棒世界滅亡
棒の溢れる世界、棒世界。
その世界の住人である身体が棒のように細い種族『棒人間』は、日々戦いを繰り広げていた。
白棒、黒棒、灰棒。この三人の棒人間から物語は始まるーー
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「どわあっ!」
「ぐはっ!」
俺と黒棒、灰棒での2vs1の戦い。
今日も案の定完敗。
「今回も俺の勝ちだな」
「くっそー負けた!」
やはり灰棒は強い。俺たち二人の攻撃を難なく捌き、的確にカウンターを仕掛けてくる。
毎日こうして2vs1の勝負をしているのだが、一度も勝てた事がない。
「何だろうな、空からの奇襲!とか色々工夫してみた方が……あれ?」
黒棒の口が止まる。
「どうした黒棒?」
「いや、空から何かが降ってるような……」
「空?」
上空を見上げてみると、遠くに何かが見える。
「隕石……か?」
「珍しいな」
「あれは……まさか!?」
そして地面に落ち、爆発するーー
「まずいっ!!」
灰棒の声が響き渡る。
次の瞬間、爆発が目の前まで迫り、俺たちはそれに巻き込まれ……なかった。
周りを見渡してみると、ドーム状の透明な障壁が張られ、爆発を受け流していた。
これは一体……?
「ぐ……ぉおおっ……!!」
ここまで焦りを見せる灰棒の姿は初めてだ。
それほどまでに強烈な爆発なのだろう。
やがて爆発が収まり、灰棒が張っていた障壁が消滅する。それと同時に灰棒がその場に座り込む。
「止まった、か……」
「灰棒、今の技は一体……?」
「ああ、まだ見せるつもりはなかったんだけどな。これがエネルギーの技の一つ、バリアだ」
そうか、これがエネルギーか。
名前自体は以前にも灰棒から聞いた事があったのだが、詳細を聞いたり見たりした事は一度も……いや、見た事は一度だけあるな。
青くて、光ってて、透明で、これほどの爆発を防げるほどに強靭。
これが使えるようになれば、きっと今よりも強くなれる。そう確信した。
技の一つ、という事は、障壁……バリアの他にも色々と技があるのだろう。
それにしても、あれほどの規模の爆発だと、被害もかなり大きくなっているはずだ。
もう一度、周りを見渡してみる。
ーー何も、無かった。
「え……?」
「嘘、だろ……?」
草原も、棒も、棒人間も、何もかもが。
代わりに残っていたのは、焼け焦げた大地だけだった。
あの隕石が、全てを消し去ったのだろう。
「ダメだ、気配も何も感じない。恐らくさっきの爆発で……」
そう言うと、灰棒は悔しそうに右手を握りしめる。
黒棒はあまりの光景に絶句していた。
…いや、俺もか。
突然全てが消え去ってしまう。
そんな状況を簡単に受け入れられるはずがない。
一体これからどうすればーー
「心配するな」
「灰棒……?」
「白棒、黒棒、お前たちは何があっても俺が守り抜く」
「灰棒……!」
ああ、この力強い言葉。
灰棒はいつだって強い。
俺たちよりも遥かに。
「だから……っ!?」
突然、灰棒が何かに気付く。
「どうしたんーー」
瞬間、頬に鋭い痛みが走る。
「っつぅ……!」
右手で傷んだ部分に触れる。
……血?
「後ろだっ!!」
「っ!?」
灰棒の叫び声に驚き、後ろに振り返る。
そこには……
「やぁ」
不気味な笑みを浮かべる、茶色の棒人間がいた。
その右手には、血の滴る赤い刀が握られている。
「あ…あ……」
恐ろしい…怖い…動けない……
「白棒っ!」
「じゃあね」
そしてその刀は、俺の顔面にーー
「おらあっ!!」
届く事なく、灰棒によって所持者ごと蹴り飛ばされた。
「もう、何するのさ。良いところだったのに」
すぐに態勢を立て直した茶色の棒人間は、蹴りかかった張本人に対して頬を膨らませ抗議する。
「茶棒、てめぇ……!」
灰棒が怒りの形相で茶色の棒人間、茶棒を睨みつける。
灰棒がここまで怒りを露わにするのも初めてだ。
今日に限って初めてが多いな……
「あいつを知ってるのか?」
「ああ。殺しの為だけに生きる、とんでもなくイカれた棒人間だ」
「イカれただなんて酷いなぁ」
殺しの為だけ……道理であんなにもおぞましい雰囲気を放っていた訳だ。
ふと、茶棒が目を見開き、灰棒に近付く。
「あれ、よく見たら君、ちょっと前まで色んな世界で戦ってた有名人だよね」
色んな世界…という事は、この世界以外にも世界があるのか?
