エネルギー修行(技編)
「充分に休めたようじゃな。ではこれより技の修行に入る。気を引き締めて取り組むんじゃぞ」
「はい!」
「エネルギーショットとエネルギービーム、この二つの技を教える」
どちらも一度だけ見た事のある技だ。前者はこの前灰棒が、後者は過去に棒世界を救ったとある棒人間がそれぞれ使っていた技だ。
「まずはショットの方からじゃ。とは言っても、さっき教えたエネルギー放出を応用すればサクッとできる。手を前に出してエネルギーを集中させるんじゃ」
言われた通りに手を前に出し、体内のエネルギーをそこに集中させる。
「集まったエネルギーを球状に丸め、狙いを定めて外に発射すれば完成じゃ」
エネルギーを丸めて……よし、できた。さあ、どこを狙おうか。よし、あの雲に決めた。手を雲の方に向け、押し出すーー
「行けっ!」
手が白く光り、エネルギーの球が飛び出す。そのまま狙っていた雲の方角に飛んで行きーー
「うぉおおおおおっ!?」
大爆発を起こした。師匠や灰棒に勝るとも劣らない規模だ。
「俺もできたぞ白棒!こっち見てくれ!」
「おっ、やったな黒棒!」
黒棒の声がする方向を向いてみると、そこには大きなクレーターが出来上がっていた。多分木か地面に放ったんだろうな。
「うむ、上出来じゃ。さて、問題は次じゃな。エネルギービームの習得は簡単にはいかんぞ」
いよいよだ。まさかこの技を自分が習得する時が来るとは本当に思わなかった。
「ワシが手本を見せよう。しっかり合わせるんじゃぞ」
「はい!」
「まずは両手を合わせて前に突き出す。ここまではさっきのエネルギーショットとほぼ同じ流れじゃな」
動きを真似してエネルギーを集中させる。師匠の言う通り、ここまではショットの時とほぼ同じ感覚だ。エネルギーを溜めない部分と両手を使う部分以外は。
「ここからが違う。両手を腰付近に動かし、エネルギーを溜め始めるんじゃ。それもありったけな」
「ありったけって具体的にどのぐらいのーー」
「両手で抱えきれないぐらいの量になれば上等じゃ」
ショットの時より多くのエネルギーを消費するのか。とにかく溜め始めよう。
「う……ぬぬ……」
まだ小さいな。この時点でショットの時に消費したエネルギーより多い。まだまだ溜めないといけないのか。
少し時間が経過してーー
「ぐ、ぬぬぬ……!」
まだ両手で抱えきれる程度の大きさだ。溜め方が悪いせいか、時間が掛かってしまっている。更に言うと、体内のエネルギーもそろそろ底をつきそうだ。
「体内のエネルギーが枯渇しそうになっておるな。ビームはそれ程多くのエネルギーを消費する技なんじゃ。溜めに時間がかかるのとその間に敵に妨害されやすいのが弱点じゃな」
そうか、『簡単にはいかない』理由はそれだったのか。多くのエネルギーを溜めないといけず、その間無防備になってしまう。使い所を見極めないといけない技だな。
「体内にないなら、空気中から直接球に取り込めばいい」
あっ、そうか。空気中にもエネルギーはあるんだった。ただ、球に直接取り込んだ事はまだ無いな。身体に取り込んだ時の感覚を応用すればあっさり成功しそうだけれども。
「おっ」
「よーし、溜まってきたぜ!」
できた。順調にエネルギーが溜まってきている。黒棒も同じような様子だ。既に両手からはみ出しそうになっているので、もうそろそろ溜め終わる頃合いだろう。
「おっ、出来上がったようじゃな」
いや、既に溜め終わっていたみたいだ。
「ではその両手を思いっきり前に突き出し、極太の光線をイメージしながら発射するんじゃ。それでこの技は完成する」
「はい!」
「あ、言い忘れておったが、空に向かって放つんじゃぞ。木に放つと爆発に巻き込まれるから注意じゃ」
いよいよ俺たちのエネルギービーム、初お披露目だ。さあいくぞ、狙いは雲ーー
「はぁああああああーっ!!」
俺と黒棒の掛け声と共に、両手からそれぞれ白と黒の光線が放たれた。反動で吹っ飛ばされそうになるも、なんとか堪える。
「うぉおおおおおすげえええええっ!!」
黒棒が驚きつつも喜んだ表情で光線を見つめている。俺たちが放っているとは思えない位に臨場感のある光景だ。昔見たあの光景を思い出す。
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『逃げろぉおーっ!!』
地面に降り立つ、巨大で真っ黒な禍々しい魔獣のような生物。町は破壊され、大地はひび割れ、棒人間は蹂躙されていく。
『なんだあれ、空に浮かんでるぞ…..?」
そんな危機的状況の中、突如上空に現れた謎の戦士。白黒チェック柄の丸い顔に、ギザギザのマント。身体が棒のように細いので、俺たちと同じ棒人間なのだろう。
『エネルギー……』
エネルギーという声と共に、戦士は両手を前に突き出した後、腰の辺りに構え、橙色の光を生み出し始める。
『あいつ、何をしようとしてるんだ?』
一体何の動作なのかさっぱり分からず、俺はその様子をただ見つめ続けていた。
戦士が生み出している橙色の光が頭一つ分位の大きさとなった時ーー
『ビーム!!』
その掛け声と共に、戦士は両手を再び前に突き出し、そこから極太の光線が魔獣に向かって放たれた。そのまま光線は魔獣を丸ごと包み込み、大爆発と共に跡形もなく消し飛ばした。
『うぉおおおおおおっ!?』
『何だ今の!?』
『すっげええええっ!!』
その光景を見た棒人間達の反応はほとんどが驚愕と喜びだった。
『あ………』
俺はただただその光景に口を大きく開けて驚き固まっていた。そして、あの技を絶対に習得するという決意が溢れ出していた。
『……あれ?』
直接教えてもらおうと思い、戦士がいた方向を再び見てみると、既にその姿は消えて無くなっていた。
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今思い出しても、懐かしい光景だ。確かあの後、しばらくは棒人間の間で伝説として語り継がれるようになってはいたんだけれど、誰も方法が分からない事もあって、誰も話題に出さなくなってしまったんだったな。
……おっと、浸りすぎてもいけない。えっと俺たちが放った光線は……あれだ。おっ、雲を貫いて……空の彼方へと消えて行ったな。
「はぁ……はぁ……」
「あぁ、疲れたぁぁ……」
光線の行方を見届けた俺と黒棒はその場に倒れ込む。エネルギーもそうだが、スタミナも大分消費したような気がする。
「見事なエネルギービームじゃったぞ、二人共。あっという間に技を二つ習得しおったな」
「どんなもんじゃい!」
黒棒、完全に敬語忘れてるな。まあいいや。
「他にも色々と技はあるのじゃが……自力で開発していく方がお主らの為になる。というわけでしばらくは自由時間とする。色々とエネルギーを試してみるんじゃ」
技の開発か。もしエネルギーを習得したら、真っ先にできるようになりたい技が一つあったんだ。
「それと先に話しておこう。次で最後じゃ。最後の修行は実戦編、ワシと2vs1で戦ってもらう。詳細は後で話すから、それまで技の開発に励むんじゃぞ。コツはイメージする事じゃ」
「はい!」
いよいよ最後の修行か。師匠が戦う姿をまだ見た事が無いのと、これまでの修行で覚えた技をまだ実戦で活用できていないのもあって、色々と良い経験になりそうでワクワクしてきた。その時が来るまで、黒棒と一緒に技の開発を進めておこう。