一筋の光
この世界全てを包み込むほどの大爆発。それが収まった後に見えたのは、ただただ真っ黒な光景だった。まるで無世界だな。
「おっとと、なんかフワフワするぞ……」
そうか、地面が無いのか。通りで足元がおぼつかないと思った。だけど落下はせず浮いている状態だ。風はもう吹いていないのに。
「……ぐ」
っとそうだ、トドウフの奴に足を掴まれているんだったな。さっきのバリアでほとんどエネルギーを使い果たしてるし、早急に補給しなければ。
「すぅー……ん?」
あれ、できないぞ?消滅した後の世界だと無世界と同じく空気中にエネルギーが存在しないのか、困ったな。なら時間経過で溜まるのを待とう。幸いこいつは放心状態で動かないしな。
「よっとただいまー。って生きてるの君!?」
げっ、茶棒の野郎がワープゲートで戻って来やがった。
「はぁー……おーいトドウフ、何ボーッとしてるのさ」
「ハッ、主様!?」
まずい、トドウフが元に戻った。何か行動を起こされる前に手を打たねば。
「また失敗したな」
「また……ぐっ」
トドウフはまた俺を殺し損ねた。この切り口から会話を広げて少しでも時間を稼ごう。
「申し訳ありません、主様……」
「いいよ別に、また次の手考えるから」
結構寛容だな茶棒の奴。何度も失敗してるしてっきり粛清するものかと思っていたが。
「あっそうだ、例のバリア張っといてよ。ある程度大きめにね」
「仰せのままに」
トドウフが茶棒の命令を聞きあいつらと俺を囲むように緑色で球状のバリアを張った。以前にも見たワープ妨害効果のあるバリアだ。だが、今張るのか?
「必要あるのかそれ?俺はワープできないんだぞ」
「必要だよ、君以外が来ないようにね」
なるほど、さっき撤退した俺の仲間達がすぐさまここにワープゲートで戻って来るのを防ぐ為か。希望が一つ減ってしまった。
「さて、続きを始めようか。トドウフも手伝ってよ」
「仰せのままに」
時間稼ぎもここまでか。充分にエネルギーは回復してないが、このまま戦うしかない。
「覚悟しろ、今度の今度こそ死んでもらう」
トドウフが俺の後ろに回り込み、羽交い締めにしてきた。
「ぐっ、このっ、放せ!」
「今です主様、私ごとこいつを!」
「いいよトドウフ、そのままね」
すかさず茶棒が近付き、俺の腹めがけて刀を突き出した。
「フンッ!」
「なっ」
その刃が対象を貫く前に、俺の両手が左右からそれを挟み込み、無理やりその進撃を食い止めた。
「そうだった、棒人間は肉弾戦が強いんだったね」
「そうさ茶棒、力勝負で勝てると思うなよ」
「僕もそうだって事忘れてないよね?」
「ハッ──ぐわっ!!」
そう、だった……!その失念を突くように刀が俺の両手を弾き、トドウフもろとも貫いた。
「この、やろぉ……!」
「お見事、です……ぐふっ」
「ナイス拘束だったよトドウフ、おかげで容易く串刺しにできたよ憎たらしいコイツを」
相変わらず仲間を道具みたいにするなこの野郎は……それにしても手痛い一撃を貰ってしまった。
「さあて」
刃が腹から引き抜かれる。
「バラバラになってもらうよ。灰棒みたくまだ生きてるって勘違いされないぐらいにね」
「灰棒……」
俺にとっての大事な仲間。棒世界で、目の前にいる殺人鬼に一刺しで殺された人。もう、蘇らない──
「もう……」
あんな悲劇を──
「仲間は……」
繰り返させてなるものか──
「殺させねえぞ!!」
茶棒への怒りが積もり、身体中に赤いエネルギーが迸る。力が高まり、抑えられなくなる。憎しみが、力に変わる──
「だぁあああああっ!!」
「何っ!?ぐはあっ!!」
「うおっと!?あー気絶しちゃったか」
だがそれは一瞬だった。トドウフの拘束を跳ね除けて全力パンチで気絶させ、茶棒共々吹っ飛ばしたのを最後にその力は消滅した。
「はあっ、はあっ……」
無意識に抑えているのか?今なら近くに仲間もいないし、怒りを抑えつける理由は無いはずなのに。
「ありゃりゃ、もう打ち止めか。暴走してくれても別によかったけど」
