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4.小さい手


「姫様、姫様!」

「んん……だれ?」

「姫様、いつまでも寝ていないで早く起きて下さい。今日は兄上であるハロルド殿下の誕生際ですよ」

「はろるど?」


 視界にはぼんやりと人の顔が見える。

 だから誰よ。



 いや、そもそもなんで誕生際?



「おそーしきだよね?」

「まぁ、寝起きからお馬鹿なことを言って、教育係は何を教えてるのかしら、って、おっと失礼」

「んぅ?」


 私は何となくの自分の声の違和感と一緒に、ぼんやりとしていた目を擦る。はっきりとしてきた視界に映った自分の手は思ったより随分小さかった。

 

 え?

 ちょっと待って!

 手がめっちゃ小さい。

 それに周りも大きく見える。


 どうしてだ? 何で私ちいさ……


「小さくなってるよっ!!」


 私はガバッとベッドの上に立ち上がり、自分の体全体を見てみる。小ぶりでもあった胸はつるぺた、どう見ても幼女の姿だ。驚きに目を見開いているローレルを無視して、私は大慌てでベッドから飛び降りて鏡の前に立った。


「あ……あ……あぁーーっ!!」

 

 私が幼いっ!!


 私は慌てながら振り返ると、侍女ローレルも若返っていた。



「あら、ローレル、若いころはキレイだったのね」

「は? 朝から何を仰っているんですか? 急にベッドから飛び降りるなど、はしたない。いつまで寝ぼけてらっしゃるのですか」

「寝ぼけてないもん」

「言い訳は結構、これで頭をシャキッとしてくださいな」



 ローレルはそう言いうと、無理矢理私の口の中に、歯ブラシを突っ込んで、歯を磨き始めた。


「姫様、いいですか? 本日は大変お忙しいのですから、これ以上はふざけないで下さいね。おてんばも大概に」

「んご、んん、んが」


 シャコシャコとローレルの持つ歯ブラシは私の歯を丁寧に磨いているが、私はそれどころではない。

 今居るここは私の過去だ。だって、さっきまでアワビで苦しんでいたのに……。

 今は何故か子供で侍女に歯ブラシされている。



「ごぼ、がんべがご?」

「姫様! 喋らない。口を開けてるだけでいいのですから、それくらい出来るでしょう?」



 にしても、ローレルの口の悪さは昔も変わらないようだ。


 歯磨きが終わると、用意されていた壺の中へと吐き出した。


「ねぇ、ローレル! 聞いて! 私ね、さっきまでオトナだったの。ハロ兄さまがね、どうしようもないダメな人になっていて、それでね国を乗っ取られて」


 捲し立てるように話す私に、ローレルは首を傾げながら聞いていたが、次第に顔つきが変わる。


「それでね、私、アワビを食べたの。それで」


 いやいや、待って。あれ? 語彙力がおかしい。なんだか私言葉遣いも幼くなってる?


「それでね、喉にアワビをつまらせちゃって、私死んじゃったの。国はね、たぶんそのあと滅亡しちゃったと思う」


 ローレルは私の顔を真剣に見つめながら頷いた。



「大変ですね、それは大変です。姫様!」

「うん! そうなの大変なの! だからね、どうしたらいい?」

「きっと熱があるのですね」



 ローレルは慌てて、私のおでこに手を当てる。そして不思議そうに首を傾げた。


「あれ? 熱は無いようですね。となると遂には頭がおかしく……いや、何かストレスで、変な妄想に取り付かれた? それともディアス教と相反する邪神にでも取り付かれましたか!」


 ローレルの言葉に、私はガックリと肩を落とした。

 ダメだ、この人。私の話を全く信じていない。



「もう、いい。ローレルは、しんじてくれない」

「いいえ、姫様、信じていますとも」

「ほんと?」

「ええ、勿論、ディアス様を! ですから邪神は取り除かなくては!」



 このディアス信者め。ブレない女だ!



「さっ、姫様ディアス様にお祈りをしに神殿へ参りましょう? 今ならきっと間に合います」

「ちょと、かってに入信させようとしないで。私、神でんきらい」

「まぁ罰当たりな! そんなお考えだから、変な妄想に取り付かれるのです。まったく世も末ですよ?」



 また、それだ。若かりしローレルも変わらず同じようだった。



「もういい、ローレル。私に早くドレス着せて」

「ようやく正気に戻りましたか? 姫様、ディアス様に感謝なさって下さいね」

「……」



 私はそれから何も言わず、大人しく侍女達にドレスを着せてもらった。このままでは埒があかない。ローレルには悪いけど仕方あるまい。


 「さぁ、準備が出来ましたよ。それでは、あちらに……」


 私はローレルに向かってニヤリと微笑む。


「ローレル、私これからお散歩するから、後は適当にディアス様によろしく!」


「姫様!!?」


 私は隙をついて猛ダッシュで自室を抜け出し、城内を走った。


 今がどうなっているのかサッパリ分からない。なんで私は若返っているの? いや、恐らく私だけではない。ローレルも若かった。だとしたらここは過去? でも私はあの時死んだはずなのに……なんで死んでないの? なんで、なんで?


 私は走りながら、グルグルと考えた。


 過去に戻ったって事はやり直しってこと? それともタイムスリップ? きっかけは、まさかアワビ? いや、そんなまさか。

 でも……死ぬ時はいつもアワビだ。


 何で? 


 アワビで死ぬと蘇る?


 まさか、馬鹿馬鹿しい。


 あれ? 死んだ時、誰か笑ってた。国が滅んだのは誰のせいだ? クソ兄とあの女が……。

 あの女? だれ?


 待て待て、段々以前の記憶が消えていっている。死んだ時の記憶が。


 ダメ、ダメ、消えちゃダメ!


 あの憎たらしいハロのくそっぷりな兄の記憶。消えちゃダメ!


 私は必死で頭をかきむしりながら、気づけば、ハロの部屋の前に立っていた。躊躇う事なく部屋の扉を開け、中へと入る。


「誰?」


 部屋の奥から少年の声が聞こえた。私は返事をすることもなく部屋の奥へと突き進む。


 そこには、鏡の前で身だしなみを整えていた美少年が振り返り、私を見つめていた。


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