「……昔の話だ」
「戦いに疲れたんだって?」
戦いに疲れた……?
いつも楽しそうに戦う灰棒が?
「黙れ」
「それでこんなお遊びを始めていたなんて、面白い話だ」
「黙れ!」
「噂話をしただけなのにこの反応……どうやら本当だったみたいだね」
茶棒が話しているのは、恐らく昔の灰棒の話。反応からして、あまり知られたくない話のようだ。
正直、すごく気になるけど。
「外の世界では何人もの仲間ができた。だが、そのほとんどが殺された、守りきれなかった……!」
「何人かは僕が殺したんだけどね」
「敵は殺し合う事を躊躇しないイカれた奴ばかり……」
「いやいやそれが普通なんだって」
「常に気を張り巡らせて、いつ死ぬかも分からない……あんな殺伐とした戦闘はもうたくさんだ!」
俺たちの知る戦いとは全く違う、殺伐とした戦い。
灰棒はそれほどまでに過酷な戦いを経験してきたのか。
俺たちより遥かに強いのも頷ける。
灰棒が左手を握り込み、開いて前に突き出す。
「エネルギー……」
手にエネルギーが集まる。
「ショット!」
弾の形になったエネルギーが茶棒に向かって撃ち出される。こういう使い方もできるのか。
「おっと」
茶棒は顔を変えず、身体を傾けて回避する。
エネルギーはそのまま遠くへ飛んで行き、やがて爆発を起こす。
「すげぇ……」
「なんて威力なんだ……」
俺と黒棒は共に驚愕していた。
俺たちの攻撃なんかとはまるで威力が違う。
いや、普段の灰棒の攻撃と比べても桁違いだ。
これがエネルギーの力……
「この戦いだってそうだ」
「そんなに嫌いなら、最初から外に出なければよかったのに」
茶棒が赤い刀を構え、灰棒に斬りかかる。
「ブレード!」
灰棒が右手に光を集め、鋭い刃を生み出す。
迎撃の構えだ。
刀と刃が衝突する。
「殺伐とした現実を知っていればあんなバカな真似はしなかったさ」
「君のせいで何人殺し損ねたと思ってるんだ。今更後悔しても遅いんだよ」
茶棒から僅かに怒りの表情が滲み出す。
腕に力が込められ、刀が刃を僅かに押し込んでいく。
「それならこっちも言わせてもらう。お前のせいで俺の仲間が何人殺されたと思ってるんだ……!!」
灰棒も怒りを込め、刃で刀を押し返す。
「知らないよ。いちいち数えてないし」
力は互角。押して押されての繰り返しだ。
「それよりもさ、早く抵抗を止めてくれないかな?時間がかかるのは嫌なんだよね」
「断る」
「ケチ」
茶棒が後ろにバク転し、距離を取る。
それに合わせ、灰棒も刃を解除する。
茶「しょうがない、ちょっと疲れちゃうけど……アレ、決めようか」
アレ?
瞬間、茶棒が口角を上げ、その場から消えた。
「消えたのか……?」
「まずい、これは……バリア!」
灰棒が焦りの表情を見せ、迅速に俺と黒棒の周りにドーム状のバリアを張る。
「灰棒、どうしーー」
「動くな、死ぬぞ!」
差し迫った表情で俺たちに向かって叫ぶ。
「奴は消えたんじゃない。その場を高速で動き回っているだけだ!」
「やっぱり気付いちゃうか。まあいいや、攻撃開始」
合図と共に、灰棒とバリアに凄まじい勢いで衝撃が与えられていく。
いや、この跡は斬撃か……?
バリアは全ての攻撃を弾いているが、灰棒の身体には瞬く間に大量の傷が入る。
「ぐうぅ……っ!」
「灰棒、大丈夫か!」
「ああ、まだいける……!」
「相変わらずの硬さだねこのバリア。自慢の刀が折れちゃいそうになるよ」
ちょっと困ったような顔で茶棒が呟く。
「でも君の周りに張られなかったのが幸いか。殺せばバリアも消えるから残り二人も瞬殺できるし」
茶棒がバリアへの攻撃を止め、ターゲットを灰棒一人に絞る。
「ぐぁあああっ!!」
灰棒の傷が更に増加する。
「さっさと殺させてよ。僕それだけが生き甲斐なんだからさ」
このままだと灰棒が殺されてしまう。
だけどどうしようもない。
せめて、このバリアを俺も灰棒に使えれば……
確か構えはこうで、イメージは……
「バリア!バリアっ!」
何も起こらない。
「素人にエネルギーなんて使えるわけないよ。何なら奇跡が起こってバリアを粉砕してくれれば手間が省けるんだけどね」
「このぉ……!」
それどころか、馬鹿にされる始末。
やっぱりもう、助ける方法は無いのか?
