三つ巴
一度状況の整理だ。茶棒と俺、奴が張った巨大な赤い壁を隔てて黒棒とビクトリー、そしてXがいる状況。
「棒人間っ!!」
「おわっと!?」
「やめろX!」
「邪魔するなV!」
Xが黒棒に攻撃しようとするもビクトリーがその間に割って入りそれを食い止めた。
「白棒、こっちは任せろ!」
「分かった、頼むぞ!」
向こう側は大丈夫そうだな。なら俺は引き続き目の前の茶色の敵をどうにかしなければ。
「おっとと」
いかん、バランスを崩しかけた。風で空中に浮かんでいるこの独特な感覚にもいい加減慣れて……いや、目的は果たしたんだからさっさとこの世界から離れればいい話だな。だがその為にはビクトリーが出せるワープゲートに入るか腕輪越しに青棒に依頼して転送してもらう必要がある。どちらにしても黒棒達と合流しないと無理だな。その為には壁を破壊しないとだが、まだ良い方法が思い付けていない。
「身体強化!」
ひとまずエネルギーを使って身体を強化し、茶棒からの攻撃に備える。
「さーてと、引き続き君をいたぶるとしようか」
奴がこっちに近付いてきた──と思ったら突然消えた。周りを見回して見ても姿が見えない。もしかして高速移動してるのか?ならエネルギーを感じ取ればいい。
「ん……」
目を閉じ集中すると、俺の周りを猛スピードで飛び回る赤いエネルギーが感じ取れた。恐らく、俺の死角から奇襲を決めるつもりなのだろう。それなら来た瞬間に迎撃するだけだ。
「ははあっ!」
来たか、ならこうだ!
「スプレッドバリア!」
以前黒棒との手合わせで使ったあの技のバリアバージョンだ。これで少しでもダメージを与えるぞ。
「そんなヘナチョコ防御なんて、うわっと!?」
刀が振り下ろされバリアが粉々に。そしてその破片は四方八方に飛び散る。全部とはいかずとも、一部が奴の身体に食い込みダメージを与えるはず……ん?
「あれ?」
破片の飛び方が不自然だ……そうかしまった、風の影響を忘れていた。これでは破片がどう飛んでいくか予想がつかない。
「うおっとと、いたたた」
と思ったら運良く茶棒の方に多く飛んでいってくれた。姿勢を変えて連続で回避している様子だが……多少は刺さったか、すぐに全て引っこ抜かれたが。
「くっ!」
俺の身体にもいくつか刺さってしまったが、これは俺の落ち度だし仕方ない。取り除いておこう。
「いってて、やってくれるね。僕にしては迂闊だったよ。でも君だって自分自身の耐久力を過信しすぎじゃないかな?
「過信なんかしてないさ」
油断や不意打ちで受けた攻撃ならとにかく。
「あえて受けた攻撃で倒れる訳ないだろ」
「ふーん」
いやまあ、スプレッドバリアの破片での被弾は想定外だったけど、あのぐらいのダメージなら倒れないし大丈夫だ。それはそうとして、壁を破壊する良い方法が未だに思い付かないな……闇雲に試してみるしかないか。例えばさっき考えていた圧縮とエネルギービームの合わせ技とか。
「んん?」
ただこれは時間が掛かる。しかも両手で溜める構えが必要なので奴にはバレバレ。
「おおっと、そんな暇与える訳ないでしょ僕が」
なので当然妨害してくる。刀で俺の身体は切り刻まれ、その度に痛みが走る。
「ぐうっ、まだだ」
「へえ、斬られたのにまだ続けるつもりなんだ」
だが、それでも自分のタフさを信じて強引にエネルギーを圧縮し溜め続ける。
「じゃあどんどん切り刻んじゃうからね」
流石にそのまま食らい続けるのは不味いので風に流されながら身体を動かし奴の斬撃を避けようとしていく。
「ほらほら止まりなよ。そしたら一瞬で殺してあげるから」
「うっ、誰が止まるか!」
しかしそう何度も上手く回避はできず、少しずつ着実に切り傷が増えていく。それでも不安を跳ね除け耐久力を信じて溜め続ける。
「これで終わ、りぃいっ!?」
「えっ、何だ!?」
なんだ、いきなり茶棒の片手が爆発した!?そんでもって刀が手から離れてどこかへ吹っ飛んでいったぞ……そういえば爆発といえば──
「よーし、作戦大成功」
「黒棒っ!」
「このっ、邪魔を!」
やはり黒棒の仕業だったか。手を前に突き出した状態でドヤ顔している。
「これであいつも多少は弱るはずだぜ。なんせ散々振り回してたからなあの刀」
確かに。これで茶棒の攻撃は少しでも抑えられるか。
「本当にそうかな?」
奴が俺の身体に手をかざし、小さなエネルギーの塊を発射してきた。この大きさなら今溜めてるエネルギーで弾ける──
「白棒!そいつをくらうと死ぬぞっ!!」
「なっ!?」
「死ぬうっ!?」
だったら話は別だ!こいつを無駄にしてでも防ぐ!
