでしょうか。
にこやかに笑うお二人、王妃様と側室様はとても似ています。そして、スカーレット様を否定しないところが容認していると実感します。
とりあえず、作法は気にせず食べなさいと陛下に最初に言われましたので、しっかり王城のご飯を味わうことにしましょう。
―――スコーンは1つでやめておいて良かったです。
食事中は終始穏やかな空気が流れておりました。ただ、穏やかな空気の中でも、クリス殿下だけは淡々としているように見えました。決まっているのは必ず少し先に食べること。扱いは毒見係のようです。
そもそも王族の食事には一通り毒見や味見はしているはずよね。あえて、クリス殿下本人への当て付け、見せしめのように見えてきました。耐毒性スキルがあるから大丈夫とは言えど、自分の親が事件を起こした王城に居たくないと思いますわ。親は自分で選べないとは思いますが、環境が人を育てるのですよ。前世の教育現場では環境が人を育てると実感しましたもの。
隣の王太子殿下が話しかけてきました。
「リーリア嬢は今はご飯を鑑定しないの?」
「鑑定?しないですわ」
「さっきは鑑定して、見せてくれたじゃないか」
「あれは毒なしってことを教えたかっただけです」
「…なるほど、鑑定士や判定士を毒見役にすれば、食べる前にわかるな」
発言した陛下は思案顔です。やってなかったんかい。毒見役で過去に亡くなった方もいるのでしょうね。
食事のあとのティータイムで、お腹いっぱいになり、気持ちが大きくなったのか、私はこっそり陛下を鑑定してみました。
【ヒュージー・スワンツィード・マルシス(男)38歳、覇王スキル、透視スキル、スワンツィード国王、胸フェチ、姉妹妻に挟まれて悶絶したく奮闘中】
「今、スキルを使われたと指輪が反応したが、間違いないな?」
急に低い声で問い詰められます。
私は一瞬ビクッとなり固まったあと、ぎこちなく頷きます。
「害はないと判断されたからそのまま鑑定できたであろう。見せてみよ」
これを止めるのはお父様。いや、私も表示するのは本人のみがいいと思います。
「リーリアの鑑定は創造神の加護と女神の祝福で表記が独特でして、できれば、本人のみ、または親しい人と見るのが良いかと」
「で、あれば問題なかろう」
即答する陛下。お父様、負けちゃだめです。
「リーリア、後半は隠せない?よな」
無理です。
「隠すようなことはなかったであろう?」
せめて王女様の教育のために、目隠しをしてほしいですね。
「わかりました。では、表示」
【ヒュージー・スワンツィード・マルシス(男)38歳、覇王スキル、透視スキル、スワンツィード国王、胸フェチ、姉妹妻に挟まれて悶絶したく奮闘中】
アニー様がすかさずスカーレット様に目隠しをしました。
読めていなければ良いのですが。まだ3歳と聞いておりますからサッと読むことはできないとしましょう。
「フェチ?アニーお母様、見えませんわ!」
「スカーレットはもう少し、お姉さんになったらね」
王妃様もフォローします。お父様は赤くなったり青くなったり忙しそうです。
流石の陛下もたじろいでいます。隠すようなことはなかったはずですよね。
「…今夜、一緒にいかが?アニー?」
ここで王妃様が確実に仕留めにかかるようです。楽しそうですね。
「ええ、私達を鑑定したときは、内容はこっそり教えてくださいな。リーリア様」
「いや、私も知りたい」
陛下がせめてフェアにいこうと自己援護しています。
「かしこまりました」
男子殿下二人は気まずい感じでそっと視線を下に。
「私達も鑑定したのか?」
王太子殿下が聞いてきます。さぁ、どう返事すればよいのでしょうか。
「あの時はお腹が空いていまして、スコーンに夢中でしたわ」
ふふふと誤魔化してみます。お母様のように笑ってみましょう。
「…食いしん坊」
いや、確かに食いしん坊かもしれないけれど、面と向かって女子にそれはないんじゃないんでしょうか。
「リーリアは鑑定スキルと料理スキルでして、つい先日領地で新しいお菓子を流行らせたんですよ」
お父様、それ、フォローのつもりですか?たしかに話題がかわるのでしょうが。
「ほう、創造神の加護も料理スキルに活かされているのか?」
「料理スキル自体は低いそうですが、その発想力はおそらく加護持ちだからでしょうね」
お父様、私を一体どうしたいのですか?あ、王妃にさせたいんでしたね。
「今度、我が領地へお越しの際はぜひ食べていってください」
アピールしてます。さすがです。今お父様を鑑定したらオーキッド伯爵家広告代表責任者の表示がでそうです。
結局、特に婚約者の話もなく、昼食会は無事に終わりました。イベントは陛下の近くで王妃様と側室様の鑑定表示をしたくらいでしょうか。3人だけが見られるようにしましたが、表示された内容は反応で周りの控える大人達は大体理解したのでしょう。恋の女神様、祝福ありがとうございます。
そして、王太子殿下を見初めることもなく、一目惚れもない私でした。むしろ失礼なやつだなという認識になりつつあります。王弟殿下の息子、クリス殿下はかわいそうなやつだなという認識です。そのことを帰りの馬車でお父様に話したら眉間にしわを寄せて頭を抱え、ため息をつきました。どう考えても苦悩しているようでした。
家族は私がお腹を空かせて歩いている時か、スコーンを食べている時に全員呼ばれて、私を国と教会が保護すること、弱みにならぬよう、ある程度私達家族にも護衛がつくことを伝えられたそうです。
加護と祝福の少女は国と教会のトラブルの種になっている気がしないでもないと苦悩のお父様を見ながら私も、こっそりため息をつきました。




