16.モザイク
ハロの上半身はしっとりと汗ばみ、湯気をあげていた。まだ、未成熟ながらも発達途上にある体つきに目のやり場が少し困る。
いや、それよりも、すがすがしいその笑顔を見た瞬間、沸き起こる苛立ちの方が勝った。
「エメ! やっぱり来てくれたんだね。ローレルが言い聞かせても、来ないかと思った」
ん? ハロも私がここに来ることを知っていた? なるほど……これは、納得だわ。
私はローレルを見上げる。
「図ったわね、ローレル。周囲を固めて私を逃げられないようにしたでしょう」
「いえ、姫様。一介の侍女がそのようなこと、これは全て、聖女様のご助言です」
聖女様だと? 思わず感情のままにマーキシアを見てしまう。
聖女マーキシアの名を持つ美少女は私にニッコリと微笑だ。その笑みはまるで天使。だが、いけ好かない。
私の表情がムスっとしたまま変わらない事を気にした聖女は申し訳なさそうに眉を下げた。
「姫様、ご気分を害されたのであれば、謝罪いたします。ですが、ローレルさんから姫様のことをお聞きしていて……何かお力になれないかと。殿下にもお頼みし、こうして強引とは承知しつつ姫様を神殿へと招かせて頂きました」
まぁ、それについては、ローレルが全部悪いとして、問題は、あのハロの姿だ。何故ハロは上半身裸!? 免疫ないので目のやり場に困る。というか、ハロもハロで、豚のハロじゃないから、美少年だから、本当に目の毒。
マーキシアめ。上半身裸とは良い度胸じゃないか!
「何故、ハロはあのような姿なの? あれじゃすっぽんぽん」
恥じらいながら、私が言うと、思いがけない言葉だったのか、マーキシアが慌てた。
「あっ、いえ、姫様」
否定するように両手を振るマーキシアの少し後ろににいたローレルが、私に向かって微笑んだ。
「姫様、殿下のこのお姿は儀式の為です。ディアス様にお祈りを捧げる為、この神殿に入る者は上半身を神に見て頂くのです。己の清き体と清き心で神と交信しなくてはなりません」
もっともらしいけど、何そのハレンチな宗教。
「え……それって私も?」
「あぁ、いえいえ、女性はそのようなことは致しませんよ。強き男性だけです」
それって女性にとっては、男の裸見放題? もしかして、この神殿って女性の娯楽施設なんじゃ……
いや、ダメでしょ。他は良くてもハロにとっては危険極まりない場所だ。だってこんな美人な聖女さんに裸を見られるって、下手すりゃ、何かのプレイになりそうよ。ダメよ。恋どころか、変な性癖を芽生えかねない。早いとこ、やめさせなくては。でも、これは宗教……簡単にはいかない。やっぱり様子を見るしかないだろうか。
多分今のところ問題はなかったのだろうし。
「さぁ姫様、ディアス様にお祈りを致しましょう。ディアス様の祝福を頂き、入信するのです。ディアス様は全ての人々を分け隔てなく愛してくださいます」
ローレルは言いながら、私に微笑んだ。
分け隔てなくって、めっちゃ分けてるじゃん。差別もしてるし、そもそもハレンチなんですけど。けど、ハレンチとは言いつつ男性の肉体美を拝めるのは悪くない……か?
「怖くない?」
私は幼女らしくローレルのスカートを握り、ビビってる風を装う。
それでも簡単に入信するつもりはない。聖女マーキシアは確かに美少女だが、それは表向きだ。お前がどのような者なのか、ハロに害をもたらし、この国を陥れる者なのか見せてもらおう。
怖がる私に向かって、マーキシアが「怖くないですよ」と手を差し出す。
よしよし、これを待っていた。マーキシア。貴様の本章は見せてもらう。私は密かにほくそ笑みながら、マーキシアの手を握った。
例のごとく電流のようなものが手に走ると映像が浮かんだ。
ハイヤッ! ハイヤッ! ハレ~エ~ル~ヤ~
ハイヤッ! ハイヤッ! ハレ~エ~ル~ヤ~
よく分からない音楽に合わせて合唱する人達が頭を駆け巡る。
なんなんだ? これはいったい。
………え? ちょっ、わわわっ!!
次の瞬間衝撃的な映像が映し出される。
簡単に言えばモザイクしか出せない映像と、音声は全部ピーの表現しか出来ない。
R指定のあるものは幼女は見てはいけないのにっ!!
脳内はハレンチその一言である。
ちょっ……それはダメでしょ。これ以上は見たくないっ。待て待て待て、やめてっ!!
男女関係なく性欲の限りを尽くしたその映像は、すでにカオス化。
ダメだ、クラクラしてきた。幼女の身体には刺激が強すぎる。
なんて言うことだ。天使のような顔をして、ピュアッピュアそうに見えるが、この女、性欲の化身だ。
止まらない膨大なエロ動画に、私の顔は熱を持ち、真っ赤に染まっているだろう。
「あら? 姫様、大丈夫ですか?」
マーキシアが私の異変に気づいた時には、すでに遅かった。
あぁもうダメだ。ドバっちゃう!
いつかと同じように、鼻から大量の鼻血を噴射していた。
こんなの耐えられない。
私はふらふらと倒れながら、マーキシアを睨んだ。
こ、こいつはダメだ。こんな性欲怪獣をハロに近づけてしまったら。ハロも性欲怪獣になってしまう。染まってしまったら最後。
心配したように私を見ているマーキシアの目が、私にはいやらしく映る。けど、コイツも私をいやらしい目で見てるに違いない。こいつは…こいつは際限がない。ショタも、幼女も、性別の垣根も超え、全てが性欲の対象として映っている。
やばい、やばい、コイツにおかされる。
本能的に身の危険を感じながら、私は神殿で気を失った。




