再修行
エネルギービーム同士が衝突しての大爆発。それに巻き込まれた俺と黒棒は、地面に大の字で倒れ伏せていた。天井は傷一つなく、透けて空が見えている。流石の耐久力だなバトルボックス。
「ぐ…がっ」
ダメだ、立ち上がれない。エネルギーも体力も使い切ってしまった。
「お互い動けないみたいだな……あーあ、勝ち越しは出来ずか」
黒棒も同じ様子だった。今回の手合わせは引き分けで終わりだな。
「大丈夫!?」
星が心配そうな顔で俺たちの元に駆け寄って来た。
「ああ、なんとか……」
「ただ力を使い果たして動けないだけだ……」
「それ本当に大丈夫なの!?どうしよう、僕回復手段持ってないよーっ!」
「問題無いぜ、このぐらい時間かけて休めば元通り元気になるさ」
「そ、そうなんだ……」
棒世界にいた時も、戦った後は一晩身体を休めて元気にし、翌日また戦っていた。棒人間は戦闘大好きな種族だから、自然回復が早い体質になっているのだろう。
「ならばそこで休むか?二人揃って今動けない状態じゃろう」
「あっ、師匠」
星と会話している間に、師匠がバトルボックスの中にやって来た。
「あーいや、流石にここで寝るには地面が固」
「冗談じゃ。ワシの家まで背負ってやろう」
「あ、ありがとうございます……」
師匠が左肩、右肩にそれぞれ俺と黒棒を背負い、師匠の家まで運んでくれた。
「エネルギーを躊躇なく使い切ってしまう所は課題じゃが、良いバトルを見せてもらったぞ。今晩はゆっくり休め」
「はい、そうさせていただきます」
明日からは再修行だ。身体を鍛えて、新たな技を開発して、既存の技を強化して……課題は山積みだな。
「白棒」
「ん?どうした黒棒?」
「次こそ絶対に俺が勝ってやる」
「こっちこそ」
明日また黒棒と手合わせをする、なんて事は考えていない。だが、もし次やる時は今度こそ勝ち越したい。そんな事を思い浮かべつつ、俺は眠りについた。
〜翌日〜
「まずは腕立て伏せーっ!」
「おーっ!」
「まずは100回ーっ!」
翌日、目覚めた俺たちは家の外に出てバトルボックスに入り、筋トレを決行しようとしていた。ちなみに星は家の中で熟睡中。
「まさか、そのままやるつもりか?」
「えっ?そのままって、これ以外に何か方法があ」
「重りを付ければ捗るぞ」
「あっそうか重うぐっ!?」
突然背中に何かがのしかかってきた。しかもかなり重い。
「ワシ特製、エネルギー製の重りじゃ。自由自在に重さを変更できる」
「つ、潰れ、る……!」
「おっと、それなら早速軽くするか」
おお、丁度いい感じの重さになった。これなら捗りそうだ。
「1……2……!」
「どんどんいくぜ!1、2、3、4、5、6!」
「ペースはやっ!?」
「ほう、流石スピード型といったところか」
まさか黒棒のスピードの速さがこんな場面でも発揮されるのは想像してなかった。俺も自分のペースで進めていこう。
師匠特製の重りをつけながらの筋トレ修行。数日間、休憩・棒の食事・睡眠を挟みながら続いた。
〜数日後〜
「エネルギー……ビーム!!」
「おらぁああああっ!!」
筋トレを始めて数日が経過した頃、俺たち二人は、効果を確かめる為に、エネルギービームの試し撃ちを行っていた。
「筋トレの成果を確かめる為じゃ。全てのエネルギーを使い尽くして放て」
「はい!」
全エネルギーを使って。
「ぐぬぬ……っはぁー……!」
「だぁあっ使い切ったぁー…….」
数秒間放ち続け、身体のエネルギーを空っぽにした俺たち二人はその場に座り込む。前回の修行の時に、身体を鍛えれば体内のエネルギーの保有量や回復速度が上がる事を師匠から学んだ。この数日間の筋トレで、その効果が出てくるはずだ。自分の身体にあるエネルギーに意識を集中させる。
「……これは」
自分の感覚ではあるが、以前よりも目に見えて回復速度が上がっている。
「ふむふむ……やはりお主らは成長が早いのう。今まで通りのエネルギーの出力量ならば、ビーム以外の技で枯渇させる事はなくなった」
「おお!」
エネルギーの枯渇を心配する必要がほぼ無くなったのか……凄まじいな。戦闘においてとんでもないメリットだ。
「じゃが、いくらエネルギーを多く使えたとしても威力が足りなければ硬い敵、強い敵には通用せん。じゃから次は出力を上げる」
「もっと多くですか?」
「うむ。ビームは元々その調整がやりやすい技じゃから良いとして、他の技の出力……もとい、エネルギーの消費量を多くする」
マスターが左手を上に向け、そこからエネルギーの弾を生み出す。
「これと」
マスターが右手を右方向にまっすぐ構え、エネルギーを溜めて同じ大きさのもう一つの弾を生み出す。
「もう一つ。二つの違いが分かるか?」
「えっ?」
違いって、どっちも弾なんじゃ……とりあえず、凝視してみるか。うむむ……あっ。
「もしかして、使われているエネルギーの量ですか?」
「その通りじゃ。さあ、お主らもいつもより多く使って弾を作ってみい」
師匠に言われるがまま、普段よりも多めのエネルギーで左手から弾を生み出そうとする。ってあれ?