「本当に良いのか?俺が棒世界で暴走した時お前は追い詰められたって聞いたんだけどな」
「あんな馬鹿力に速度、初見で対応できる方がおかしいんだよ。今はもう大丈夫だけど」
実際にどのぐらいの力と速度になっていたのかは想像するしかないが、今のこの大丈夫というセリフがハッタリである事は祈っておこう。
「とまあ無駄話は一旦ここまで、続きいくよー」
その言葉と共に茶棒が刀を一振りし大きな斬撃波を放ってきた。
「が……っ」
避けるために後ろへのけ反ろうとするも少し体に掠ってしまった。地面が無く浮かびっぱなしだからか思うように動けないな。
「ありゃま、痛そう」
どう対処したものか。エネルギー弾を放ってその爆発の反動で動くか?いや、当てる場所が無いか。どうすれば上手く動ける?いや、いっその事考え方を変えよう。イメージするんだ、自分が姿勢を崩す事なくスムーズに後方へ移動する姿を。
「なっ!?」
手応えあり。ポーズはそのままに奴から距離が離れた。この感覚だ。もう一撃当てようと構えていた茶棒の奴も驚きの表情だ。
「このっ、ふざけるな!」
刀による追撃が飛んでくるも、今の感覚を思い出しながら後ろへ横へと位置を移動し難なく回避していく。
「何なのその技!?さっきまで見なかったんだけど!?」
「今思いついたんだ!」
「はぁ!?」
新たな技ここに成り。名付けて『エネルギームーブ』だ。略してムーブ。
「……ほんと君、懲りずに新しい技を思いつくよね。とんだ怪物を目覚めさせちゃったかなぁ」
「今更後悔しても遅いぞ」
なんてカッコつけたはいいが、この技を使う度にエネルギーを消費してしまっているので、更にまずい状況ではある。この打開にはもう一工夫いるな。
「まあでも、結局エネルギーを消費するのなら枯渇するまで襲えばいいんだよ」
奴が再び刀を振ってきた。
「よっと」
「なんか避け方が舐め腐ってきてない?」
「ただの自意識過剰だぞ」
「うるさい!」
試しにさっきよりも控えめに位置を移してみたらエネルギー消費が少なく済んだ。これだ、これなら奴の攻撃をいなしつつ時間を稼いでエネルギーを蓄えられる。時間さえあれば何か良い作戦が思いつくかもしれないし、奇跡的に仲間の助けが来る可能性もあり得る。
「まあいいや、どんどんいくよ。新たな打開策なんて思い付かれたら面倒だからね」
間髪入れずに奴が連続で刀を大きく振り回してきた。
「うおっ、くっ!」
流石にここまで派手に攻撃されると大きく動かざるを得ないな。エネルギーを多く消費してしまった。
「お、今の反応……なるほどね」
奴がニヤリとした。今の攻撃が有効だと思い込んだか。
「ド派手な動きがお好みかな!?」
やはり味を占めてるな。さっきと同じ攻撃を繰り返してきた。それなら対策は簡単、さっきの思いつきを実行するだけだ。
「よし、見えた!」
エネルギー節約の為の効率的な回避。無傷・微動の意識。これでまた延命できる。
「っと対策されたか、なら別の攻撃で……」
「何を出してきても対策するだけだ!」
「それはどうかな?はぁあっ!!」
茶棒が赤いエネルギーを空間全体に拡散させてきた。衝撃波による全体攻撃か、これでは避けようがない。
「くそっ!」
とっさにバリアを張るしかない。なんとか攻撃は防げたものの、エネルギーを大きく消費させられてしまった。
「流石にどうしようもなさそうな顔だね」
「くそったれ……!」
いよいよ本格的ピンチ、受けても守ってもジリ貧な状況だ。
「ハッ、主様!」
「やっと起きたか、遅いよ」
「申し訳ありません……」
「まあいいよ、これから挽回してね」
「勿論です」
しかもトドウフのお目覚めときた。泣きっ面に蜂とはこの事か。
「さーて、覚悟はいいかな?」
「これ以上暴れられても面倒だ」
「くっ……」
何か対処法を、何でもいい、思いつけ、名案を……ダメだ、何も──
「ふぅ、散々時間をかけられたけど」
あれからどれだけの時間が経ったのか。
「これでジ・エンドだよ」
茶棒に刀を突きつけられる。
「参ったなこれは……」
