手合わせの前に
「準備はできてるか黒棒?」
「おう、いつでもいけるぜ!」
師匠の家で一晩休んだ翌日、完全回復した俺たち二人は、以前修行を行った時の場所で向かい合って構えていた。あの時した手合わせの約束を果たす時だ。
「あまりにもこの世界に被害が出そうな時はワシが防ぐ。安心して戦えい」
「はい!」
その上で心配だった所は、師匠がカバーしてくれる事になったので安心。
「二人とも頑張れーっ!」
そして師匠の隣にいる星の応援。やる気がみなぎってくる。
「あの時の修業以来だな、命を取り合わない戦いは」
「ああ。棒世界の頃みたいに楽しんで全力で戦おうぜ」
棒世界といえばアレを思い出した。まだ決着がついてなかったよな。
「そういえば、俺たちのタイマンってまだ互いに勝ち越ししてない状態だったよな?今回でリードを取らせてもらうぞ!」
「それはこっちのセリフだ、いくぜっ!」
黒棒がそう言い放ちながらこっちに向かって突進し、戦いがーー
『こちらビクトリー、応答求む!』
「む」
「わわっ声が!」
ーー始まらなかった。戦いで壊さないように師匠に預けていた腕輪からビクトリーの通信が入ったのだ。
「こちら白棒、もしかしてそっちも回復したのか?」
『ああ。いつでも動ける状態だ』
『バッチリだぜ!今すぐにでもぶっ放』
『また気絶するつもりかお前は』
俺もあの二人もXとの戦いで結構な傷を負ったはずだが……一晩かかるとはいえ、回復薬の効果は凄いな。
『これからについてだが、しばらくはこのまま別行動でいくつもりだ。少なくともエネルギー世界では合流しない。また昨日のように狙われるからな』
ああ確かに……珍しいエネルギーだから、戻った瞬間にまた昨日みたいな事が起こるよな。
「分かった。俺たちはしばらくここに残って修行するつもりだ」
消耗していたとはいえ、Xに叩きのめされた。茶棒はそのXよりも遥かに強い。更に強くならなければ茶棒討伐の目的を果たす事は不可能だ。
「そっちはどうするんだ?」
『この世界に滞在して茶棒の探索と準備を行う』
「お互い準備期間だな」
『現状だと茶棒は倒せない。今は力を蓄える時だ。次がいつになるかは分からないが、タイミングが来た時に連絡する』
『一つだけいいか?』
通信が切れる前に青棒の割り込みが入る。
『修業を行うつもりなら、昨日の礼も兼ねて発明品を提供させてくれ。今、転送する』
その言葉と共に俺たちの目の前に青くて半透明のデカい箱が出現する。
「うおっなんだこりゃ!?」
『バトルボックスだ。大きさも出入りも自由自在、戦闘の衝撃も防ぐ優れものだ。赤棒が放つ全力の火力砲も防げる』
手合わせの舞台にはうってつけだ。それにしても赤棒の火力砲も防げるってとんでもない耐久力だな。タフな俺でも直撃したら生き残れるかどうか分からないレベルなのに。
『悪いな青棒、お前の発明品にはいつも助けられてばかりだ』
『お前にはいつも世話になっている。このぐらいはしなければ釣り合わない。さて、用は済んだ。切るぞ』
その言葉の後、通信が切れた。バトルボックスは素直に使わせてもらおう。
「大きさが自由自在に変えられるとか言ってたけど、どうやって変えるんだコレ?」
あ、確かに。詳しい方法を教えてもらってなかったな。
「こんなぐらいの大きさになれーって念じたりしたらいかねぇかなって思ったらいったわ融通が効くな」
バトルボックスの大きさが戦うのに充分なほどに拡大した。黒棒の様子からしてイメージした大きさに合わせるような仕組みになっているのだろう。よし中に入るぞ。
「お」
半透明の壁に衝突する事なく入れた。戦闘の衝撃についても確認。試しに一発壁をぶん殴る。
「フンっ!」
「おおー、びくともしてないな」
壁をすり抜ける事なくぶつかって止まった。都合よく通したり通さなかったり、不思議な性質だな。
「よし、改めて手合わせいくぞ黒棒」
「おうよ白棒!」
さあ、今度こそ手合わせの始まりだ。