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18.はかりごと


 ディアス様からのお告げ大作戦で、ハロはそれから神殿に行っていない。よって、聖女マーキシアに会うことは無かった。でもそれは一時しのぎなのも分かっている。


 そして、少々困ったことに王宮では私のお告げが広まり、ちょっとした騒動にまでなっていた。まぁ、予想の範囲内でもあるが、にしてもこの展開は早い。


 私のお父様である、ジオルドパパがその話を聞くと、すぐに私を呼び出した。


 今いる謁見の間には、パパとハロ、そしてパパの重臣にマーキシアの姿もある。


 私はローレルに言われるまま、フードを深く被り、王から尋問を受けた。そう、これは、パパからの質問ではなく、王様からの尋問だ。


「では、エメラルドよ、お主が聞いたお告げとやらは、いったいどのようなものなのだ。詳しく聞かせてくれ」

「はい、陛下。神からのお告げは、気をつけろと」

「気をつけろ、それだけか?」

「はい。私はその時、とても恐怖を感じました。私がこの言葉を、神のお告げだと思えたのは、その恐怖です。感じたことのない恐怖。それは神だけが人に与えられるものです。神は多くを語りません。我々を試されるからこそ、お告げがあるのではと思います」

「うむ、エメラルドよ。お告げの影響か、今のお主の答え方や考えは成人のもののようだ。確かに信じるのもやぶさかではない」


 私は横目でマーキシアを睨む。確かにハロを神殿から離せるのは一時しのぎだと思っていたが、ここまで早く王が動くとは思っていなかった。

 恐らくマーキシアが何かした。いや、私の予想では、この女、重臣数名と肉体関係を持ったのだろう。確かに、天使のようなこの聖女様が性を使えば、大抵の男など簡単に動きそうだが、やり方が気に食わない。


「陛下、私が聞いたお告げは、きっとこれで終わりではないはずです。恐らくまた……」

「何? それはどういうことだ?」

「今は私の信仰心が試されているのです。ディアス様の信仰心を」

「姫さまっ」


 私の後ろでローレルが「うぅっ」と声を漏らした。十中八九、私の信仰心に泣いているのだろう。

 私は内心、呆れながら、続けた。


「陛下。いいえ、あえてお父様と呼ばせて頂きます。私は今までディアス様を信じていませんでした。それは皆が周知でしょう。でもディアス様は、そんな私にこの国の危機を知らせたのです。ディアス様に対して見向きもしなかった私に神であるディアス様は寛大にも私を許し、試練とばかりに私にお告げをなさった。ですから私はディアス様のお告げを、この国の危機を止める義務があるのかと考えています」

「待て待て、エメラルド。今、国の危機と? 神殿が危ないのではなく、この国に危機があるのか?」


 マズい、言い過ぎた。確かに聖女を野放しにしたらこの国の危機に繋がるけど、今は違う。過剰に言い過ぎてしまった。

 そもそもディアスなんて神、知らないんだし。あんな筋肉バカな神なんてどうでも良い。


 あぁ、どう言いくるめよう……。


「神殿の危機は、国の危機と変らないかと思いま……す?」


 待て自分。まずは神殿が危ないと言わないと、国が優先されて、ハロがまた神殿に通ってしまう。


「申し訳ございません。危険である優先順位として神殿が先です。それを蔑ろにすれば、何かしらの脅威がこの国を襲うのではないかと。ディアス様のお告げは分かりにくいので、まずは神殿の封鎖、それと周囲の警戒が得策かと」


 ふぅ、これでどうだ。


「また、お告げは来るか?」

「ええ、恐らく。危機を乗り越えるまでは……今はこの国の信仰心が問われています」

「そうか。よく分かった。マーキシアよ、そなたは娘の言葉どう思う?」


 ついに出番だな、性欲怪物。


「まさか、ディアス様のお告げが姫様に……もし、それが本当なら」

「勿論、聖女様もディアス様のお告げを感じ取れるはずです。だって選ばれた聖女様ですから」


 被せるように発した私の言葉にマーキシアがぎょっとした顔をしている。


「え…ええ。それは勿論ディアス様のお言葉は信じています。ですが姫様の感じ取られた脅威とやらは、残念ながら私には分かりません」


 ほほぉう。私と戦う気だな。コイツはただの馬鹿か策士か……私の記憶だと、マーキシアは性を使い、それを操ってきた以外特に何かをした映像は見えなかった。でも、こいつの化けの皮を剥がすチャンスは今かもしれない。


「聖女様が私を信じられないというのであれば、聖女様もちゃんと示して頂きたい。ディアス様のお告げが何故私に降りて、聖女様でないのか。例えばこの脅威、神殿からというより、神殿を任されている聖女様、マーキシア様が招くものかもしれませんよ」


 さぁ、聖女よ。いや、性女よ。私の挑発にどうする?


「姫様には申し訳ありませんが、私には今回のディアス様のお告げはよく分かりません。失礼を承知で発言させて頂くのであれば、無意味に危機を煽るのは子供の悪戯にございます。ディアス様がお言葉を下すのであれば、聖女である私の筈、それが無いのであれば、姫様のお遊びか、勘違いかと」


 ほほぉ、そう来るか。まぁ、妥当な返答だ。けれど、もう少し感情的になってもらおうかな。私、悪役は得意なんです。


「失礼ですが、聖女様は本当にディアス様のお告げを聞いてないのですか? 信じられません。本当は聞けないのではないですか? もしくは聞き忘れましたか? それともマーキシア様、あなた本当に聖女様ですか? 実際はディアス様のお告げなど聞いたことのない、まがい者のなのでは?」


 私の言葉に、さすがに王様が割って入る。


「エメラルド、言いすぎだ。聖女をまがい者とは」

「では、私がまがい者だと仰いますか? 聖女様は私の聞いたお告げを悪戯だと思っております。このディアス様のお告げにより私達を試されているのです」

「まてまて、押し問答をしてどうする。話をややこしくするでない」

「ややこしいことではありませんわ。聖女様がディアス様のお告げを聞きに行けばいいのです。お告げを聞く儀式がありましたよね?」

「エメラルド……何故それを知っている?」

「それは……ローレルが言っていましたので。ディアス様や神殿のこと色々教えてくれました。」

「そうか……そうだな。聖女殿にお告げを聞いてもらうのが一番早いか。マーキシアよ。苦労をかけるが近日中に、ディアス様へのお告げを聞く儀式を行ってはくれぬか?」


 マーキシアは深く頭を下げる。


「畏まりました、陛下。ディアス様のお言葉、聖女である私が、必ずやお聞き致します」


 ニッコリと天使のように笑うマーキシアは自信に満ち溢れていた。

 まぁ、そうだろう。儀式というインチキをするのだからな。そちらに有利な展開だ。思う存分、儀式を行ってくれたまえ。


 私は、聖女の記憶を思い出し、密かにニタリと笑った。

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