手合わせ
俺と黒棒、1vs1の手合わせが始まった。序盤は純粋な殴り合い。たまにエネルギーでの攻撃を織り混ぜながらも、棒世界の頃を思い出すような楽しい戦いを繰り広げた。そして中盤。
「そろそろ本気でやり合おうぜ?」
「ああ、俺もそう思ってたところだ」
どうせ戦うなら勝ちたい。だからここからは本気のやり合いだ。ただし殺し合いではない。勝敗を決めるだけの戦いだ。
「いくぞ白棒!」
黒棒の姿が消えた。恐らくはスピードを活かした死角からの不意打ち。棒世界でいつも戦ってた時はまだ辛うじて姿が見えていたが、今は全く見えない。Xと戦った時と同じように、エネルギーを感じ取って場所を把握するしかない。
「オラッ!」
「どわっと」
早速仕掛けて来たか。俺の背後からの飛び蹴りだ。なんとか反応して身体を左に傾け回避。
「考える暇なんて与えねえ!」
「くっ!」
そのまま着地した黒棒はすぐにこっちに振り返り連続パンチを繰り出す。俺はその一発一発を手で受け止めたり弾いたりして捌いていく。初めは一方向からだけの攻撃だったのが、次第に前後左右からへの攻撃に変わっていった。
「もういっちょいくぜっ!」
埒が開かないと思ったのか黒棒が攻撃を止め、再び姿を消す。エネルギー探知を行なってみたら案の定俺の周りを高速移動していた。今動いてるエネルギーの点、そこを見落とさなければ、迎撃は……ん?
「点が二つ、三つ……?」
それどころじゃない、無数にあるぞ!?まずい、これだとあいつの場所が割り出せない。こうなったら直感で避けーー
「突撃ぃい!!」
来たっ!!
「おわぁあっ!」
辛うじて回避。今度はエネルギーを全身にまとって俺の側面へ飛び込んで来たのか。
「まだ終わりじゃねえ!集まれっ!」
豪快な音と煙を立てて着地した黒棒はすかさずそう口にする。すると、周囲から複数の黒いエネルギー弾が俺に向かって飛んで来た。
「バリーー」
とっさに守ろうとしたが、違う。今こそ攻め時だ。スピードの速い相手に全力を叩き込める数少ないチャンス。幸い、ライフエネルギーはまだ有り余ってる。よし決めた。
「ちょっ、嘘だろ!?」
ゼロ距離でエネルギー弾をぶつけよう。俺は右手にエネルギーを集中させ、黒い弾をモロに浴びながら黒棒との距離を急いで詰めていく。
「バリア!」
「ヒッ!?」
そのまま撃っても逃げられるので俺と黒棒を囲むようにバリアを張る。
「待て白棒、止め」
「ショット!!」
距離が間近にまで迫ったタイミングで地面に向かって溜めておいたエネルギー弾をぶちかます。ゼロ距離の一撃だ。
「うぉおおあああっ!!?」
「ぐっ!!」
目の前で爆発を起こし、俺と黒棒を巻き込んだ。同時にバリアも粉砕。互いに吹っ飛ばされ距離が離れる。
「大胆な攻撃するじゃねえか……!」
「はあっ、はあっ……」
今の攻撃で、お互いに大きいダメージが入った。俺はライフエネルギーが身代わりになったので体力の減りは多少で済んでいるが、エネルギーが枯渇してしまった。対して黒棒は体力を大幅に減らしているが、エネルギーにはまだ余裕がある。正直、現状俺が不利な状態だ。
「身体強化!」
「くっ!」
黒棒がエネルギーを消費して身体強化を実行。俺はエネルギー切れで行えないので、身体能力に大きな差が生まれてしまった。急いで新たにエネルギーをチャージできなければ、タコ殴りにされてしまう。
「この勝負、俺の勝ちだ!」
だが当然、大きなスピードの差が出来た以上、そんな時間を作ってくれるはずがない。黒棒がまたこっちに突撃し、連続で殴りかかる。
「がっ!ぐふっ!がはっ!?」
「オラオラオラアッ!!」
全く反応できず、ただなす術なく俺の身体に拳が叩き込まれ続ける。まずい、意識が……嫌だ、負けたく無い……!
