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19.地下室攻防戦


 謁見の間の出来事から数日後、神殿ではマーキシア達が儀式の準備をしていた。今回の儀式は大々的に行うらしい。

 要するに私のお告げは嘘だと皆が思うように仕向け、公開処刑にするということだ。同時に聖女の力を見せ付け、信仰心を強める。マーキシアにとって良い宣伝も兼ねられるという目論みだろう。


 儀式という名の詐欺行為。神のお告げなど本来ならありえない。これは人々に神からのお告げがあったと錯覚させれば、それで良いのだ。だから、儀式には準備が必要なのだと思う。もしかしたら錯覚とはマジックのようなものかもしれない。だが、そちらに準備期間があるように、こっちも同じだけ準備期間があるのだ。ふふふふ。


「姫様、お顔がだいぶ醜いですよ」


 私の肩にお湯をかけたローレルが、ため息と一緒に呟いた。


「少し考え事をしてるの。ローレルはお湯をかけてて、風邪を引きたくないから」

「はい、姫様」


 暖かいお湯につかりながら、ローレルが肩に湯を流す。血の巡りが良くなっているのか、考えが良くまとまってる。多分。


 さて、そろそろ私も下準備をしなければ。問題は子供の私が、王宮を自由にうろうろ出来ないこと。自由に動けないなら動けるようにすれば良いだけだ。まずは、真面目に私の肩にお湯をかけ続けているローレル、こやつが邪魔だ。

 だが、私の作戦はとっくに実行済みであり、罠にかかっていることに本人は気づいていない。なんと、間抜けな! ふはははは!


 私の作戦、それは今日一日、ローレルを振回しまくってやったのだ。ダダをこね、好き嫌いをし、泣き叫び、嫌がらせをしてやった。お陰で今のローレルはくたびれて、今の私の態度に、いつものような悪態もつけていない。私はこれを狙っていたのだ。間違いなく、疲れ切っているローレルは、今夜私が部屋を抜け出しても気付くまい。他の大人に見つかったところで、いくらでも言い訳ができる。だが、このローレルとかいう馬鹿だけは、どうもうまく行かないことが多い。しつこく私に付きまとい、私の行く手を阻む。しかし今夜だけはそうは行かせない。


 ふふふ、ローレルの奴、肩に湯をかける手が止まり、うとうとしている。よしよし、順調だ。後は早くローレルを寝かせれば良いだけだ。


 私がバシャリと音を立てながら、一気に立ち上がると、ローレルは慌てながら私の体を拭き始めた。


 さぁ、待っているがいい。マーキシア。

 そう簡単に勝てると思うなよ。私はチートだ。


 すぐに寝巻きに着替え、歯を磨いてもらい、素直にベッドへ潜った。


「おやすみ、ローレル、今日は楽しかった」


「ええ、おやすみなさい。良い夢を、姫様」


 私はローレルに肩をぽんぽん叩かれながら、うとうとと、眠りに……って、私が眠ってどうする!


 寝ちゃダメだ。寝ちゃダメだ。

 計画が台無しになる。あぁでもローレルが優しくぽんぽんしてくれてるのが余計に眠気を誘う。ダメだ。眠い。眠いよ。


 失敗だ。この作戦には大きな欠陥があった。何故気付かなかったのだろう。私はローレルを困らせるために泣き叫んだ。そう…そうだよ、今の私は幼女、体力も幼女。そりゃ疲れて眠いはず。


 気を抜くとローレルの肩ぽんぽん攻撃で一気に沈む。くっそー馬鹿にしていた私が馬鹿だったか!!

