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8.あざとくていいですか?


 城下町は賑わい、人々の活気に溢れていた。ラーバリウル国は小さな国だが、活気は凄い。


 さまざまな店が立ち並び、見たことのないものばかりで、思わずウキウキしながら歩く。


 目の端に止まった小さな露店の花屋に、見たことない、可愛らしい花が飾られている。何の花だろう。そう思っていた時。

 

「ハロルド殿下、あの花は何の花でしょうか?」


 ソフィアは可愛らしく小首を傾げ花屋を指さしていた。ハロが「どの花?」とさりげなくソフィアに接近した瞬間。


 私は叫んだ。


「わー、あぶなーい」


 思いの外、棒読みになってしまったが、幼女だし、そこは許して欲しい。てへっ☆


 ハロにおもいっきり、衝突してやろうと思ったのに、ハロがタイミング悪く振り返ったせいで、私はソフィアの背中にタックルをかましていた。


「うっ」


 ソフィアは小さな声をあげながらドサッと音を立てて倒れこむ。


「痛っ」


 もちろん私も一緒に倒れたのだが、横目で見たソフィアの顔に思わずギョッとした。


 かわいい……。


 いや、ダメだろ。その顔は! うるうるとした涙目で、小動物のように肩をふるふるとして、そんな姿見たら、そんな姿を見たら……ハロが惚れてまうやろー!!


 「だっ大丈夫?」


 ハロが慌ててしゃがみ込む気配を感じた私はすぐに自分の顔を両手で覆い、大きな声で叫んだ。


「いだあぁぁぁぁい!! いたいよぉぉぉ!」

 

 恥など、とっくに捨ててやったのだ。

 幼女、舐めんなよ。

 

 私の泣き叫ぶ声に、ハロはソフィアに向きかけた目線を私に向ける。


 占めた! これでソフィアの可憐な姿を直視することは避けられた。


「エメ!? どこが痛いの?」

「足が、足が痛いのぉぉぉぉっ! うえぇぇん」


 いや、ほんとにちょっと痛いかも。失敗した。


「足か……なら、とりあえず馬車まで運ぼう。医師に見せた方が良いだろうしな。エメ、痛かったな、僕が馬車まで連れて行ってやるから、泣くな」



 ハロは私を軽々と抱き上げる。

 これこそ、正真正銘の姫抱っこだ。


 その隣では、ローレルと、ソフィアの侍女が心配そうにソフィアに寄り添っていたが、ソフィアに怪我はなさそうだ。

 とりあえず怪我がないならそれで良い。公爵令嬢に何かあって、問題になるのも困るし。ハロは確保できたもんね。


 ハロは心配そうに私の足元だけを見ているし。


 本来なら、ローレルが私を見て、運んでいきそうなものだけど、瞬時の判断でソフィアの方へと向かったローレルは流石だと思った。ディアス教信者恐るべし。


 しかし、ソフィアを待たせ、馬車へと到着した途端、ローレルの態度は変わる。


「姫様は足を冷やしたほうがいいですね! 殿下、ありがとうございました。後は私が対処いたしますよ」


 そう言ってテキパキと動き始めるローレルに私のセリフは決まっている。


「いやっ! 兄様がいい!!」

「あぁ、うん。僕は構わないよ」

「殿下、ソフィア様がお待ちです。 姫様は私で十分です」


 ローレル、余計なことを!!


「兄様行っちゃやだぁ。エメのところにいて」

「うーん。エメがそう言うなら…見たところ、エメの方が大変そうだし。ソフィア嬢には次の機会に……」

「殿下! ソフィア様は公爵令嬢でいらっしゃいます。蔑ろにしてはなりません。姫様のことは私にお任せ下さい。殿下はソフィア様のところへ、さぁさぁ」


 この馬鹿! ディアスの馬鹿信者め!

 このままではハロとソフィアが二人で城下町に行ってしまう。


「兄様は、エメを置いて行ってしまうの?」


 うるうるとした目でハロを見つめながら首を傾げると「やっぱり僕が……」とそうハロは言いかけた。


 ローレルの深いため息が響き、やれやれと言ったように首を振る。


「まったく、姫様はお子様すぎます。一国の姫様がはしたない、そろそろ、わがままを控えて下さい。大人になって頂かないと困ります」


 ふんっ、子供が子供の特権を使って何が悪い。大人になんてなってたまるか! 子供の武器は全力で使ってやる。馬鹿ローレルめっ!


 それでも結局、ローレルの半ば強引な誘導で、ハロは戸惑いながらもソフィアの方へと向かって行ってしまった。


 チッ! このまま、足の怪我を理由にハロと一緒に帰ろうと思っていたのに、仕方がない。

 少し強引だが……。


「あれ? 治った!」

「姫様? 今、何と?」

「だからね、急に足が治ったの! もう全然痛くなくなった! わぁ凄い!」

「姫様?」


 わざとらしいにも程がある。自覚済みだ。しかし、これを疑わせない最強のコマが私にはまだ残っていた。


「ねぇ、ローレル。これってもしかして、ディアス様? 普段のローレルの信仰心が私に奇跡を起こしてくれたのかなぁ?」

「姫様……姫様にも、ついにディアス様のお力が感じられたんですか!!?」

「うん、感じたよ! だって足が痛くないもん」


 いや、ほんとはちょっと痛いよ。まぁ、大したことはなさそうだけど。それにディアス教なんか信じるわけがない。それでも、私のセリフは、ローレルには効果的面だったようだ。感動した様子で天を仰いでいる。


「まぁ、なんて素敵なことでしょう。私嬉しいです」


 ふはははは! 馬鹿め。これで、ローレルは良し。後はソフィアをなんとかしなくては。


私は馬車から降りながら、「わぁ奇跡」などと、無邪気に見えるようにはしゃいで見せた。

 あぁ、そうだ、このままハロとソフィアのところへ向かう前に一つ武器を仕入れておくのが良い。そうしよう。

 健気におねだりすればローレルは嬉しそうに笑って、私の要望を聞き入れた。 ローレル、チョロいぜ。

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