早すぎる再会
〜白棒side〜
「……ん」
ここは師匠の家、か……確か俺は、師匠に一撃を叩き込んで意識を失ったはずーー
「白棒!」
「ようやく目覚めたようじゃな」
黒棒と師匠の声だ。
「悪いな、心配かけてしまって。因みに、どのぐらい眠ってたんだ?」
「数時間ぐらいじゃな」
数時間か。茶棒と戦った時よりも目覚めが早かったんだな。
「よっこら……いだだだ!?」
「待て待て、無闇に動くでない」
立ち上がろうとしたら全身に痛みが走った。まだ傷が完全には治ってないのか。
「今治してやろう」
師匠が懐から緑色の液体が入った瓶を取り出す。
「それは一体……?」
「傷を治すエネルギーで作られた飲み薬じゃ。これを飲むといい。さあ口を開けるんじゃ」
師匠に言われるがままに口を開け、緑色の液体を流し込んでもらう。
「ほんのり甘い……」
「飲みやすいように味付けされているんじゃよ」
「ほほう、俺も味見し」
「ダメじゃ。お主は無傷じゃろう」
「ダメかー」
あまりにも不味かったら飲み込めずに吐き出してしまうかもしれないし、飲みやすいのは純粋にありがたい。そんな事を考えている間に、身体の痛みが大分引いてきた。これなら動けそうだ。よっこらせい。
「さて、最後の修行じゃが、お主も黒棒も合格じゃ。よく頑張った」
「ここまで頑張れたのは、師匠が丁寧に教えてくれたからこそです」
「謙遜しなくてもよい。ここまでの頑張りは、お主ら自身の力で成し遂げたものじゃ」
「それでも、お礼を言わせて下さい。ありがとうございました」
修行のおかげで、エネルギーでの戦い方を学び、経験し、以前よりも格段にレベルアップできた。ただ、茶棒を倒すにはまだまだ足りない。あの殺傷力と速度に対抗するには、もっと戦闘を重ねて強くならなければならない。どのぐらい時間が掛かるか分からないが、絶対にやり遂げてみせる。
「白棒、確か修行が終わったらビクトリーの拠点に戻るんだったよな」
「ああ、そうだったな」
「どうやって戻るんだ?俺たちワープゾーンの展開方法知らないぞ?」
「あっ」
「大丈夫じゃ、ワシが展開しよう。フン!」
師匠が右手を右側に突き出してエネルギーを集中させ、ワープゲートが展開される。
「さあ、入るんじゃ」
「最後までありがとうございます!」
師匠の気遣いに感謝しながら黒棒と一緒にワープゲートの中に入って行く。
「おっ、ここは……」
「戻って来れたんだな」
ワープゲートを抜けた先には例の拠点が。まだここに来るのは二回目だが、なんとなく安心感がある。周りを見渡してみると、ビクトリーの姿が見えた。
「戻ったぞビクトリー」
「おっ、二人とも修行が終わったのか?」
「ああ、バッチリだ!」
「そうか、それは何よりだ。エネルギーが使えるだけでも、戦いの幅は格段に広がるからな」
そう、エネルギー一つで、肉弾戦、遠距離戦、支援、防御、武器などなど、戦いに関する大体の事はカバーできる。まさしく万能だ。それを学んで実践出来ただけでも、あの修行はとてもありがたかった。
「さて、次の作戦だがーー」
「見 い つ け た」
唐突に壊れる天井、そしてこの声。
「茶…棒……!」
まさかこんなに早く再会する事になるとは。
「何故この場所がバレて……!?」
「まあ、運が良かったとだけ言っておこうかな」
茶棒が俺たちの方を向いて刀を構える。まずい、今の俺たちの実力では何か行動を起こす前に茶棒にぶった斬られるのがオチだ。
「じゃあ、殺すね」
それでも、やるしかない。
「バ……っ!」
技の一文字目で刀がもう目の前に。やっぱりダメーー
「ビクトリースラッシュ!!」
次の瞬間、俺の目に映ったのは、両手を前に振り下ろし、Vの字を刻みながら迎撃するビクトリーの後ろ姿だった。
「ビクトリー!」
「なんとか間に合ったか……」
「おっとっと、これだけ必死になって仲間を守るなんて、灰棒の影響なのかな」
「くっ、この野郎……!」
ビクトリーが怒りの感情をあらわにする。それと同時に僅かながら赤いエネルギーが漏れ出してくる。レイジエネルギーか。