「「ぐわっ!?」」
溜めていた分のエネルギーを黒いのに衝突させて爆発、相殺した。
「チッ、余計なアドバイスを!」
「ふぅ、助かったぜ黒棒!」
「おうよ!まあちょっとばかし大げさだったかな」
茶棒の身体にはもうエネルギーは残っていない。武器も無い。もしかしたら倒すチャンスなのでは──
「今の僕なら倒せるって顔してるよね」
「バレたか」
「舐めすぎだよ僕を」
いや、変な考えはよそう。奴が強く睨み付けてきた。ハッタリ……ではないだろう。奴の目はまだ生きている。一見無防備そうでもまだ奥の手は隠していると判断した方が良いな。今は撤退する時だ。壁破壊の為に再度エネルギーを溜め始める。
「またそれか。じゃあまた邪魔するね」
奴が素手で俺を斬りつけてきた。痛みはあるが、さっきよりは大分マシだ。これなら間違いなく耐えられる。
「そんなのなら大歓迎だぞ」
「その言葉、後悔しないでよ!」
「半ばヤケクソになってないかコイツ」
「うるさいっ!」
引き続き連続での斬りつけ。しかし俺の溜めを妨害する事はできず時間が過ぎ──
「よし、溜まった!」
「ぜぇぜぇ……」
やがて準備が整った。なんか茶棒が疲れてるが気にしないでおこう。すかさず壁の方へ向かい、身体にアーマーを張った後に両手を前に突き出す。
「こいつを……!」
そして渾身のエネルギービームをゼロ距離で──
「って黒棒!?」
放とうとした時、壁を隔てて同じくエネルギーを溜めている黒棒の姿が見えた。
「お前だけに無茶はさせねぇ!俺にもやらせろ!」
「……分かった、いくぞ黒棒!」
こうなったらやるしかない。すまん黒棒。
「「はぁあああああっ!!」」
二人で溜めたエネルギーを同時発射。
「「ぐわぁあっ!」」
二つのビームがその場で壁に直撃し、轟音、大爆発。当然すぐ近くの俺と黒棒は巻き込まれた。それと同時に大きく砕ける音が鳴った。恐らく、いやきっと壁を破壊できたはずだ。
「ぜえっ、ぜえっ」
爆発に包まれていた視界が晴れていく。そこに映っていたのは……
「よっしゃあ!」
「よし!」
ヒビが入り大きく風穴の空いた壁。
「って、ぇえっ!?」
「棒人間っ!!」
そしてその穴を通過するXの姿だった。まさか壁をこじ開けた直後に来るとは思わなかった。両腕を交差させながらこっちに突撃し、今にも斬りかからんとしている。
「避けっ、だあっ!?」
回避を試みるも、風の影響で思い通りに動けず、見当違いの方向に吹っ飛ばされた。ただ、Xから距離は取れたので結果オーライ。
「チッ、茶棒ぉおおっ!!」
俺に攻撃が届かないと判断したのか、すぐさま茶棒に目標を変え再び突撃開始。
「うおっと、今度はこっちか」
しかし余裕を持って回避された。
「そんな単調な攻撃当たるわけないでしょ」
「クソッ!」
「それにしてもまさか壁を破壊されるなんてね。自信作だったのに」
「そうだったんだな。自信作を壊された気分はどうだ?」
「別に。壊れた所でさほど影響も無いし」
「え?」
それはどういう──
「さてと……そろそろかな」
「「なっ!?」」
遥か向こうから大爆発が!?それにどんどんと広がって迫って来てるぞ!?この爆発、まさか……いや、今はそんな事考えてる場合じゃない。一刻も早く避難しなければ!