「弾が大きくなったぞ?」
「俺もだ。なんで師匠みたいに同じ大きさで作れねえんだ?」
「ふぉっふぉっふぉっ、疑問に思うのも当然じゃな。実はワシの弾にはある工夫を凝らしてあるんじゃ」
「工夫……ですか?」
一体なんだろうか。凄く気になる。
「圧縮じゃよ」
「圧縮?」
「量はそのままにグッと力で押し込めて小さくする技術じゃ」
師匠が両手で力一杯エネルギーの塊を押し潰して圧縮する絵面が容易に想像できてしまった。
「攻撃を当てやすくするだけならば単に放つ量を多くするだけでいいのじゃが、より威力を上げるのならば、この技術が必要になる」
「よし!必要になるんなら、早速やってみようぜ!ふんぬぐぐぐぐ……!!」
「行動早っ!?」
黒棒が早速試してるな。エネルギーの弾を生み出して両手で押し潰そうと……ゲフン。圧縮しようとしている。
「うぐぉおあっ!?」
「……そう容易くはいかないものじゃ」
しかし爆発して失敗。これは一筋縄ではいかないな。
「ただの力押しじゃダメじゃ。はみ出さないよう、繊細に、かつ大胆に押し込めて小さくするのがコツじゃ」
「はい!」
アドバイスに倣い、俺も大きな弾を生み出して両手で少しずつ慎重に押し込めて小さくしていく。
「……うあっ!?」
「うむ、筋は悪くない。後は慣れじゃな」
失敗。どこかからはみ出したのか、爆発してしまった。回数をこなして感覚を掴んでいくしか無さそうか……
「苦戦するのも無理はない。ワシだって習得するのに大分時間を費やしたからのう」
「エネルギービームの時みたいにお手本がありゃいいのにな」
「ワシの圧縮はあまりにも早すぎて参考にならんのじゃよ」
「そっか、そりゃそうだよなー……」
「……む、そういえば一人だけ手本の心当たりがあるぞ」
「それって一体……?」
「赤棒じゃよ」
「赤棒!?」
「あいつが!?」
誰の名前を出すのかと思ったらまさかの赤棒。二人して驚いてしまった。
「奴の放つ火力砲にはその技術が使われておる。手本にするのにちょうどいいスピードでな」
炎世界の時にあの技を近くで見ていたはずなのに全然気付かなかった。すごい技術が潜んでたんだな。
「早速じゃが、今から呼び出すぞ」
師匠が腕輪で連絡を行おうとして、その動きを止める。
「っと、呼び出す前に一つ頼みじゃ」
「頼みですか?」
「うむ。赤棒が手本を見せて帰るまで、圧縮の話は出さないでほしいんじゃよ。実を言うと、赤棒の圧縮技術は偶然なんじゃ」
「偶然?」
「意識して発動している訳ではないんじゃよ。じゃから、変に圧縮の事を意識してしまえば、むしろ出来なくなってしまう可能性がある」
そうだったのか。うっかり話題にしないように気をつけなければ。
「では気を取り直して、呼び出すぞ」
今度こそ師匠が腕輪で連絡を行った。
『おう!こちら赤棒!青棒なら今取り込み中だけど、何か用か?』
噂をすればなんとやら。
「マスターじゃ。今からこちらに来れるか?」
『おっ師匠!合点承知!えーと転送するにはこうしてああやって……あっ光っ』
赤棒の声が途切れる。直後に師匠の目の前に青い光が出現。
「とうちゃーっく!!」
その光もすぐに消滅し、赤棒が出現。
「よく来てくれたのう赤棒。来て早々じゃが、一つ頼んでよいか?」
「一発だけ火力砲を放ってほしいんじゃ」
「おっ、一発だけでいいんだな?分かった、全部出し尽くしてやるぜ!」
さあ、今から放たれる火力砲に注目しなければ。圧縮の感覚を掴むんだ……!
「って言いたい所なんだけどさ」
「ん?」
「わりぃ、ぶっ放せねえんだ」
「えっ!?」
放てない?エネルギーが尽きている訳ではなさそうだが……?
「どういう事なんだ赤棒?」
「あーいや、えーとだな……」
言い淀む赤棒。一体何を言うつもりなんだ?
「呪われちまったんだよ俺」
………え?