「まだ倒れねえのか!?お前のタフさはライフエネルギーがあるからじゃなかったのか!?」
「それだけじゃない、もう一つ……」
少しでも意識を保て、空気中のエネルギーを取り込め、自然回復の為の時間を稼げ……!
「根性だぁあっ!!」
よし溜まった、今こそ展開!
「バリアっ!?さっきエネルギーは枯渇したんじゃねえのか!?」
「今溜めた!」
黒棒の連続パンチを弾き切り、役目を終えたバリアが消滅する。すかさず後方に下がって距離を取り、再びチャージ。そして身体強化。
「これで互角だ!」
「やるじゃねえか白棒、そうこなくちゃな」
エネルギーを補充した以上、体力の差があるとは言え今は五分五分ぐらいの状況だろう。ここから先の行動で勝敗はどちらにも転ぶ。
「エネルギー」
黒棒がそう言いながらまたも突撃。まさかさっきの自分と同じようにゼロ距離でエネルギー弾を放つつもりなのだろうか。ひとまずバリアとアーマーを張って攻撃に備える。
「ナックル!!」
「がはっ!?」
黒棒が右手にエネルギーをまとわせ、殴りかかってきた。その拳がバリアとアーマーを最も容易く叩き割り、俺の腹にめり込んだ。
「あ……ぐっ」
「もう一発!」
今度は左手にエネルギーをまとわせる黒棒。今の俺にはこれ以上強固な防御手段が存在しない。どうすればーー
「体力の差なんてすぐに覆してやるぜ!」
「っ!」
そうか、体力!今、黒棒の体力は少ない。少しでもダメージを受けたくはないはずだ。ならば、スプレッドのような小さなエネルギー弾を無数にばら撒く技を使えば、近距離が危険だと判断させ、距離を遠ざける事が出来る。だが、黒棒のスピードは速い。普通に放っても避けられるだけだ。ならば、攻撃を受けるタイミングで発動するようにすればいい。それも、自動的に。
「スプレッドアーマー!」
攻撃を受け、アーマーが割れた際にその破片が大量に飛び散り、相手に襲いかかるよう改良した。
「おらよっと!ってどわっ!?」
「よしっ、成功!」
拳がアーマーを砕いた瞬間、その破片が大量に黒棒に向かって飛び散り、ダメージを与えた。
「いってぇ……これじゃ近寄れねえな」
「そういう事さ」
これで近距離での連続攻撃に悩まされる事も無くなった。
「ならまとめて遠距離からぶっ飛ばせばいい話だろ?」
「え?」
黒棒が両手を前に突き出し、エネルギーを溜め始める。まさかこの構え……!?
「エネルギービームか!」
「そういうこった!」
確かにそれなら威力十分で距離も問題ない。スプレッドアーマーに対する正しい解答だ。
「覚悟しやがれ!」
そう言って黒棒は前に突き出していた両手を腰に移動させ、瞬時に姿を消した。また俺の周りをぐるぐる動き回っている。
「エネルギー……」
どうせなら、お互いにコレで決着をつけよう。俺はそう考え、もう一度エネルギーのチャージを行い、便乗するように両手を腰に据えてエネルギーを溜め始めた。
「はぁぁぁあああ……!!」
互いに溜まり切るまでこの膠着状態は続いた。そしてーー
「くらぇぇええええっ!!」
俺の前方から姿を現した黒棒が、渾身のエネルギービームをぶっ放す。
「ビィィィイイイイイム!!」
俺もそれに応えるように、溜めに溜めたエネルギービームを繰り出した。二つの光線が真っ向から衝突し、すぐに大爆発を巻き起こした。
「「どわぁあああああああっ!?」」
「ぬおっ眩しっ!?」
「うわわぁあああっ!?」
俺と黒棒はモロに爆発に巻き込まれ、師匠や星も含めた四人の声が同時にこの世界に響き渡った。