体力もエネルギーも尽き果て、身体は消えかかり、両腕共にトドウフに拘束されている。ワープが封印されているせいもあって仲間の助けも期待できない。正直言って詰みだ。だが……ただで散るつもりは無い。
「なあ、茶棒」
「うん?今更命乞い?」
ひとまず、少しでも会話で時間を稼ぐんだ。
「死ぬ前に一つだけ質問させてくれ」
「嫌だね、時間稼ぎなんてさせないよ」
「どうしても解決しておきたい疑問だ。未練を消すぐらいいいだろ?」
「うーん……まあいいか。で、何?」
「風世界を消滅させたあの爆発、ボムエネルギーによるものじゃないのか?」
「へえ、よく分かったね」
「炎世界でボマーって奴と戦った時に似た技を見た事があったからな」
「ボマー、ああ……どうりで最近連絡が取れない訳だ」
この反応、茶棒とボマーは知り合いだったのか。だとすればあのボムエネルギーも奴から調達したものだったのだろうな。
「情報が更新できて良かったよ。まあそれはそれとして話は終わり。サッと殺してあげるね」
よし、今稼いだ時間で少しでもエネルギーは回復した。
「……ぐ」
世界を丸ごと消し飛ばしたあの爆発をイメージしながら僅かなエネルギーを身体の中心にかき集め、かすかな体力をエネルギーに変換して一つの塊にしていく。後は茶棒の刀がこの身体を貫けば大爆発。俺もこいつらも全員おしまいだ。
「なんか身体薄くなってない君?」
「死にかけだからな」
「あっそう」
頼む、気付かれるな。もしそうなればこの抵抗は無駄になってしまう。
「さあ、やるならやれよ」
茶棒を挑発し、静かに目を瞑る。
「ほんとしぶとかったのに、最期は潔いんだね」
そして鳴り響く破壊音と衝撃音……ん?
「白棒ーっ!!」
「ぶべぇ!?」
「「なっ!?」」
聞き覚えのある声がして思わず目を開けると、そこにはバリアを突き破り茶棒に勢い良く衝突する黄色い星型物体──いや、あれはまさか!?
「星!?」
何故ここにいるんだ!?ワープはできないはず……ひとまず、今は助けが来てくれた事を喜ぼう。
「おーりやっ!!」
「らぁああっ!?」
「主様ーっ!!」
星は跳ね返ってその場にとどまり、茶棒は吹っ飛ばされてバリアに叩きつけられた。
「くっ、貴様あっ!」
「助けに来たよ!」
「ありがとう星、助かったぞ!」
「間に合って良か──って透けてるっ!?」
「エネルギーを使いすぎちゃってな。ってそれよりもどうやってここに?」
「その話は後!今はこの状況を乗り切ろう!」
「分かった、ならまずこの拘束を解いてくれ!」
「了解!目を瞑ってて……フラーッシュ!!」
星の身体が急激に輝き出す──前に俺は目を瞑った。
「ぐあぁ……っ!!」
「ぎゃぁああっ!!」
すぐに後ろの奴のうめき声が聞こえ出し、拘束が解けた。なんかもう一人悲鳴が聞こえた気がするが多分気のせい。
「もう開けていいよ!」
「よし!」
合図を聞いて目を開ける。直後に左右の丸い尖り部分で俺の両手を掴まれ──
「さあ逃げよう!」
「いででででで!!」
引きずられる、それも光速で。流石の怪力。
「どこにいででで行くつもりなんいだだだだ!?」
「うんと遠くに!とにかく茶棒達から離れるんだ!」
逃げるのはいいけどこの速さ、消耗した身体が耐えられるのか心配だ。
「目があぁぁ……」
後ろを振り返ると、手で目を覆いながら悶える茶棒の姿が。お前も直視してたのかよ。流石にこれなら追いつかれる事はないだろう。
「待てっ!」
「じゃあねさよならー!」
トドウフがこっちに向かって来ている。回復が早いなあいつ。だが少なくとも今の星に追いつけるほどの速度は出せていないな、どんどんと距離が離れている。
「何とか逃げ切れたみたいだな……」
やがて奴ら二人の姿は見えなくなった。
「ふぅー、良かったぁ……」
またまた仲間の駆けつけで窮地を救われたな。本当に我ながら悪運強い。
「改めてありがとう、今回ばかりはもうダメかと思ったぞ」
「えへへ、ギリギリセーフ!」
色々星に聞きたい事はあるのだが……まあ後でいいか。疲れも溜まってるしここは一休みだ。




