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協力関係

〜白棒side〜


「ん……」


 ここは……ベッドの上、か。それに見たことのない建物だ。

 確かさっきまで俺は、黒棒、灰棒と共に茶棒と対峙していたはずだ。そこで灰棒が殺されて、怒りが爆発して……そこから先がどうしても思い出せない。一体どうなったのだろうか。黒棒は無事なのだろうかーー



「白棒!目覚めたんだな!」


 この声は……


「黒棒!」


 黒棒が俺の元に駆け寄ってくる。一安心。


「ずっと寝たままだから心配したんだぜこの野郎!」

「悪いな黒棒。それで、どのぐらい寝てたんだ?」

「丸一日」

「そうか、丸一日……って、嘘だろ!?そこまで寝ていたのか!?」

「ああ。ビクトリーも本当に大丈夫なのか疑うレベルだった」


 ん、ビクトリー?


「ビクトリーって誰の事だ?」

「あ、そうか。白棒はまだ知らないんだったな」

「俺の事だ」


 黒棒の後ろから、一人の人物が現れる。額にVの文字を付け、マントを羽織った男。初めて見る人だ。とりあえず名乗らなねば……


「えーと、俺は白棒です」

「改まらなくても大丈夫だ。タメ口でいい」


 おっとそうか。それなら……


「分かった。よろしく頼む」

「ああ。こちらこそ」


 ベッドから降りて立ち上がり、握手を交わす。その後、黒棒から俺が気を失って目覚めるまでの間に起こった出来事について聞いた。


 俺が怒りによって暴走した事。

 暴走した勢いで茶棒に猛攻を仕掛けた事。

 茶棒によって俺が気絶させられた事。

 茶棒が立ち去り、その後にビクトリーがやってきた事。

 ビクトリーと共に行動する事になり、この拠点に移動した事。

 他、細かい情報諸々。


 内容をまとめるとこんな感じだ。


「悪いな黒棒、俺が寝てる間に色々と」

「気にすんなって。ああそうだ、それともう一つ、ビクトリーが棒世界に来た際に灰棒に反応していたから、どういう関係なのか聞いてみたんだ。そしたら、昔一緒に戦った事のある戦友だとさ」

「その通りだ。当時、一緒に戦っていた戦友は他にも何人かいたのだが、そのほとんどが殺された。灰棒はそれが原因で心身共に疲れ果て、俺たちの元を去ってしまった。もっと俺たちが強ければ、灰棒が離れて行く事も、殺される事も無かったはずなのに……」


 灰棒の時もそうだったが、なかなか重い話だ。外の世界はそこまで過酷なのだろうか。


「いや、灰棒が殺されたのは俺たちが弱かったせいだ。ビクトリーのせいじゃない」

「黒棒、あの時も言ったが、そもそもの諸悪の根源は茶棒だ。引きずってしまうのは分かるが、行き過ぎると心を壊してしまうぞ」

「お、おう」


 黒棒の気持ちはよく分かる。俺だって、もっと強ければ……なんて未だに考えているし。だけど、ここはひとまず話を進めていこう。


「ところで、ビクトリーは何のために棒世界へ?」

「棒人間狩りという集団から棒人間を守る為だ。ただ、肝心の棒世界が滅んでしまっているから、もう失敗しているようなものか……」

「棒人間狩り?」

「その名の通り、棒人間を狩る、もとい殺す為に結成された集団だ。世界各地を回っては、棒人間だけを的確に殺していく。奴らは名前にもじって『狩る』と表現しているようだが」


 棒人間だけを狙う集団か。厄介な集団がいるものだ。


「棒人間狩りといい茶棒といい、俺たちは色々な奴らに狙われてるんだな」

「いや、茶棒は棒人間に限らず、ただ無差別に殺しまくってるだけだ。俺が住んでいた世界の住人もほとんど殺された」

「なんだって!?」


 初耳だ。ビクトリーの世界の住人も茶棒にほぼ皆殺しにされていたのか。えげつないな……


「俺はあいつに復讐するつもりだ。今回の灰棒殺害の事もあって、更に恨みは増すばかりだ」

「俺も同じ気持ちだ。仲間の灰棒が殺された事が何よりも許せないし、憎い。だけど……実力が足りない」


 悔しい事に、茶棒の実力は、俺たち二人よりも圧倒的に高い。今、復讐しに行っても、返り討ちに遭って殺されるのがオチだ。灰棒に守ってもらった命を無駄にする訳にはいかない。


