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14、殿下達

「あー、ほら、鑑定したら、新婚さんって出たので、妊娠しているかもしれないですし、ね?」


「………」


 無言が怖いです。妊娠してるって、奥様から報告があったほうが良かったわよね。ごめんなさい。


「勝手に鑑定してごめんなさい。抱っこされる前に怪しい人じゃないか確認しようと思って。ほら、知らない人だったら、誘拐されちゃうかもしれないじゃない?」


 抱っこされた後に言うセリフではないのはわかっているが、致し方ない。


「抱っこで運んでくれて、ブルー兄様に軽食も頼んでもらうように手配くださって、本当に助かりました。では」


 これ以上この場にとどまるのはまずい空気でしたので、お礼を述べてさっさとドアを開けようと手をかけると


「待ってください。私が開けますね」


 ノックの後少し問答があり、さっとドアを開けられました。


 ソファに腰掛けた10代の銀髪の少年はゆっくりとこちらを見ました。


 窓際の椅子に座っていた少年は本を読んでいたのでしょう。顔だけをこちらに向けてきました。


 共通点は1つ。美形です。


 王弟、現公爵様の息子が銀髪、王太子殿下が金髪ということでしょうね。


「あなたが加護と祝福を受けたお嬢様ですか」


 銀髪の少年がソファから立ち上がり近づいてきます。



「さっきのお菓子とお茶セットは君の分?もうすぐお昼なのに食べるの?」


 金髪の子供が本を閉じて声をかけます。いきなり失礼しちゃうわね。こっちは朝からの呼び出しでパンひとかじりしかしてなくてもうここまで抱っこで連れてきてもらうくらいヘトヘトなのに。



「貴方達王族によびだされて朝から準備でパンひとかじりしかできなかったのに、正装でいっぱい歩かせられた私の気持ちなんて、優雅に待っていたお二人にはわからないでしょうね」


 お腹が空いていると人は言わなくてもいいことを言ってしまうのかもしれません。私の口撃にたじろぐ二人を余所に、私は持ってきてくださったスコーンに手を出します。ブルー兄様には会いませんでしたが、念願のエネルギー食です。


 コロール様は笑いをこらえながら紅茶を入れてくださいます。


 スコーンを口に入れようとしたら、


 銀髪が「待て!」

 と私の手首を持ちスコーンをかじりました。


 今、食べようとしていたものを、です。


「何してんのよ!!」


 思わず怒鳴りました。人が食べようとしているものを横取りして食べるなんて、礼儀がなっていないにも程があります。


「すまない。毒見だ」


「…大丈夫だと思うけど。私のもの以外は不要なんだろう?」


「フィルリス殿下の御前の食べ物は全て確認するように言われておりますので」


 毒見ね。私は食べかけられたスコーンを皿に戻し鑑定しました。


【スコーン︰温め直し、3個と食べかけ1個、シンプルだからこそのこだわり、昨日王妃宮侍女へ3時のおやつ配膳の残り、毒なし】 


「ほら、大丈夫よ。表示」


 毒なしがわかるように鑑定した内容を表示しました。


「「…………」」


 二人は瞠目し、黙ったまま動きません。


 ついでに紅茶も鑑定、表示です。

【紅茶︰アッサム、スコーンに合う、美肌効果やデトックス効果、整腸作用、毒なし】


「というわけで、いただきます」


 一口が大きくなっている気がしますが、今更ですわ。昼食前に少しです。


 三口でスコーンを食べて、ごくごくと紅茶を飲みます。

 ちょうど飲みやすく、ぬるくなった温度なのを確認して、一気に飲みます。スコーンは一気に食べると喉に詰まらせてしまうと実感しました。プハーっと言いそうになるのを直前で抑えました。なぜって、見られていましたから。


【フィルリス・フォン・スワンツィード・マルシス(男)5歳、為政者スキル、武術スキル、スワンツィード王国王位継承権1位、自分を毒殺しようとした親をもつクリスへの戸惑い、祝福と加護を持つ少女への興味上昇中】


【クリス・フォン・ザイデルバルト(男)10歳、指導者スキル、耐毒性スキル、スワンツィード王国王位継承権2位、自分の立場に不満、祝福と加護を持つ少女と教会への地位を確立しようと計画中】


 王族ですからスキルは2つですね。情報は多いですが、特に後半の特記事項がなかなか濃いですね。


「もう一杯召し上がりますか?」


 コロール様が苦笑いしたまま紅茶のおかわりを聞いてきます。ぼーっと殿下たちを見ていたのでおそらく私が鑑定したのがわかったのでしょう。


「お願いします」


 私も奥様にお世話をする様子を思い浮かべて穏やかに笑います。


 おそらく、祝福と加護を持つ少女って、私のことでしょうね。


 最近はフェチ系の鑑定表示を見慣れていたので、久しぶりの重い内容で、フリーズしておりましたわ。


 ああ。紅茶が美味しいです。


「スコーンも美味しいでしょうが、昼食が入らなくならないようにしてくださいね」


 何気なく2つ目を手に取ろうとして、はっと留まることができました。コロール様、ありがとうございます。


コンコン。「両殿下、オーキッド伯爵家お嬢様、食事会場へご案内いたします。」


 ドアを開けてくださったのは執事服を着たご老人です。


 先程まで、気配すらなかった、いえ、私がスコーンに夢中で見えていなかったからかもしれません。部屋にずっといたらしいですが、気づきませんでした。


 こっそり鑑定します。


【クラックス・アナミリス(男)66歳、執事スキル、王太子宮執事長、指フェチ、クリス殿下の監視中】


 安定のフェチ情報にホッとするのはこれいかに。クリス殿下は監視されていると感じているのでしょう。“自分の立場に不満”とはどの程度なのかわからないところが怖いですね。


 あと、スコーンは偉大でした。まだ食べ足りないとお腹の虫は怒っているようですが、エネルギー補給にはなったので、歩くことができました。


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現代物の軽い読み物です。恋愛なしでゆるっと1500字程度ですので、こちらもよかったらよろしくお願いします!
授業中に居眠りする彼の事情
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