 でも、ここでくじける訳にはいかない。


 私はシーツの中で自分の太ももを、ぎゅっとつねった。絶対寝ない、寝ないからな、ローレル。


 私は目を瞑り、必死で寝たフリを続ける。過去最高に死ぬ思いで起きていた。


 攻防戦は約30分は続き、ようやくローレルは私の寝室を後にした。この部屋の隣にある侍女室、自分の部屋へと戻ったのだ。


 し……死ぬかと思った。

 マジで落ちるかと思った。落ちたら私、公開処刑だ、世間的に死ぬ。


 なんとか眠気を覚まし、暫く時間を潰す。

 さて、そろそろ、ローレルも寝た頃だ。他の侍女が来る気配はないし、抜け出すなら今のタイミングだろう。


 私はローブを被ると、ロウソクを片手に静かに部屋を後にした。


 目指すは神殿。いいや、神殿の地下室だ。


 マーキシアに触れた時、私の記憶にはっきり見えた地下室。そこには薬があった。人を狂わせる薬、恐らく媚薬だ。その薬によってハロは狂わされ、私も……。最悪の過去だ。


 だが、その経験で分かった事は、あの媚薬はマジでヤバイと言うことだ。私の記憶通りであれば地下施設にあるはず。


 私は音を立てないよう早歩きで、神殿へと向った。こんな時間でも神殿では数人の教徒が儀式の準備をしているようだった。でも地下に入る為の扉には人の気配はない。私はバレないように体を丸め這いながら地下へ入る扉へたどり着いた。


 よしよし、順調だ。


 ドアノブに手をかけると、ガチャガチャと音がするだけで回らない。


 え?


 念のためもう一度回してみるが、回らない。


 嘘でしょ、開いてない?


 ざぁっと血の気が引いていくのが分かった。私は自分の計画のなさを思い知る。

 そりゃ、そうですよ。鍵が付いてるなら普通閉める。


 だが、まずい。これはまずいよ! 

 私大人なのに、何でこんな初歩的なミスをした!?普通閉まっているだろう。なぜ開いていると思った。なぜそう思えた。私の馬鹿っ!


 私は頭を抱えながら、周囲を見渡す。


 何か…何か、無いか? 鍵、落ちてたりしないか!? どっかに無いのか鍵! 周辺にやたら目立つ宝箱が落ちていたりして、鍵があるはずだろ。ゲームはそうだったのに!


 私は現実逃避から荒唐無稽なことばかりを考え、絶望から目を逸らしていた。


 やっぱりダメなのか……? 子供の私は所詮ここまで、何も出来ないのか。あの性欲女に……。


 私は開かない扉の前で膝をつき、蹲った。ちょうど頭に被っていたローブが微かに揺れる。


 風? どこから?


 私は顔を上げると小さく流れる風の方へと這っていく。


 辿り着いたのは通気口だった。地下室を囲うように等間隔で通気口が掘られているようだ。

 私はしゃがみながら通気口を見て回ったが、どれも小さい穴だ。それでも、何かあるのではと、通気口穴を探しまわる。


 あった!! ようやく見つけた場所は、石が崩れ、私の体がギリギリ入れるくらいの通気口だ。行けるか? と一瞬悩んだが、どの道行かなきゃ死ぬのだ。迷える状況じゃない。


 私はほとんど無理やり体をねじ込み、通気口に潜った。


 体のあちこちが痛い。石がめっちゃ食い込んでる。でも、突き進まねば。先に進むにつれ少し広くなったかと思った瞬間、急に足場がなくなった私は、そのまま地下室へと、落ちた。


 どんっとお尻に衝撃と痛みが走り、思わず「いたたた」と呟いたが、そんな痛みよりも、ここまで来れたことへの安堵感の方が勝る。

 うん、いけるぞ私。


 私は立ち上がり、地下室を見渡した。目の前にある戸棚にはいろんなビンが並べてあった。絶対、この中に媚薬があるはずだ。


 いけるぞ……運は私に味方している。


 私はそのまま戸棚へと足をかけた。


 ーーーーーーガタ、ガチャ。


 ん? 思わぬ扉の音に、体の動きが止まる。

 外から話し声が聞こえてきた。


「クラーフォル様、まだお部屋に入ってません。誰かに見られたら大変です」

「ん? 大丈夫、大丈夫。誰も見てはおらんよ」


 マーキシア!? しかも男連れ!?


 ちょっ、この地下室そんなに広くないよ。

 

 今扉が開いたら、見つかるっ!!


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