「逃げるぞみんな!ビクトリー、ワープゲートを頼む!」
「よし分かった!」
ひとまず脱出しなければ。ビクトリーが手を前に出し……何も起きない。
「おいおいどうしたんだ!?」
「いや、何度も試してるんだけどワープゲートが出せないんだ!」
エネルギーは尽きていない。なら別の原因があるはずだ。
「白棒!空を見ろ!」
「空?あっ!」
黒棒の言葉に従って空を見てみると、世界全体に薄い緑色のバリアが張り巡らされていた。恐らく以前のトドウフ戦で張られたバリアと同じものだろう。
「以前にも見たぞ!ワープを邪魔するバリアだろコレ!しかもあの時よりもデッカいヤツ!」
「恐らくそうだろうな」
「ぶっ壊してやるぜ!」
黒棒がバリアに向けて手をかざす。
「エネルギー」
「おっと手が滑った」
そこに茶棒が突撃し手で切り裂こうとする。
「バー、っうぉあっ!?」
意表を突かれた黒棒だったが体勢を崩しながらも更に上空へ上がり回避。
「邪魔したって事はこのバリアはお前かその仲間の仕業で間違いないな」
「さあどうかな」
「すっとぼけやがって……あのバリアを壊さなきゃお前も巻き込まれて塵になるんだぞ!分かってるのか!?」
「ああ、僕の事なら心配ご無用」
「えっ?」
茶棒が刀を後ろに突きつけるとそこにワープゲートが出現。
「なっ!?」
「だってあのバリア、僕だけワープOKの都合の良い仕様だし」
「ふざけんなてめぇ!」
「じゃーねー」
「逃げるな茶棒、ここで死ね!!」
「はいそこ空けてね」
「ぐあっ!」
そして奴は近くにいたXを蹴っ飛ばした後そのまま入り込み姿を消してしまった。後に続いて入ろうとするもすぐにワープゲートは閉まり消滅。
「ちっくしょおっ!」
万事休すか。いや、まだここから生き残る方法はある。
「こうなったら、バリアを破壊するしかないな。一斉にいくぞ!」
「おうよ!」
「分かった!」
三人揃ってエネルギーを圧縮させ──
「「ショット!」」
「ビクトリースラッシュ!」
一気に技を発動。見事にバリアに風穴を空ける事に成功した。
「よし!」
「後は外に出てワープするだけだ!」
「急ぐぞ!」
「お前も来るんだX!今は争ってる場合じゃない!」
「……フン」
黒棒が穴を通過、続いてビクトリーもXを無理やり抱えて通過しワープゲートを開いた。俺も続いて通過──
「うっ!?」
する前に足が掴まれた。
「なっ、何だ!?」
爆発はもう近くまで迫っている。邪魔をされては間に合わないというのに、一体誰だ?
「主様の命令だ。貴様を道連れにする!」
「お、お前は!?何故ここに!?」
その犯人はまさかのトドウフだった。もう復帰していたのか。
「離せこのっ!ぐっ!」
こいつの自己犠牲っぷりはこの前の戦いで既に分かっている。本気で俺を道連れにして死ぬつもりだ。
「白棒っ!」
「邪魔はさせんぞ!」
「ぐっ、ちくしょおっ!」
必死に手を伸ばすも届かず、トドウフが放ったエネルギー弾によってビクトリー達が吹き飛ばされワープゲートの中に押し込まれた。すぐさまもう一発放たれ今度はワープゲートを破壊されてしまった。
「間に合わなかった……!」
「残念だったな。あの時は失敗したが、今度こそ私達の最期だ」
またもや万事休す……いや、諦めるな。身を守れ!まだ生き残れる可能性はあるはずだ!だが普通のバリアじゃまず間違いなく防げない。今の俺にはこの大爆発から身を守れるような力も技も無い。
『イメージが大事じゃよ』
ならばイメージだ。この爆発を防げるバリアを。師匠から受けたあの言葉を、今活かす時だ。
「む……」
灰棒が棒世界で使ったあのバリアを……
「ぐぐ……」
いや、それで足りるのか?棒世界で起きた大爆発は世界そのものを消滅させるほどの威力が無かった。今回の方が世界を消滅させる分威力が高いはずだ。
「ぬぐぐぐ……」
ならもっと強力で硬いバリアをイメージして……ダメだ、上手く思い浮かばない。
「ぐっ……」
なら考え方を変えろ。どんなバリアかでなく、バリアでこの爆発を防ぐ光景をイメージするんだ。
「よし!」
これでどうだ。
「はぁあああああっ!!」
今までに無い強烈な光。それが俺の手から広がっていく。俺の描いたイメージが今具現化しようとしている。
「貴様っ、何を!?」
「俺はまだ死なねえぞっ!!」
両手を前に突き出し、ドーム状の……いや、床は無いから球体状のバリアを張る。ただし、これはただのバリアではない。
「ぐっ!」
世界崩壊からも身を守れるほど硬いバリアだ!!
「馬鹿な、あり得ない……!!」
「俺だってそう思ってたさ。だがこうして実現できてしまったみたいだな」
棒世界を覆ったあの爆発をも超える勢いと威力が今バリアを襲っている。着々とヒビが入ってきているが、まだ壊れる様子は無い。俺にできるのはバリアを修復しながら爆発の終わりを待つ事だけだ。
「フフフ、だが残念だったな。私を生かしておくとは」
トドウフが手を離し、俺の身体を執拗に殴り始める。
「そんなもの効かないな!」
集中したい状況で正直これは厄介極まりないが、痩せ我慢で耐える。
「死ね、死ねえっ!」
そうして途方もなく感じる時間が過ぎ──
「止まっ、た……」
爆発は収まった。俺たちは助かったんだ。
「馬鹿な……」
トドウフが唖然としている。当然だろう、これほど大規模な爆発を真っ向から耐え切ったのだから。
「どうだ、俺のタフさは。正直これだけでもお前といい勝負できると思うぞ」
「……」
こりゃダメだ、完全に受け答えできない状態だな。まあいいか。ひとまず周りの状況の確認を……ん。
「……真っ暗だな」
どこを見渡しても真っ暗。まるで無世界と同じような光景が広がっていた。地面が無い分余計に情報が無い。うーん、これからどうしたものか。