「あれ?白棒が怒った時よりも出てくる量が少ないな」
「えっ、俺の時って多かったのか黒棒?」
「それはもう溢れ出すようにドバッと」
うーむ……あの時と今、同じ怒りなのに何が違うのだろうか。
「そうそう、そのぐらい控えめなのが当たり前。なんでそこの白玉みたいなのが異常な量出しやがるんだろうね?腹立つなぁもう」
白玉ってお前。それと腹立つのはコッチの方だ。灰棒を殺しやがって。
「まあいいや、殺せばいい話だし」
茶棒が俺の目の前に急接近。今にも刀を振り下ろさんとする態勢だ。
「死んでよ」
「嫌だ」
たとえ間に合わないとしても、前回と違って防御を試みる事ぐらいは出来る。
「バリア!」
「おおっと」
バリアを張り、刀を弾き返す。
「偶然、ではなさそうか……やっぱり厄介だよ君は。絶対に殺さないと」
そう言って茶棒が姿を消す。この流れは……
「これは……来るぞっ!!」
ビクトリーも勘付いたみたいだ。彼自身と黒棒に橙色のバリアを張っている。念のためそれに俺のバリアを重ねがけさせておく。次の瞬間、無数の赤い斬撃が拠点内に広がり、三つのバリアを切り刻み始めた。
「流石に予想されてるか。でも、どこまで持つかな?」
傷跡が増える度に、ヒビが入っていく。割れるのも時間の問題だ。前回の時は茶棒を一度諦めさせる程に頑丈だったのだが、一体何が違うのか、さっばり分からない。
「バリア!」
ひとまず新しくバリアを張り直す。だが、この状況をなんとかしなければ、時間稼ぎにしかならない。
「くっ、こうなったら……」
ビクトリーが俺たちのいる方向に右手を向ける。
「何をーー」
そこからエネルギーが放たれ、俺たちの間をすり抜けて行く。後ろを振り返ると、そこにはワープゲートが。
「逃がさないよ」
すかさず茶棒がワープゲートの前に立ち塞がる。
「今だっ!」
そこにビクトリーがバリアごと飛び込んで体当たり。バリアは割れ、衝撃で茶棒が僅かに怯んだ所をガッチリ掴み、動きを封じる。
「この、離せ!」
「フンっ!」
ビクトリーが顔だけをこっちに向け、目からエネルギーを……って目!?
「目からビーム!?」
いやいや落ち着け、気を取られている場合じゃない。ええと、さっきと同じく俺たちの後ろにワープゲートが出現。
「懲りないね。このっ、邪魔だ!」
「ぐあっ!!」
「ビクトリーっ!!」
まずい、ビクトリーが斬られた!
「こっちに来るな、逃げろっ!!」
「ダメだ、お前を置いていけない!」
「大丈夫だ、こいつをなんとかした後で絶対に合流する!こんな傷、大した事ない!」
ここはビクトリーに任せて逃げる選択肢が最善なのは分かっている。だが、灰棒のように仲間がまた一人殺されてしまうかもしれない。見過ごせる訳がーー
「行くぞ白棒!」
「ちょっ、黒棒!」
黒棒に片腕を引っ張られ、引きずられる。
「離してくれ!ダメージを負ってるんだぞあいつは!」
「戻ってもあいつの負担になるだけだ!」
確かにそうだ。俺たちがいるせいで、ビクトリーは守る人数が二人分増えた状態で戦う事になってしまっている。
「それにーー」
「追いついたよ」
しまった、茶棒がすぐそこまで近付いて来ていた。
「まずは割って」
刀を振るわれ、俺と黒棒のバリアが呆気なく粉砕される。
「くそっ、バリアが!」
「余裕だよこんなの。あの時みたいに頑丈かと思ってたからホッとしたよ」
次に刀を振るわれれば、二人仲良くあの世逝きだ。ワープゲートまでの距離は後僅か。逃げ切るか、殺されるか、二つに一つーー
「ワーッ!?」
唐突に天井を突き破り、謎の声と共に黄色い何かが落下。ってまたか!?落下物を引き寄せる呪いでもあるのかこの拠点は。
「えっ!?」
「何!?」
「ちょっぐはあっ!!」
茶棒を弾き飛ばしてそのまま地面に着地。
「どわぁあああっ!?」
「うぉおああっ!?」
ド派手に爆発し、衝撃で俺と黒棒が吹っ飛ばされてワープゲートの中へ吸い込まれる。目まぐるしく変わる展開の中、俺たちは次の世界へと向かう。