嫌だ、そんなの絶対に……!
「くっそぉおおおおっ!!」
叫び声に共鳴するかのように、俺の両手から白い光が飛び出した。
「えっ!?」
突然、茶棒の刀が何かに弾かれる。
その正体は、灰棒の周りに張られた白くて透明なバリアだった。
「まさか……!」
「お前、使えたのかエネルギーを!?」
「いや、これは単なる偶然で……」
黒棒も灰棒も茶棒も驚いている。発動者であろう俺ですらも驚いている。
「嘘でしょ?君バリア張れたの?しかも硬いし……あーもういいや」
茶棒が不満そうな表情で後ろに振り返り、わざとらしく音を立てながら去っていく。
気配が消えた。
「助かったぁー……」
俺と黒棒は安堵し、その場に崩れ落ちる。
しかし、灰棒は不意打ちを警戒してか、気を張り詰めたままだ。
「どうしたんだ灰棒?あいつはもういなくなったぞ」
「……そうだな、一度落ち着くか」
少しの間を置き、灰棒が警戒を解く。
俺と黒棒、灰棒の周りに張られていたバリアが消滅する。
「ありがとう灰棒、お前が守ってくれなかったら今頃どうなってたか……」
「いや、礼を言うのはこちらの方だ」
何かしたっけ俺たち?
「さっきのバリア、本当に助かった。ありがとう白棒」
あのバリアか。
偶然できただけとはいえ、灰棒を守る事ができて本当に良かった。
「あ、いや、俺は……」
「お前は俺の命の恩人だ」
命の恩人。
その言葉が、俺の中に響き渡る。
俺が灰棒の命を救った。
俺たちを導き、助けてくれた人。
その人の命を俺が救った。
力になれた。
……嬉しさが込み上げてきた。
「お前、今までで一番嬉しそうな顔してるぞ」
「うっ」
恥ずかしい。
見ないで。
「なあ灰棒、俺も褒めてくれよ!」
何かしたっけ黒棒。
「ん、そうだな…死なずに生き残ってくれてありがとう、黒棒」
「お、おう。むしろお荷物になってなかったか俺?」
「そんな事はない。お前たち二人がいてくれるからこそ俺は戦えるんだ」
「灰棒……」
黒棒が感極まってる。
俺もまたニヤケそうになってる。
大人しくしろ口角。
「話は変わるが、一つ謝っておきたい事がある」
「謝る事?」
「俺の過去やエネルギーの詳細について隠していた事だ。すまなかった」
「いやいや気にすんなって!誰だって知られたく無い事の一つや二つあるもんだろ!」
「……ああ。そう言ってくれるとありがたい」
「そうそう」
「……さて、既にある程度ぶちまけてしまったが、俺の過去を話しておこう。少し長くなるぞ」
灰棒の過去か。
さっき聞いた時点で辛そうな内容なのは若干察せたが、それでも気になる。
「あの頃の俺にとって、外の世界は憧れの象徴だった。この世界よりも戦闘のレベルが高く、技術が優れている。そんな噂を信じて、俺はこの世界を飛び出した」
「外の世界ってどういう事なんだ?世界は一つだけじゃないのか?」
「この世には沢山の世界があるんだ。この世界は棒世界と呼ばれている」
棒人間の世界だから棒世界。
安直で分かりやすい名前だ。
「共に戦う仲間と出会い、エネルギーを習得し、未知の戦いに挑む…新しい出来事ばかりで興奮が止まらなかった。だが、命を奪い合う戦いで容赦なく仲間が殺される光景を目の当たりにした時、俺は外の世界に出た事を深く後悔した」
容赦ない殺し合い。
楽しく全力で戦うこの世界ではとても考えられない事だ。
「そうして戦い続けていく内に精神が疲労し、限界を迎えた俺は、棒人間達が繰り広げる楽しい戦いを求めてこの世界に戻って来た。その後、お前達二人と出会ったんだ」
灰棒との出会い。懐かしい記憶だ。
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『見ない顔だな。俺たちと一緒に戦おうぜ!』
『……ああ、分かった』
『どうしたんだ?そんな辛そうな顔して』
『っ!……いや、なんでもない』
『そうか。そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は白棒だ』
『俺は黒棒だ!よろしくな!』
『灰棒だ。よろしく頼む』
