0、プロローグ
のんびりスタートです。大きくなるまでお待ち下さい。
「おむつを替えましょうね」
終活していたので、遺した人には迷惑はかけずに死ねたはずです。死ぬ間際、病院で確かにおむつはつけていましたが、思ったように体を動かせませんし、手足が短くなったようです。天井も違います。
手、小さい?
・・・・・赤ちゃん?
私はどうやら、かつて生徒が言っていた異世界へ転生したようです。
たしかあれは、学校に勤めていた現職時代に一時期とても流行しましたね。
悪役令嬢が転生してざまぁ展開を避けて幸せになったりする話で盛り上がる、図書委員の女子会。スライムに転生したけど、チートで無双する物語に夢中な男子学生が中身を話してくれました。先生もぜひ読んでと言われて、何作か有名どころを読みました。
実際にあるんですね。異世界転生。驚きです。
さて、おむつも替えられてすっきりしたところで、現状把握といきましょう。
知らない天井、知らない声。もう一度、自分の手を確認。
首すらも動かせない身体、小さい手。
やはり、産まれたばかりの赤ちゃんですね。
お母さんはどこでしょうか、おむつを替えてくれるこの人でしょうか?
「まぁ、ぱっちりとしたお目々は奥様にそっくりですわ!」
奥様?ということはこの緑の髪色の頭の人は使用人とか召使いでしょうか。カラフルな髪色が異世界感がありますね。ロリータファッションをしても違和感のない様子ですね。神様ありがとうございます。ロリータファッションでも痛い目で見られない世界に転生させてもらったんですね。嬉しいです。
「髪色はご主人様似ですわ」
ご主人様に髪色は似ているのですか。ピンクだったりしたら嬉しいのですが。
「王太子殿下のご生誕に合わせてのお誕生、誠におめでとうございます。高齢出産のため、奥様のお身体に負担が大きいと心配しましたが、無事の出産、お慶び申し上げます」
ああ、この声は医者っぽいです。姿は見えませんが優しそうなおじいさんのような気がします。
「ああ、ありがとう。妻を頼むぞ」
お、お父様でしょうか。
「かしこまりました。現在発熱と高血圧気味ですが、徐々に回復傾向にあります。高齢出産ですので小康状態が長く、床上げまでしばらくかかると存じます」
「ふむ。愛人を作らせて拵えたほうがよほど楽だったろうに。いずれにしろ、無理はさせたんだ。後で向かうと伝えてくれ」
お医者様が出ていったのでしょう。ドアがカチャリと閉まる音が聞こえます。
ちなみに私は天井だけを見つめてあうあう言っています。現状把握したくても、首も動かせないじゃないですか。こんなに不便だなんて。言語転換してもらっているのは助かりますが。
転生するなら、頭をぶつけて思い出すとかいうネタがあるあると生徒が話していたのを思い出します。享年八十歳越えの前世の経験が生生しく残っている分、赤ちゃんからは正直しんどいです。泣きますよ。ああ、泣いちゃいます。そうだ。泣けばいいんです。赤ちゃんの仕事ですから。
「ふぇぇん」
私が泣き出すと大きな手が抱っこしようと近づいてきました。
「よしよし。そうだな。名前はリーリア、そうしよう」
お父様?髪色が似てるという?異世界のお顔にぐっと近づき初対面です。
アメジストの瞳にプラチナブロンドの髪を短く揃えたナイスミドルが顔面に現れました。ものすごい美形です。これも図書委員の女子会であるある話をされておりましたね。
“異世界の平均顔面が美形すぎる”件ですね。
現在実体験中です。たまにはモブとかの話もあるらしいですが、モブであっても平凡というだけで、中の下くらいのスペック顔らしいです。その分能力が桁違いにチートだったりするそうで、物語は上手くできていると話していましたね。
「お、泣き止んだかな?そうだな。リーリア、名前はリーリア。よしよし。立派な王妃になってくれよ」
は?王妃?
私は王族?いや、さっき王太子生誕とか言っていたはずです。
とりあえず、私はリーリアと名付けられたようです。
前世の名前はゆり子でしたから、ゆりを英語にしたリリーに似ています。馴染みやすい名前ですね。
お父様らしき人はにこにこ笑ってさっきおむつを替えてくれた女性へ私をおくるみごと渡し、
「カナーの熱が引いたらリーリアを連れていってくれ」
と伝えます。
「かしこまりました」
カナーさん、誰かしら?
「はじめまして。侍女のミールです。私がリーリア様のお世話を担当させていただきますわ。まぁ、なんて可愛らしい赤ちゃんかしら。リーリア様、よろしくおねがいしますね」
「あうあー。あー。(おむつを替えてくれた緑のお姉さんはミールさんですね。よろしくおねがいします)」
「侍女長のクルミトールです。リーリア様、先ほどの抱っこしてくださった方がお父様ですよ。母上のカナー様はお身体の調子が戻りましたらお会いできますからね」
「あう、あー。(クルミトールさん、よろしくおねがいします)」
カナーさんはお母様でしたか。
さて、使用人がいるので、ある程度裕福な家庭に転生したようです。
裕福なら、前世で大好きだったロリータの服を着ることができるはずです。
前世ではロリータファッションをこよなく愛していたのに、あまり理解されませんでした。年を取ってからは特にロリータファッションへの批判が強く、つらい思いもいたしました。それでも好きだからとおばロリ(おばさんロリータファッション)で傘寿になる前まで続けました。好きなものを着ても咎められることのない、侮蔑的な目で見られないような世界になればいいのにと願いをこめて、あとは私の矜持として、年をとっても、ロリータファッションを着ておりました。神様はそんな私のロリータへの情熱を見てくださったのでしょうか。ありがとうございます。
せっかく異世界転生させていただいたので、思いきりロリータファッションを楽しませていただこうと思います。
「あう、あうあう。あぶー(お腹すきました)」
「お喋り上手ですねー」
考えごとをしたらお腹が空いたのですが、もちろんつたわりませんね。泣きましょう。
「ふぎゃぁー!ぎゃー!(お腹空いたぁ!ごはん!)」
「お腹が空いたのかしら?」
お、さすが侍女長。子育て経験があるのかしら。
そうよ!ミルク!
こうして私の異世界での生活は始まりました。
お読みいただきましてありがとうございました。のんびり、まったり気分でスタートしております。スタートから勢いはないので、あまりなろう向けではないかもしれません。だからこそ、読んでくださった方へ改めて感謝してます。良かったら続きをどうぞ。