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2.目覚めたら姫


 目覚めた天井はいつもと変わりなく、ひらひらとしたレースが層になっていた。私はぱちぱちと瞬きをしてから、大きく伸びをして、息を吸い込む。



「あぁ、私生きてる」

「おはようございます姫様。顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」



 侍女のローレルが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。



「おはよう、ローレル、大丈夫よ。少し嫌な夢を見ただけ」

「あら、不吉ですね。ディアス様にご祈祷なさいますか?」

「やめてよ。そんな、悪い夢くらいで祈祷なんてしないわ。何かある度にディアス教の祈祷を進めるけど、本当いい加減分かって。私は無宗教なのよ?」

「また、そんな事を仰って罰当たりな! 貴女は一国の姫様なのですよ? 神の申し子である王家の娘が無宗教論者だとは、世も末です」

「あのねぇ、ローレル。神なんてそもそもいないの。ただの迷信。人は所詮ただの生き物。本能は食べて寝て子孫繁栄。それだけなのよ。そもそも、無駄なこと考えるから神なんてものが生まれたんでしょ? 私は単純に日々を生きる、だけで十分です」

「まぁ、もう本当に、世も末ですね。でもそれだけの事が言えるのなら、元気な証拠です。大丈夫そうで安心致しましたよ」



 ローレルはそう言いながら私が着ていたフワフワのネグリジェを脱がすと、慣れた手つきで素早くドレスを着させてくれる。


 しかしローレルめ。世も末とは……いや、でも確かにそうかもしれない。さっき私の見た夢はまさしく私にとってのこの世の終わりだった。恐らく前世の最期の記憶というやつだろう。それにしてもなんて情けない記憶。不幸中の幸いなのか、ドジな私の前世の記憶は死に際の情けない最後の記憶以外は曖昧だ。

 ただの夢だと思いたい気持ちもあるけれど、夢にしては強烈すぎる感覚。あぁ、コレはもしかして前世なのかな? そう自分で思った瞬間、すとんと腑に落ち、納得してしまった。



「さぁ姫様、今日はお忙しいですよ。ジオルド陛下が凱旋されますからね。お昼には正装して頂きます。ドレスはそうですね、情熱を表現して真っ赤な色なんて、いかがでしょう? 姫様も今年で19才、大人の女性として、殿方の目に映らなくては」

「あードレスは何でもいい、好きにしていいわ。どうせ殿方の目を引いたところで、結婚相手はこの国の人じゃないのでしょうし。そもそも凱旋って言っても負け戦から帰ってきたんでしょ? それって凱旋って言わないんじゃないの?」

「凱旋です。我が国が勝ったのです」

「勝ってないわよ。敵国での篭城に兵糧が尽きて帰るって。全然勝ってないでしょ」

「……あの、姫様? 何故兵糧が尽きたとご存知なのです?」

「……えっ?」




 あれ? 何で私知っているんだっけ? 


 王の帰還が早まった事は皆知っている。でも何故早まったかは確かに誰も知らない。兵糧が尽きたって想像できるから? でも、それなら何でこんな早く兵糧が尽きたことを私は知っているの? そうだ、兵糧を担う部隊が襲撃され、敵軍に兵糧を奪われた。


 え? でも、だから何で私ソレを知っているの?


 私はローレルの顔を見て首を傾げる。



「何で知っているのかしら? いや、むしろ貴女は何故知らないの?」

「姫様、私は幼少期からずっとお仕えしておりますが、所詮は侍女です。そんなこと聞かれても困りますよ」

「そう。まぁ、でも、今回は負け戦なのよ」

 


 はぁ、と小さくため息を吐いたローレルは呆れたように首を振るとしゃがみ込んで私のドレスの裾を直した。



「姫様、本日の朝食はお久しぶりにハロルド殿下とご一緒ですからね。殿下よりも早めに支度をして、席に着かねばなりません。ですから……」

「えぇー、あのタラシと朝から顔を合わすなんて最悪よ。今日は、なんて最悪の朝なの」

「まぁ、姫様ったら! 実のお兄様をタラシだなんて、いけません。殿下は次期王になられる偉大な方なのですよ?」

「あんなのが王になるだなんて、貴女の言葉を借りるのなら、世も末よ」

「姫様!!」



それから私は、ローレルの雷と説教を、聞き流しながら支度を済ませた。

 侍女達に急かされダイニングの席に着くと、すぐに、朝食がテーブルの上に並べ始められる。と言っても、兄のハロルド通称ハロが来るまで私は食べられない。

 いわゆるお預け状態である。

 


「レミールが飲みたいわ。お願い」

「はい、畏まりました。姫様」



 空腹を誤魔化す為に、頼んだレミールはすぐに私の前に置かれる。暖かく甘いミルクのようなレミールをちびちびと飲みながらハロを待った。


 しばらくして、ドカドカと大きな足音と共に、私の兄、ハロルド・ヒール・ステマがこのダイニングにやって来た。

 王子が素敵だなんて、妄想を綺麗サッパリと打ち砕いてくれるようなハロは、でっぷりとしたお腹をユサユサと揺らしながら自分の席に座る。



「おいエメ、今日は父上の凱旋だぞ。お前もちゃんと可愛くしとくんだぞぉ。むふふふ」



 口と一緒に揺れる顎肉。何だコレは、この体たらく。贅沢しかしていませんと体全体で表したような体型に、品のかけらもない口ぶり。それが次の王になるのだ。もう、どうかしている。

 私はニッコリと笑いながら数年前から決まったセリフを口にする。



「兄様、おはようございます。本日も随分と醜いお姿ですね」

「まぁそう言うな。威厳さがあると言っておくれ。エメ」



 だから、どの面で威厳があると言うのか。飛べない豚はただの豚なんだよ。


 私は心の中で、そう呟きながらハロにニッコリと微笑みだけ返した。そして続くように、私の大嫌いな甲高い声がダイニング中に響く。


「皆さぁん、おはようございます。本日も素敵な天気。今日はとっても良い日になりそうね」


 何度聞いても耳障りなその声。

 しかし、その声を聞いたハロはニンマリとだらしない笑顔を彼女に向けるのだった。



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