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初めて出会った時、灰棒は辛い顔をしていた。戦いが嫌いなのかと思っていたが、いざ戦い始めてみると、とても楽しそうな表情で戦いに臨んでいた為、結局理由は分からないままだった。しかし、今の灰棒の話を聞いて納得した。それほどの過去を引きずっていれば、辛い顔をするのも当たり前だ。
「何故今までエネルギーを使わなかったり隠したりしていたんだ?」
「その理由は二つある。一つはこの世界の強さのバランスを崩さない為、もう一つは加減が出来ずに殺してしまう危険があった為だ」
エネルギーの圧倒的強さを考えれば、二つとも十分ありえる話だ。特に前者は、俺と黒棒、灰棒の実力差が分かりやすい例だ。
「まず、この世界の住人はエネルギーを知らない。知る者と知らない者で実力差が出来てしまう」
「それなら、全員に教えればいいんじゃないか?」
「その通りだ。しかし、そういう訳にはいかない。そこでもう一つの理由だ。エネルギーを使う技は普段の攻撃と比べて桁違いに強い。故に加減を間違えて殺してしまう危険性が高い」
「そういう事だったんだな」
「一つ蛇足を付けると、殺伐とした環境で生まれた技を持ち込みたくなかったという個人的な事情がある」
確かに、灰棒の過去を考えれば、出てきてもおかしくない感情だ。
「だけど、こうしてお前達と出会い、戦い、共にいたからこそ、過去に押し潰されずに済んだんだ。礼を言わせて欲しい」
礼だなんて恥ずかしい。
俺たちそこまで大それた事なんてしてないから。
「ありがとう、白棒、黒棒」
灰棒が手を差し出す。
「最初から君を襲えばよかった」
灰棒の背中から大量の血が吹き出す。
「が……っ」
その背後には、血まみれの刀を振り下ろした茶棒が立っていた。
灰棒はそのまま倒れ込み、動かなくなる。
「え……?」
灰棒……嘘だろ……?
「人って油断している時が殺しやすいんだよ。これ豆知識」
「灰棒っ!大丈夫か、返事をしてくれ!!」
倒れ込んだ灰棒に声をかけ、揺すってみるも、反応は返ってこない。
「察しが悪いね。灰棒はもう死んだんだよ」
「違う、まだ助かるはず…!」
「ピクリとも動かず、この出血量。死んでなかったら僕がビックリするよ」
「ぐ……ぅぅ……!」
「白棒…?」
灰棒が死んだ……?
奴のせいで…アイツのせいで……
許さない…許さナイ……
殺シテヤル………
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〜黒棒side〜
「茶棒ォオオオオッ!!」
「これは……っ!?」
「どうした白棒っ!?」
突如放たれる怒号と凄まじい風圧に、俺は気圧される。
茶棒は動じていない。
……いや、少しだけ驚いているみたいだ。
白棒の周りから赤黒い光が迸っている。
いや、光というよりも……雷だ。
「レイジエネルギー……何回か見た事はあるけど、ここまで濃いのは初めてだよ」
レイジエネルギー、またも初めて聞く言葉だ。
今の白棒と何か関係があるのか?
「さっきのバリアといい、君って本当に運が良いね」
「黙レェ!!」
白棒が茶棒の目の前に一瞬で接近する。
「おおっと」
スピードもパワーもいつもの白棒とは大違いだ。
ただ、動きが分かりやすくなっている……ような気がする。
「ちょっと不味いかもね」
茶棒が白棒から素早く距離を取る。
しかし白棒は逃さんとばかりに猛スピードで詰め寄る。
「うっ!?」
「ウォアアアアアアッ!!」
目にも止まらぬ速さで茶棒を何度も殴りつけていく。
「ドラァアッ!!」
「がぁあああっ!!」
最後の一打で茶棒が吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「あまり見せたくはなかったけど、しょうがないか」
茶棒が左手から真っ黒な光を生み出す。
「あいつ、一体何を…..」
白棒が更なる追撃の為に再び詰め寄ろうとする。
「フンっ!」
茶棒が黒い光を白棒の腹に叩き込む。
「ガッ!?あ……ぐ……ぅ」
白棒が気を失い、倒れ込む。
それと同時に赤い光も消え去る。
「白棒っ!」
俺は急いで白棒の元に駆け寄る。
「大丈夫か?しっかりしてくれ!」
反応はない……だけどまだ息はあるようだ。
良かった……
「はぁ……全く、とんだ化け物がいたもんだよ」
茶棒が立ち上がる。結構なダメージを負っているおかげか、こっちに追撃してくる事は無さそうだ。
……無いよな?