「あれ?白棒って暴走した時に茶棒と互角に戦えてなかったか?」

「えっ、そうなのか?」


 俺が茶棒に猛攻を仕掛けていたという話はさっき聞いたが、意外と良い勝負だったのか。


「ああ。最終的に気絶させられてしまったけど、かなり奮闘していたように見えたな」

「そうなのか。暴走時の記憶が全く無いから、さっぱり想像つかないな」

「それと、暴走中にずっと赤い光を身体の周りから発し続けていたな。茶棒がそれを見てレイジエネルギーという言葉を呟いていた」

「レイジエネルギー?」

「ああ。俺にはさっぱり意味が分からなかった」


 初めて聞く言葉だ。覚えておこう。


「俺が説明しよう」

「知っているのか、ビクトリー」

「ああ。怒りによって生み出される赤いエネルギーだ。パワーやスピードを大きく高めてくれるが、制御できなければ理性を失い、暴走してしまうのが欠点だな」


 なるほど、怒りか。茶棒戦で気を失う前、俺は茶棒に対して強い怒りや憎しみを抱いていた。つまり、俺が気を失った原因は、レイジエネルギーによる暴走だったという訳か。

 ……待てよ。


「暴走という事は、仲間を攻撃してしまう可能性もあるのか?」

「いや、基本的には怒りの原因に対して矛先が向くから、その可能性は低い。全くないとは言い切れないが」


 低い、か。可能性が少しでもあるのなら危険だ。怒りに呑み込まれないよう気を張る必要が出てくる。ただ、さっきの黒棒の話の通りだと、茶棒に善戦できる数少ない手段になり得る。

 ……いや、ダメだ。仲間の犠牲で成り立つ選択肢なんて選べる訳がない。


「仲間を犠牲にしてしまうのなら、俺はその力に頼らない」

「そうか、俺も同じ考えだ。仲間を蔑ろにはできない」


 ビクトリーと考えが噛み合った。


「だが、茶棒を倒せる可能性がある以上、ただ目を背けるだけなのは勿体ないとも思っている」

「どういう事だ?」

「その力を活用する為の作戦を立てている」


 作戦か。今のところ、この力を上手く活用できる方法は何も思いつけていないが、ビクトリーはどんな作戦を立てているのだろうか。


「標的が一体しかいない状態にすればいい」

「タイマンに持ち込ませるという事か」

「その通りだ。暴走状態の白棒と茶棒で1VS1の状況を作り出す。そして俺たちは白棒から見えない場所でサポートを行う」


 なるほど。見えない場所、遠い場所に隠れていれば、巻き添えになる事もないという訳か。それなら、仲間を攻撃してしまう事もない。

 あれ、というか……


「ビクトリーも協力してくれるのか?」

「ああ。茶棒への復讐を目的とする者同士、手を組んだ方が良いはずだ」


 ありがたい。仲間、というよりも協力者か。一人増えるだけでも、安心感が段違いだ。


「ありがとうビクトリー。改めてよろしく頼む」


 二回目の握手を交わす。


「サポートって、具体的に何をするんだ?」

「エネルギーを……そういえば、エネルギーは使えるのか?」

「いや、使えないな」


 俺と黒棒の声がハモる。


「えっ、白棒は使えてなかったか?」

「あれは灰棒の真似事をしていたら偶然発動しただけだ」

「そっかー……てっきり実はこっそり練習してて使えるようになってました、なんて展開になるのかと思ってたんだけどな」


 あの時のバリアは、本当に偶然出現したものだ。正直、今でも自分が出したのかどうか疑っている。


「そうか。なら、修行を受けてくるといい」

「修行?」


 またも俺と黒棒の声がハモる。


「今から向かう世界に、エネルギー術の達人が住んでいる。みっちりと教えてもらうといい。俺もその人に教えてもらった事がある」

「その修行ってどのぐらい厳しいんだ?」


 修行と聞くと、なんとなく厳しそうなイメージがある。


「そうだな……厳しさは人によると思う。それよりも、感覚だ」

「感覚?」

「エネルギーを使う感覚はかなり独特なんだ。すぐに習得できる人とできない人に分かれてくる」

「な、なるほど……」

「人によっては数年掛かった事もあるらしい」

「ええっ!?」


 数年って……長すぎる。とにかく、気を引き締めて挑むしかないか。灰棒が使っていたエネルギーを、俺たちも習得する時が来たんだ。


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