「身体のあちこちが痛い……もういいや、増援の気配がするし、今度こそどっか行こっと」
うん、無かった。
二回目の立ち去りだ。
茶棒の気配が消えたのを確認して、一息つく。
増援という言葉が少し気になったが、ひとまず危機は去ったと見て良さそうだ。
「ふうー……」
さて、これからどうするか……
世界はこの有様、俺たちを導いてくれていた灰棒は殺されてしまった。
一体どうすれば……
「大丈夫か!?」
聞いた事のない声だ。
振り返ると、額にVのマークを貼り付け、マントを羽織った男がいた。
さっきの不意打ちのせいで茶棒の変装を少しだけ疑ったが、大丈夫そうだ。
「俺は大丈夫だけど、白棒と灰棒が……!」
「灰棒……」
男が灰棒の元に駆け寄る。
「くっ、手遅れか…..折角再会できたのに……!」
再会、という事は、灰棒の知り合いなのか。
とても悲痛な表情をしている。
「ごめん……なさい。灰棒は俺たちを庇ったせいで茶棒に……」
罪悪感が込み上げてきた。
「いや、お前たちのせいじゃない。悪いのは殺した張本人だ」
「だけど……」
それでも、灰棒を犠牲にして生き残ったという状況がある以上、どうしても気負いはする。
「それに、あいつは仲間を命を賭けてでも守る性格だ。仲間の為に犠牲になれたのなら本望だろう」
確かに、そう考えれば気持ちは……いや、晴れない。
生き残って欲しかったという気持ちがどうしても残ってしまう。
「よし、もう一人の状況を確認させてくれ」
男は白棒に近付く。
「……こっちは気絶しているだけだな。大丈夫だ」
一安心。
他の人に見てもらって生きてると断定できるのなら大丈夫だ。
一気に二人も失ったら、二度と立ち上がる事はできなかっただろうから……
「よかった……です」
「そんなに改まらなくてもいい。話しやすい話し方で大丈夫だ」
「確かにそうか」
「切り替え早いな」
普段見ない人に話す時は丁寧に話した方が良いって聞いた事があるんだが、普段通りの話し方の方が大分スムーズだな。
「ところで、行くあてはあるのか?」
「行くあてかー……今は特に無いな。丸ごと世界が滅んじまったわけだし」
「なら、俺の所に来ないか?」
「えっ、いいのか!?」
途方に暮れていた俺たちにとって、ものすごくありがたい提案だ。
「もちろんだ。そうと決まれば早速拠点に案内する」
男が片手を前に掲げる。直後に赤く光り出す。あれもエネルギーなのだろうか?
「ワープゲート!」
目の前の空間が裂け、人一人入れる大きさの穴が出現する。
ワープゲート、これも初めて聞く単語だ。
「さあこっちだ、ついて来てくれ」
男が穴に向かいつつこっちに向かって手招きしてくる。
俺は白棒を背負い、灰棒の方を見る。
「……連れて行くのか?」
「……いや、連れて行っても消滅するだけだし、このまま置いて行くつもりだ」
力尽きた棒人間は時間が経つと自然消滅する。
だから連れて行ってもーー
「消滅するわけではない。力尽きた棒人間はこの世界に取り込まれて、新たな棒を生み出すエネルギーになるんだ。その棒から新たな棒人間が生まれる。そうしてこの世界は成り立っているんだ」
「そう……なのか?」
「ああ。それに、この世界から連れ出せば、身体は取り込まれる事なく残る」
知らなかった新事実が次々と飛び出してくる。
それと、この世界……って事は、灰棒の言った通り、他にも世界があるという事か。
「それで、連れて行くのか?」
そうだった、決めないといけない。
……その前に。
「一つだけ尋ねてもいいか?」
「ん、なんだ?」
「灰棒を蘇らせる手段は……ないのか?」
「……残念ながら無いな。死人は蘇らないんだ」
「分かった……」
方法は無い。それなら俺は……
「……ここに置いて行く」
「そう、か」
迷った末に、置いて行く事に決めた。これだけ崩壊した棒世界が元の状態にまで復活する為には、多くのエネルギーが必要になるだろう。これで少しでもエネルギーの足しになればいいのだが……
「おっと、名前を伝え忘れてたな。俺はビクトリーだ。よろしく頼む」
「あ、そうだった。俺は黒棒。それと、今背負ってる白いのが仲間の白棒だ。こっちこそよろしく頼むぜ!」
こうして俺と白棒は、男改めビクトリーと共に、崩壊した棒世界から出る事になったのだったーー